四十日目

朝。暖かい布団の中で目が覚めた。昨日は寒かったので、羽毛布団と、暖房をつけて寝ていたおかげか、目覚めがいい。


布団の中でミノムシみたいになり、ゴロゴロ動いていたら、左の方から布団が引っ張られるような感覚があった。


「ん??」


いつもと違うその感覚に目が冴える。ミノムシだった布団を少し剥いで、左側を確認すると……


丸くなって寝ている死神がいた。ぷーぷーと寝息を立てている。


(そうだった! 昨日ついに死神を見つけたんだった。見つけたと言っても帰ってきてたんだけど)


俺は、昨日風呂に入って優しくブローした柔らかい毛並みを撫でた。


「あたたかい……」


ぎゅっとハグしたいが、起こしてしまうのが勿体なく感じ、抱きしめたい衝動を我慢した。


(あ、そうだ! 久しぶりにご飯を作ってあげよう。触った時に少し痩せている感じがしたからな……いいもの食べれてなかったのかもしれないし……)


台所へ行き、ご飯を早炊きで炊いた。

ホカホカのご飯に海苔と、おかかと、ツナマヨと梅干しと……まぁ色んな材料でおむすびを作った。


もちろん定番の塩むすびも忘れていない。


「よし、ラップをかけてあとは死神が起きるのを待つだけ……と」


死神が寝ている側へ移動し、物思いにふける。

なぜ死神が姿を消したか……あの日様子がおかしかった気がしたのは気の所為ではなかったのだと思うと、なぜあの時してやれることがなかったのかと自分を悔やむ。


いや、なかったのでは無い。こうなるとは思っていなかったから対策が出来ていなかった。これは自分がそこまで考えが及んでいないが故の事故だった。


今考えても答えは出ないし、もう過ぎたこと。

死神が帰ってきてくれただけでも良かったと思うことにしよう。


俺は安心からか、眠りに落ちた。


「ねぇねぇ! 起きて!」


「ん??」


気がつくと日は登りきり、時刻は十一時を回っていた。


声のする方向を見ると、ほっぺに米粒をつけた死神が俺をゆさゆさと揺すっていた。


「起きてってば! もう昼だよ! いつまで寝てるのさ! お寝坊さん!」


「あー、わり、つい安心して二度寝してた……ここ最近夜中に目が覚めたり、上手く寝れなかったからな……本当に死神が帰ってきてくれてよかった」


俺は寝ぼける目を擦りながら上手く回らない脳をフル回転して言葉をしぼった。


「あ! ご飯ありがとう! 昨日何も食べてなくてお腹すいてたんだ……! あれ食べても大丈夫だった??」


少ししょぼんとした顔で上目遣いで俺を見つめてきた。

ほっぺに着いた米粒を取ってやる。


「あぁ、死神のために作ったからね。美味しく食べてくれたのならよかったよ!」


いつもと同じ日常。日常が上書き保存されていく。

そうだ、死神とこんな感じに穏やかに暮らしたい。

俺の願いはそれただ一つだった。


今はただ、こうやってふざけあっているだけで幸せなことに気がついた。


「ところでさぁ? 僕気づいちゃったんだけど……」


「ん?? なに?」


やけに含んだ言い方にじとっとした目で俺を見る。

なにかしたっけ? 気づいた?何に気づい……あ。


俺はゴミ箱に視線をそらし、すぐ死神の目を見つめ返した。


「そう。気づいたよね?」


俺は死神が居なくなってからカップ麺ばかり食べていた。

ゴミ箱にはまだ捨てれていないカップ麺の残骸が転がっている。


「やべっ」


「やべじゃないでしょー!!」


久しぶりに猫パンチをくらい、栄養不足も祟ってふらっと地面にしゃがみこむ。もちろん女の子座りで。


「こんな栄養ないものばっかり食べちゃダメでしょー! 自炊は!? しなかったの!? なんで僕が居ない時にカップ麺ばかり食べたのさ! 僕が怒るとは思わなかったの!?」


死神のおかんスイッチが入ってしまった。


「いや、でも本当に心配で気が気じゃなくて……」


「だ! と! し! て! も!! ちゃんと食べなきゃダメでしょー!!!」


肉球二連発。ごっつぁんです。


その後、ゴミを片付け初め、俺は死神に料理を教えてもらうことにした。


今では死神の料理の方が美味しく、飾り付けもプロっぽいものばかりだからだ。

あと……いつまでも死神ばかりに頼っていられないからね!


また居なくなる日が来るかもしれないと思うと……俺は到底やっていける自信がなかった。

なので今のうちに死神との思い出を沢山作ろうと。


そう思ったのだ。


「じゃあカレー作るよー! カンタンで二日ももつ! 魔法のカレー!」


(そんな理由でカレーを作ってたのか……? まぁ次の日何作るか悩まなくて済むけど……)


「まず! じゃがいもと人参を用意!」


「玉ねぎは?」


「僕が食べれないから無し!」


「あ……確かに」


鋭い目で睨まれた気がしたが、顔を逸らして無視をした。


「じゃがいもと人参の皮をむいてー! 手は猫ちゃん!」


「手はね……え??」


「手は猫ちゃん!! ほら! メモして!」


「えー……っと……手は猫ちゃん……」


「じゃーってやって、鍋に入れて、水ぶわぁーってして、ルーをポトン! あとはぐつぐつしたら……」


「擬音語すぎてわかんねぇ!!」


説明が説明になっていないのでメモなど無意味に近かった。


死神は感覚で料理を作っていることがわかっただけでも収穫としよう。


うん……


擬音語だらけで意味がわからなかったので、あとはレシピ本を見ながら作ることにした。

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