二十二日目(友人編)

「にしても本当に久しぶりだな! 元気にしてたか??」


「佐久間こそ元気そうで何よりだよ」


高校の時から相変わらず元気が溢れてるって感じだな。こいつのこういう所に救われた部分が何度かあるから多少空気読めなくても許してしまう部分がある。


「にしてもお前最近どうよ! 上手くやってるか?」


言葉につまる。濁らせるようにして目線をずらす。


「え? あー……うんそこそこね……」


「そこそこがいいよなー! あの時お前カメラを持たせたら別人になるからさいつもその感じならいいのにって思ってたんだよな! なんつーの? キリッとした感じ(笑)」


反応に戸惑いながらも昔の話に花を咲かせた……今の状況と悟られまいと必死に背伸びする。そうでもしないと自分が惨めに見えそうで耐えられなかった。


「俺最近新しい企画って言うの? プロジェクト任されてさ! めっちゃ緊張してやばーーーってなるけどここが踏ん張りどころだと思うんだよね! 頑張らないとな!」


「うん。佐久間なら出来ると思うよ」


「えー!? そんなこと言ってくれんの!? 嬉しいぞコノヤロー!!」


「うわ!? やめろってば!(笑) このやろっ!」


頭をガシガシ撫でられたので同じことをやり返した。学生時代もよくこうやってつつかれた思い出が脳裏に蘇る。懐かしさに涙腺が緩んだ。


(俺ももう歳になったかな…まぁもうすぐアラサーだけどさ)


学生時代の眩しかった青春の思い出を思い浮かべながら他愛もないひとときをすごした。


「せっかく大人になったからさ! みんな誘って飲みに行かね?」


「え? 俺は全然いいけどみんなって?」


「決まってんだろ!? 部活でお世話になった先輩と後輩だよ! 最近よく連絡取り合ってて飲みに行こうって話になってるんだよな! お前も来るだろ!?」


「あー……」


知らなかった。そんなに仲良くなってたんだ……

確かに先輩はよく話しかけてくれたし、新しく後輩も入ってきてくれて一時期写真部は人気の部活になっていた。


佐久間のコミュニケーション能力の高さを痛感した。


「いや……俺はいいや。仕事忙しいし……またの機会があったらその時行こうぜ」


「あー!! そうだよな! 休みが合うか確認してなかった! やっちまった! また誘うからその時は一緒に飲もうぜ! 酒のつまみを用意しとけよ!?」


手を振りながら嵐のように走り去って行った佐久間の後ろ姿を俺はただただ眺めていた。


「ふー……」


「さっきの誰?」


後ろから急に声をかけられた。死神が不思議そうな顔をして話に割り込む。


「あ……いたのか」


「いたのかとはなんだよ! 僕を無視して話し込んじゃって! 退屈してたんだよ!?」


肉球をほっぺに当てつけてくる。ご褒美としか思えないのだが。


「で! さっきのは誰??」


「さっきのが前話したことがある友達の佐久間だよ。写真部に誘ってくれたやつ」


「あ! あの時の人なんだ! へー! 久しぶりに会ってどうだった?」


どう……と言われても……


「んー……相変わらず元気そうで安心したって感じかな」


「ふーん??」


死神が含みのある笑顔をチラつかせたがスルーした。佐久間は佐久間で頑張ってるんだ。俺も頑張らないで何になるんだよ……


拳を握りしめ、悔しい思いで唇を噛み締める。


帰りに死神がスーパーに寄りたいと言ったので買い物をして帰ることにした。何を買うかは秘密らしい……

帰宅後キッチンに買ったものを並べると、死神から台所を追い出されてしまった。


「僕がいいよって言うまで見ちゃダメだからね!」


「はいはい」


ソファで時間つぶしにテレビを見た。相変わらず興味を引くものがない……

仕方が無いので癒されるために録画していたかわいい動物特集をぼんやり眺めていた。


(そういえば死神ってなんで黒猫の姿なんだろうか?)


そんなことをぼんやり考えていたら机の上に何やらお皿が置かれた。


「できたー! 開けてみてー!」


なんか落ち着きが無い様子で俺の様子をチラチラと伺いながら急かしてきた。


開けてみると、湯気がたちこもりいい匂いが鼻を刺激する。


「これは!」


「そう! 朝言ってた僕のお手製ハンバーグだよ! 完成までに時間かかっちゃったけど味は保証するよ!」


心の奥が温まる。今日頑張ってよかったー!!!

ハンバーグを真ん中から割ってみると中からチーズと肉汁がとろけて溢れる。

まずは何もつけずに一口……デミグラスソースを付けて一口……

うまっ!!!!

ファミレスより美味しい……これは食べる手が止まらない……!


無心でハンバーグをがっつく俺を死神が嬉しそうに眺めて、何かを目の前に差し出した。


「???」


「これもつけてみて」


死神の表情から察するに悪いものでは無さそうだが……

おそるおそるつけて食べてみた。

うまっ!!!!?


「なにこれさっきのジューシーな感じも好きだけどこれ付けたらめっちゃ口の中さっぱりする」


死神は嬉しそうに飛び跳ねながら流暢な説明口調になった。


「でしょ!? これはね! 紫玉ねぎを使ってピリッとさせてからレモンも絞ってるんだ!! 味を整えるためにニンニクペーストも混ぜて、隠し味に砂糖も入れちゃった!あとね! あとね!」


話が長引きそうだったのでとりあえずハンバーグを死神の口に押し当てた。


美味しい食事を食べれて他愛もない会話をする。

こんなに幸せになっていいのだろうか?

時より不安が襲ってくるが、今はこの状況を楽しもう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る