二十四日目

「行ってきます」


俺は重たいまぶたを擦りながら朝の支度を済まし、バスに揺られる。

時刻は八時十七分。

なぜこんなに朝が早いのかと言うと、昨日の夜に遡る……


「ねぇ?仕事の話なんだけどさ?」


「ん??どうした突然」


「えーっとね。写真関係ってどうかなって思って……だって君写真撮る時すごい楽しそうだったし、せっかくの才能活かした方がいいんじゃない?」


「確かになぁ……」


(っても直ぐにいい職が見つかる気しない……好きなことを仕事にできる人間は世の中にひと握りだということを学生時代の時に痛感したのだった。コンワに行ったら何かいい仕事が探してもらえるのでは!?確か前お姉さん?が就きたいものを見つけてからこいって言ってたし!)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


と、言うわけで今に至るのだ。

分かってる!分かってるさ!そんなの甘えだって!でも俺一人だとずっと悩んでばかりで職が見つからない気がしたからお姉さんを頼ることにした。


お姉さんと言っているのは何となくおばさんって言うのは気が引けたのでそう呼んでいるだけである。


「こんにちはー! あ! 前来てくれたお兄さん!」


「あ……ども、こんにちは」


どうやら受付の女の人に覚えてもらっていたらしい。ここから始まる恋があったりして……

まぁ、受付のお姉さん? 俺より若そうだけど、しっかりしてそうだし……可愛い。


鼻の下を伸ばしながら見ていると直ぐに番号札を渡されて席に座るように指示された。

(まぁ、そんな上手い話ないか)


席に座ると前のおばさん……お姉さんが待っていた。


「やりたいことは見つかったの?」


第一声がそれかよ……

嫌気がさしながら経歴書と会社を何個か受けたことを説明した


「まー……そりゃ落ちるわね。答えられなかったらダメよ」


「はぁ、まぁやりたいことは何となく考えてるのがあるんですけど……それにまつわる仕事があるかどうか……」


「あら! ちゃんと考えてきてくれたのね! てっきり今日もグダグダするのかと思ってたから助かるわ!」


(ひどいっ!!)


「で! 何がやりたいの?」


「えーっと……写真関係の仕事ってありますか?」


「写真関係……ね……」


しばらく黙り込んでしまった。なんとも言えない空気が張りつめる。


「ちょっと探してくるからあなたもあなたであそこのパソコンで求人サイトと直結してるから探してみてちょうだい」


「あ……はい」


やっぱり新卒とかだったらたくさん選択肢があったんだろうけど……中途採用となると条件が厳しくなってくる。

俺は奥のパソコンで調べてみることにした。


【写真 アットホーム 週休二日 中途採用】

カチッ


「うわぁ……思ったより色々種類あるけど。全部条件満たしてない……」


給料自体はいいけど、色彩学の検定が必要だったり。

週休二日。有給有。皆さんの自由な発想を活かしませんか?

アットホームな職場!初心者からでも大歓迎!学歴不問


(うさんくせぇー!!!!)


見れば見るほど明らかに嘘っぽい記事が並んでいた。さすがの俺でも気づくレベルの。


しばらくパソコンを睨みながらマウスを動かすがなかなかいい職場がない……というよりなんか変なページに進んでいるような??

同じような会社が並んでいるから次第に目が慣れてきてどれも代わり映えのないものに見えてくる。


「俺には無理かもな……」


ポソりと呟いて顔を上げると結構時間が経っていた。そろそろお腹も空いたし帰ろうかと思っていた時。


「あー! よかった! まだ残ってて」


遠くからドスドスと聞こえそうな足でお姉さんがこちらへ向かってきた。


「どうかしたのですか?」


「もう! 忘れたの!? 私の方でも探すって言ってた……もういいわ。とりあえずこれ見てちょうだい」


三ページくらい印刷された用紙を渡された。紙を目を落とすと広告会社のページにマーカーが引いてあった。


「広告会社?」


俺はずっとカメラ系の仕事を探していた。それもまさにフォトスタジオとか、そんな感じのところを。

広告会社と写真って関係あるんだろうか??


「そう。探すの苦労したんだからね! 全く! この会社ね、Webデザインができる人を募集しているのよ。例えば撮った写真をトリミング(画像のサイズを変える)して記事にしたり、物の配置をしたりとかね。あなた確かワードとエクセル使えるのよね?フォトショップはいじれる?」


「はぁ、まぁパソコンを使う学科だったのである程度は」


「ならよかった。初めのうちは教えてくれるらしいからとりあえずこれを考えてみるのはどう?今日はもう遅いからまた来た時に面接の練習とかしてあげる」


また追い出すようにしてしめ出された。

だが、前回と比べて心は軽くなっていた。前回よりお姉さんが優しい気がする……なんだかんだ言いながら面倒みがいい人なんだろうな……


印刷してもらった広告会社の紙を眺めながらバスに揺られる。


「ただいま」


「あ! おかえりー! 今日はどこ行ってたの!?」


「あー……ちょっとな」


「なんか嬉しそうだけどいい事あったの?」


「ちょっとな……」


顔が赤くなるのを抑えながら家で広告会社について調べるべくパソコンを起動した。

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