十五日目
頭痛で目が覚める。昨日かなりの量飲んだらしく二日酔いになっていた。
俺は頭がガンガンするのを必死で我慢し、頭痛止めを飲んでしばらくソファで休むことにした。
外を眺めていると、昨日ベランダで飲み散らかしたそのままの状態でごみが散乱していた。
俺は深いため息をついて頭痛に耐える。
「あとから片付けよ……」
今は二日酔いを何とかする方が先だった。そういえば、しじみが二日酔いに聞くとか聞いたことがある。朝ごはんもまだだったのでインスタントのしじみ汁をストックしていたかどうかを確認してみたら。
あった……奇跡的に一個だけ残っていた。
すぐにお湯を沸かしてしじみ汁を作る。口の中に旨みが拡がってさっぱりする。
俺はしじみ汁を飲んで落ち着きながらテレビをつけてぼんやりと眺めていた。
「たっだいま!!」
勢いよくベランダの扉が開いた。死神がにこやかな笑顔で足についた泥を落とす。
ベランダから帰ってくるところは2回目なので、あまり驚かなかった。
「あぁ……おかえり! 今日も仕事してたのか?」
「そう! 聞いて!? 昨日! 僕初めて飼い犬を見送ったんだ! 犬の魂なんて初めてだったからすごく緊張したよ!! あの世に送り届ける時に暇にならないように生きてきてどうだった? とか話しかけてたんだけどさ……なんて返ってきたと思う?」
「んー? 楽しかったです!……とか?」
「残念!! 正解は……わんわん! だって!(笑) 犬語なんて僕わかんないからもう訳が分からなくてさ!」
「わんわんって返事したら何言ってるの? って顔で見られたし……もーわかんない!!! 犬語難しい! そのあとしばらく無言のまま送っちゃった!」
今日も死神は元気いっぱいで俺まで生命力を奪われている気がした。
「今日も元気いっぱいでよござんすね」
「何変な喋り方してるの? って言うか……ずっと思ってたんだけど」
死神は部屋を見渡した。
「これ……どういうこと?」
ベランダにはお酒の瓶と、おつまみの残骸。部屋中には昨日の焼肉の匂い。ソファの上には取り込んだ後の散らばった洗濯物。キッチンにはまだあらっていない食器類が散乱していた。
死神はわなわなと肩を震わせて深く息を吸い込んだ。
「掃除しよう!」
「今日からお休みなんだから! この機会に掃除しようよ! 僕ずっと気になってたんだよね! テレビの裏とか! 窓の汚れとか!」
埃(ほこり)がよくたまる場所を指でなぞって顔をひきつらせる。有無を言わさず、ふきんを濡らして俺になげつけてきた。
「君はキッチンのものから片付けて! 僕は洗濯物先にするから!」
「お……おぉ……おう」
死神の圧に圧倒されながらも食器を洗い始める。ゴミの分別を終わらせて、シンクを丁寧に洗う。
次にベランダの飲んだあとの残骸(ゴミ)をまとめてゴミ箱に捨てる。死神にどやされながらホコリがあるところを中心に拭き掃除が始まった。
「こういう所もちゃんとやらなきゃ! 放電するかもしれないんだぞ!」
死神に昔の新聞はあるかと聞かれ、とりあえず昨日の新聞を手渡すとちぎって少し濡らしてホコリがあった場所に敷き詰めた。
(おばあちゃんの知恵??)
死神がやる所をぼんやりみていたらまた死神に怒られた。
「早く終わらせないと! 日が暮れちゃうよ!!」
俺はホコリ取り、窓拭き、普段使ってない本棚の整理や、もう着なくなった服の分別をした。
かなりの大掃除だが、ひとつの場所を掃除し始めたら他のところが気になり、別のところを掃除するのを繰り返していた。
掃除が終わる頃には要らないもの用のダンボールが2箱分あり、部屋全体が広くなったような感じがした。
「ふー!! お疲れ様ー! めっちゃスッキリしたじゃん!! あとは換気して……っと」
窓を開けた瞬間大きな蜂(はち)が部屋に入ってきた。
「うわぁ!? え! 蜂!? 僕! 虫! 無理!!」
完全に語彙力が消え、死神は部屋中逃げ回る。
俺は瞬時に蜂バスターと虫取り網を用意し、蜂に勢いよく吹きかけた。
フラフラと弱る蜂に申し訳ないと思いつつ、虫取り網で捕獲し、ベランダにそっと置いて窓を閉めた。
「う……わぁ……君……虫大丈夫な人??」
「んーまぁ田舎育ちだったし……よく蜂とか庭に飛んでたよ?」
信じられないという顔をしてしっぽをぶわっと膨らませた。
(死神は都会育ちなのかな?)
田舎ならではの虫のエピソードや、田んぼのはなしなど
田舎あるあるを死神に話してやると、目の瞳孔を開いたり閉じたりしてビクビクしながら話を聞いていた。
興味はあるらしく、それでそれで?と言うふうに話を聞いてくるので死神がビクビクしている反応を俺は楽しんだ。
部屋がすっきりして気持ちも清々しいので、俺はなにか死神に作ってやることにした。
確か、お米はまだ残っていたし、猫といえば……
俺はスーパーに行って刺身を購入し、酢飯を作って机の上に置いた。
「へー! 君が料理するなんて珍しいね!」
「掃除を手伝ってくれたお礼だからな! たまにはこういうのもいいだろ?」
「ところで……これなに?? なんか酸っぱい匂いする……」
不安げに酢飯に鼻を近づける。
「これはな……こうやって食べるんだよ」
俺はパリッとした海苔を一枚取り、酢飯を乗せて刺身をトッピングした。
「じゃじゃーん! これが手巻き寿司だ!!」
死神に見せびらかすようにして手巻き寿司にかぶりつく。
「こうやって食べるんだよ! 刺身は好きな物入れ放題だ!」
「入れ放題!?」
死神も俺の真似をするようにしてご飯を盛りつける。マグロの量の方が多い気がしたが……まぁ嬉しそうに食べてくれる顔を見ると癒される。
(ちょっとお高いマグロ尽くしのパックを買って正解だな)
心の中で呟いて俺もまぐろ増し増しの手巻き寿司を頬張った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます