四十一日目

目が覚めると横に死神がいる。

毎日当たり前に起きていた日常が戻ってきたことに安堵した。


「おはよう死神」


「むにゃむにゃ……んー?? おふぁよ〜」


死神はくぁっと欠伸をして毛並みを整える。


「なぁ死神」


「ん? なに??」


「今日俺仕事に行くけど、久しぶりについてくる?」


「んー……今日は僕も仕事があるから遠慮しとく! お誘いありがとう!!」


「わかった。そこで死神に聞きたいことがあるんだけど……」


俺はずっと聞きたかったことを聞いた。


「今日仕事終わったらなんで家を出たのか、なんで初めに出会った時あの場所にいたのかとか……いろいろ聞きたいことがあるんだけど、今度ははぐらかさずに教えてくれるか?」


「………わかった。ここまで大きくしてしまったもんね……帰ったら全部話すよ」


その言葉を聞いて安心した俺は、優しく死神の頭を撫でて、会社に行く支度をした。


今日は二日ぶりに会社に行く日だ。

土日が色々あったからか、働くのがすごく久々な気がする。

帰ったら死神の話を聞ける喜びと不安を抱えながら仕事へと気持ちを切り替える。


「おはようございます!」


元気よく入る俺に周りの目が集中した。

目が逸れたかと思ったらまた一気に目が集中した。

綺麗な二度見だった。


「おはよう!! 今日元気だね! どうしたの? なんかいい事あっぶふっ」


「まぁまぁ落ち着けって、ごめんな佐々木がずっと土日もお前のこと心配してたからよ」


「うっるさいわね! そりゃあんなに元気がなかったら心配もするよ! 何かあったの!? もしかして弟さんと連絡取れた!?」


怒涛のラッシュに気迫負けしながら心配かけさせてしまったことに謝罪した。


「心配いただきありがとうございます。はい! 実は弟とまた会えまして……それが嬉しくて仕方がないんです!」


満面の笑みを向ける。俺の初めての心からの笑顔に周りが一瞬どよめいた。


「じゃあ仕事に戻りますね」


なぜ周りが固まったかわからなかった俺は自分の机に戻って仕事を始めるべくパソコンを立ち上げた。

ずっと顔が緩んでいることに気がつかなかった。


「ねぇ……あの人ってあんなふうに笑えたんだね……」


「あぁ、俺も驚いた」


その後今朝の話が噂話として社内を駆け回ったのは俺が知る由もなかった。なにせ本人のいない所で噂になっていたからだ。


死神が戻ってきてくれて、いつもより集中力が高まり、仕事が捗る。


お昼休憩で久しぶりに死神お手製のお昼ご飯を食べて元気が出てきた。今日は俺の好物のミニハンバーグを弁当に入れてくれていた。


(相変わらず美味いなぁ)


旨味と喜びをかみ締めながら仕事に戻る。


早めに仕事を終わらせて帰ろうとした時当馬さんに呼び止められた。


「ちょっといい?」


「え? はぁ、どうかしました?」


また仕事の話かなとか思っていたが……予想は大きく外れた。


「今日この後って空いてるかしら?」


「あ、今日はすみません……早く帰らないといけないのでまた今度埋め合わせしますのでお先に失礼いたします。お疲れ様でした」


そう言うと足早に会社を出た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「とーうまさんっ! どうでした!? 一緒にご飯行く約束出来ましたか? あれ? もう新人君帰ってるの?」


当馬さんは悲しそうな笑顔で諦めたように口からこぼした。


「私じゃダメみたい……」


「え!? 当馬さんを振るとかありえない! ちょっと一回抗議しに……」


新人君を追いかけようとする私を当馬さんは引き止めた。


「あの人も悪いわけじゃないの。私がずっと付きまとってたから……一目惚れしちゃってたんですもの私が一方通行に想いを押し付けていただけで彼は何度か答えてくれようとした。それだけで私は幸せよ。私のために怒ってくれてありがとう」


「むー……当馬さんがそこまで言うのなら……」


「ふふふありがとう。佐々木さんは優しいわね! 時々宮田くんが羨ましくなるわ」


「え!? なんで宮田が!?」


「だってこんなに可愛い彼女さんがいるんだもの!」


隠していたのに当馬さんにバレてしまった。そう、私と宮田は去年から付き合っていたのだ。


照れるのを誤魔化すために当馬さんの背中を叩きまくった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ただいまー!」


「おかえりっ!」


疲れと喜びで玄関に靴を脱ぎ捨てて死神に抱きつくように倒れ込む。


あーふわふわして気持ちいい。お肉も少し戻ってきたし、何より肉球最高!!すーはーすーはー


「あ、ひょっ! ちょ! くすぐったい! 臭うのやめてってば!! この変態!」


後ろ蹴りが顎に直撃し、少しほっぺを噛んだ。

口の中に鉄の味がするが、自業自得だろう。


「いやぁ、仕事疲れたよ。癒してくれよ死神」


「僕の仕事は死神の仕事であって癒しは専門外ですー」


「えーー?? でもこうやって話してるだけでもだいぶ癒されるよ」


ニコッと死神に向けて笑顔を放ったが、弾き返されてしまった。


「さぁ、仕事から帰ってきたから本題にはいるけど……」


さっきのふざけていた空気から一転して、緊張が走る。


「なんで突然姿を消したのか聞かせてもらうよ」


「わかった。今度は逃げないから」


そう言うと、死神は重たい口を開いた。

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