四十一日目(死神の謎編)

「僕はね、元々黒猫だったんだ」


そう言い始めると、細かく起きたことを教えてくれた。


幼い頃黒猫として生まれ、母猫に路地裏に置いていかれた。

その間兄弟もいたから必死に食べ物を集めたけどやっぱり兄弟は衰弱して行き、僕はもっと沢山食べ物を持ってこなきゃって思って遠くまで出かけたんだ。


その時に車に轢かれちゃって……

そのまま……


その時、僕の近くにも死神がいたんだ。

その死神から教えてもらったのが、僕はまだ死ぬ運命じゃなくて、本当は助からなきゃいけない命だったんだって。


それでね、死神のタブーだってことを教えてくれたの。

ほら、出会った時に言ったでしょ?


"君はまだ死ぬ時じゃない"

って


あれはね、そういう意味で、生き物には寿命が決まっていて、それとは別に個体ごとに死ぬ時が決まっているんだ。

僕はその死ぬ時より前に死んでしまったから死神はタブーを犯しちゃったって訳。


だからね?

僕を死なせちゃったから死神は罰を受けるところだったんだけど……死神が死者の世界の神様にお願いして僕を死神にしてくれたんだ。


でも、死神として何も知らない僕が生きている人達の世界にずっと居たらダメらしいから、僕は一人前になるまで死者の世界で死神の勉強をしていたの。


タブーにも色々あって

・死ぬ時でない命を奪うべからず

・死ぬ時をすぎた命は速やかに黄泉(よみ)へ送るべし

・生きているものに深く干渉するべからず

・次の魂を刈る時連絡はカラスに伝えるべし


他にもいろいろあるけど大切なのはここら辺かな?


一人前になるまでに何年かかったかは思い出せない。

先輩の死神と一緒に生きている人達の世界に来たこともあったし、仕事を間近で見ながら勉強もした。


たくさんの人の命が一日で無くなっていく。


その一日だけ。人には僕らの姿が見えるんだ。

だからその人を上手く誘導して連れていくためのコミュニケーション力とか、落ち着かせたりする仕事も僕達の仕事なんだよね。


その研修の時に相棒として組んだカラスがいたんだけど……


何度か家に来てたから焦ったよ(笑)

すぐ帰ってもらったけど僕は監視されてるということがわかった。


まぁ、その後研修を終えて、一人前になって生きている人達の世界に来たというわけさ!


たんたんと喋る死神。だが、内容は思いのほか残酷だった。


そんな生活を今まで送ってきたのか……でもまだ教えて貰ってないことがある。


「なぜ俺と出会った時あの場所にいたんだ?仕事終わりでくつろいでいたのか?」


死神は少し俯いて、少し泣きそうな顔で俺の目を見た。


「それはね。僕が最初に受けた仕事は……」



ーーーーーーー君を見届ける仕事だったんだーーーーーーー



「え?」


衝撃だった。出会った時助けてくれたからてっきり助ける仕事の方かと思っていたからだ。

俺は全身を鋭い電磁波が走った。


「でも僕は君を助けてしまった。これが僕の犯したタブーのひとつ」


もうひとつが……君とずっと居たこと。


でもどうしても君を死なせたくなかった。


人が死んでいく姿を見るのは初めてではない。

死神としての覚悟もできていた。

だけど君が話しかけてくれた時、あの時僕の覚悟は揺らいでしまったんだ。

死ぬのが嫌だ。生かせてくれ。まだ生きたい。せめて子供の顔を見てから……

こんな言葉ばかり聞いて命を刈り取ってきた。


だから僕に優しく話しかけて、笑顔で落ちていく人は見たことがなかった。


僕は内心怖かったんだ。

君が死んだら……僕は連れていかなきゃいけない。

でももし生きていたら……?


僕は人が目の前で死んでいくのは嫌だった。本当は嫌だったんだ。

できることなら全員助けたいけど……そうしたら今度は僕が……


涙がぽつりとこぼれおちた。


「そこで僕はタブーを犯した。でも後悔はしていないよ?」


そこで死神がニコッと笑って俺の額に頭をくっつけた。


「君と出会えたからね」


涙が下に一滴……二滴……ぽたぽたとこぼれおちた。


つられて俺も目頭が熱くなる。


涙が出るほど苦しんでいたのは知らなかった。知ろうとしなかったのかもしれない。


俺は優しく死神の頭を撫でて、抱きしめた。


「今までずっと我慢してたんだな……」


腕の中で静かに溜めていた涙を流す死神。


その涙はいつもより暖かく苦しかった。

過去の痛みは俺はわかってあげることが出来ない。

代わりにしてやれることはなにか必死に考えたが思いつかない。

ただただ一緒になって泣いて……気持ちを共有した。


「なぁ死神。教えてくれてありがとう。言うのも辛いだろうに教えてくれた。俺はその言葉が聞けて嬉しいよ」


涙は途切れることなく流れる。


俺と死神は抱き合い、泣き合い、ただそこにお互いがいることを実感した。


(俺はひとりじゃない。死神がいる。例え近くにいなくとも心は通じてる。そう信じているから……)

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