思い出の街
死神とさよならをした後、俺は眠りに落ちていた。
朝起きると、やはり死神はいない。
透き通った空気がただただ流れているだけの部屋にただ一人だけ残された気分になった。
一つ、大きく違うのは、死神が急にいなくなった訳ではなく、最後を見送れたことだった。てっきり記憶を消されるもんだと思ったが、俺はこうして覚えている。
それが残酷なことなのか、はたまたラッキーなのかは俺には分からない。
だが、こうして覚えてるということはいい事のように思えた。
俺はこれまでの出来事を振り返った。
独り言のように何も無い空間に思い出を並べるように。
「出会った時は本当に驚いた。死のうと思って自殺の名所に行ったのに黒猫がいるし、急に猫が喋るんだから……家に帰ると急に一緒に住むと聞いた時は何度追い出そうとしたんだろうなってくらいだったのにな」
「会社に着いてきた時は驚いたな。まさか着いてくるとは思わなかったし……周りに見えていない存在だけど俺だけに見えていることもあり、奇行扱いされたこともあったな」
「次の日は俺のためにおむすびを作って、肉球火傷させて………本当になんであそこまでしてくれたのか分からないよ。追い出そうとしてたのにな(笑)」
「その日のお昼おむすび食べられなくて申し訳なかったな……あの時、次に作ってくれたものは絶対残さず食べようって決めたな……」
「確か、その次の日おにぎりを振舞ってくれたんだっけ? あれは美味しかったな……」
「その後感動しすぎて目を泣きはらしてたな(笑)死神も疲れている様子だったから銭湯に行ったっけ? 死神溺れかけてたけど、銭湯気に入ってくれてよかった」
「お土産の煎餅は意外と美味かったな……」
「次の日、仕事で大切な書類が期限近かったからめっちゃ急いでたら天野に助けてもらったな……」
「次の日急に課長の小野田さんに呼び出された時はびっくりしたよ。何度思い出しても理不尽に怒る人だったな……毎日家に帰ったら死神がいる嬉しさを感じたのはこの頃だったのかもな」
「その次の日も呼び出しくらって挙句濡れ衣被せられたからからたまったもんじゃないよな……何を根拠に俺を犯人にしたかったんだろうか?」
「まぁでも、死神にレシピ本を買ったおかげで美味しい料理が食べれたのは正直感謝しかない」
「たしかそれから積極的に死神がご飯作ってくれるようになったっけ? あれは嬉しかったな」
「でもその日の夜に死神に強く当たってしまった。死神が悪い訳では無いのに酷いことした」
「その次の日、周りからのいじめに耐えきれず自殺を考えたな……あの時死神が止めてくれなかったら今の俺はいないと考えるとゾッとする」
「いつものお礼で次の日に俺がご飯作ってやったんだっけな? あんなに美味しそうに食べてくれると作ったかいがあるな……その次の日も、アイシング? も楽しそうに作ってくれたし、俺もちっちゃい頃よく親と一緒にクッキー作ってたな……」
「その次の日に退職すると決意したんだよな。結局ダメだったけど死神にカツ丼を作ってもらってなんとか辞めることが出来たんだよね」
「しばらく酒を飲んでたら死神に汚いって怒られたっけ(笑)大掃除した時に虫が入ってきた時は大変だったな」
「ホラー映画も見たなぁ。面白くなかったけど死神は沢山怖がってて可愛かったなー……」
「久しぶりにスポーツセンターにも行ったな!歳を忘れてゲームセンターではしゃいじゃったりして、次の日筋肉痛で大変なことになったけど……楽しかった」
「湿布貼って追いかけたこともあったなー……看病? してくれようとして写真立てたおしちゃって……今思えば些細な出来事。写真をすごく褒めてくれて嬉しかったな」
「写真の話したら死神が急に外に連れ出してカメラで写真を撮れって言われた時はおどろいたよ(笑)」
「でもいい気分転換になったから感謝が止まらない」
「あぁ、そうそう! 確か、俺の改造計画も立てられてたよな。髪型変えて、スーツ買って(笑)」
「あとは……そうそう、その次の日は……」
思い出が昨日の事のように鮮明に思い出す。
楽しかった思い出。悲しかった思い出。怒った思い出。泣いた思い出。全部。大切な思い出。
思い出す度に涙が込み上げてくる。
「なんで……こんな出会い方したんだろうな……」
こんな出会い方じゃなければもっと遊べたのに……
もっと楽しいことしてやれたのに……
もっと思い出作れたのに……
もっと一緒にいれたのに……
俺は運命を悔やんだ。悔やんで悔やんで……心の底からなにか温かいものが込み上げてきた。
「そうだよなぁ……死神は俺を悔やませるために離れたんじゃないもんな……俺が泣いてちゃダメだよな」
俺は死神と一緒に撮った写真を眺めた。
写真には俺しか写っていないが……隣に死神もいる気がして自然と元気が出てきた。
「俺も頑張らないとな……」
ずっと家にいても考え込むだけだと思い、気分転換に外に出ることにした。
思い出の町を記憶を焼き付けるために。
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