第19話:五人集まれば、文殊の知恵?
◇ ◆ ◇
──それから十日ほど後
「ここがあの女のハウスね!」
「芽衣? なんだそれ?」
「……一度言ってみたかっただけ!」
純と芽衣は、小町の住むマンションの前にいた。
季節はもう七月も中旬にさしかかっていて、学校の期末試験が近づいていた。
小町の提案で、皆で集まって期末試験に向けた勉強をしようということになったのだ。
その話を聞いた芽衣は、強引に純に同行したというわけである。
──ピンポーン──
純が集合玄関のチャイムを鳴らすと、すぐに小町の声が聞こえる。
「は〜い」
「こんにちは。如水です」
「今、下に行くから待ってて」
少しして小町がノースリーブのブラウスに、膝丈ほどのスカート姿で現れた。
「お待たせ〜」
「いえいえ、お招き頂きありがとうございます」
純がフォーマルな喫茶店の店員かのように、腰を深く曲げて挨拶する。
そんな純を見て小町は微笑んで、隣の芽衣にも視線を向けた。
「ふふ……純くん堅苦しいよ。芽衣ちゃんも、こんにちは」
「小町さん……勉強するってのにちょっと露出が多過ぎじゃないですか?」
「こっ……これぐらいが快適なんだよ。もう夏で暑いしさ」
ジト目で睨む芽衣にたじろぎながら、小町は二人を部屋に案内する。
三十階ほどあるマンションの、ちょうど二十階に小町の部屋はあった。
「黒崎さんはもう来てるからさ」
そう言って玄関の扉を開け、リビングへ誘導する。
黒崎巡と小春が、リビングの四角いローテーブルに着いていた。
二人は立ち上がって、新たなゲストを迎えた。
「こ……こんにちは」
「ちわーっす」
「え〜と……こっちが純くんの妹さんの芽衣ちゃんだよ。こっちは私たちのクラスメイトの黒崎さん。あと、これはうちの姉の小春……一応、大学生」
小町が全員を紹介する。
「これとはなんだ、これとは〜。それに一応ってなんだよ〜?」
ぞんざいな扱いを受けた小春が抗議の声をあげる。
「大学生だけど勉強は全然だから、教えてもらうとかは期待しないでね」
「しょうがないだろ〜、芸大生なんだからさ〜……。まぁ、勉強始まったらテキトーに家の中をうろちょろしてると思うけど、よろしくね」
小春の通っている芸大の入試では、簡単な国語と英語の試験があったものの、実技試験がほとんどのウェイトを占める。
普通の大学生の受験勉強はほとんどしていないのであった。
「あ、あの……黒崎巡と言います。芽衣ちゃん……よろしくね」
「ふぅん……」
芽衣は挨拶をした黒崎巡を舐め回すように見て思う。
(この女も、お兄ちゃんの事を狙っているのかしら? 意外と胸も大きいし……)
「い……いえ。私は、ただの……友達ですよ! 安心して下さい。それに……そんなに……胸もないですから!」
「?? ……そうなんだ?」
口に出してもいない事に反応されたことに戸惑いながらも、芽衣は敵意を少し和らげた。
「ふふ……芽衣ちゃんはお兄ちゃんが……大好きなんですね?」
巡が笑うと、芽衣は顔を赤くする。
「ななな……なに言ってんですか!? こんな
「おいおい、芽衣、邪魔しちゃダメだぞ」
「もう! お兄ちゃんは黙っててよ!」
「まぁまぁ……とりあえず皆、座ってよ」
収集がつかなくなりそうなところを小町が取りなして、それぞれテーブルに着く。
◇ ◆ ◇
座布団の上に各自が自由に座ると、純の両隣に芽衣と小春、その向かいに小町と巡が座っていた。
「……って、なんで私がここなのー!?」
「え〜、小町なにか不満なのよ?」
「あのさ、芽衣ちゃんがそこなのは分かるけど、お姉ちゃんがそこに座るのは全く意味が分からないんですけど! 勉強もしないくせに!」
「ふふ……小町さんは、純くんの隣が良いみたいです」
「──っ──。ほ、ほら、ドラマのプロモーションの歌を覚えるので、ちょっと最近忙しかったから勉強遅れちゃってるからさ! 純くんに教えてもらおうと思って! ほら、純くん結構、頭良いし?」
小町がバタバタと手を振ってごまかすのを、巡と小春はにやにやとしながら笑う。
芽衣は不機嫌そうだ。
「お姉ちゃんは飲み物でも用意しててよね!」
「え〜? 仕方ないなぁ……」
しぶしぶと言った様子で、小春は立ち上がった。
「じゃ、じゃあ、私たちは勉強始めよ。だべってたらずっと始まらない気がするし……」
「「「はーい」」」
そうして四人で勉強が始まった。
純と小町と巡は、高校の教科書や参考書を開いて、芽衣は中学校のものを広げている。
「ねぇ、お兄ちゃん、ここ教えて?」
「うん」
「お兄ちゃん、ここは?」
「え〜と……」
「お兄ちゃん、これ分かんない」
「え? しょうがないなぁ……」
勉強が始まってすぐに、芽衣が純を質問攻めにしていた。
「ねぇ……芽衣ちゃんさぁ、分かってて聞いてるよね?」
小町から見て、明らかに簡単な内容の質問だった。
「え〜、そんなことないですよ〜。私、勉強苦手なので。テヘッ!」
「……ふぅん……」
気をとりなおして、小町は自分の勉強に集中しようとする。
まずは英語の問題集を進めていく。
しばらくして、一つの問題で手が止まった。
「え〜と、『六月は五月の後だ』を英訳せよ……か。う〜ん……」
すぐに答えが分からなかったので、教科書の例文を参考に、ノートに答えを書いていく。
「June comes after May …… かな? ん?」
ふと気付いて純に声を掛けた。
「もしかしてさ……純くんの誕生日って六月だったりする? 芽衣ちゃんが五月で」
「ええ、そうですよ」
「私は……さっき名前を聞いたときに……そうかなって思いました」
肯定する純に、予想通りですねといった感じの巡。
「えぇ〜!? わ、私って……」
何で気がつかなかったのか……。
「うぷぷっ! 小町さん、高校生のくせにそんなことも分からなかったんですか?」
「ぐぬぬぬ……」
芽衣の言葉に悔しげな表情を見せた後、問題集に目線を戻しつつ、小町は考えていた。
(え〜……もう六月終わっちゃってるじゃん……。もっと早く聞いておけば……! 私のバカバカ!)
「小泉さん……」
そんな様子の小町を気遣って、巡は耳打ちをした。
「……遅れて祝ったとしても、きっと純くんは喜んでくれますよ……」
「う、うん……」
確かに……純ならそこまで気にしていないかもしれない。
問題は何をプレゼントするかだなぁ……。
などと、勉強しながらも小町は考えていた。
そのまま一時間半ほど勉強をしていると、リビングの片隅で携帯ゲームをしていた小春が声を掛けた。
「ねぇ〜、ちょっと休憩しなよぉ」
「そんなこと言って……。お姉ちゃん、遊んで欲しいだけのくせに」
「まぁまぁ、少し休憩しましょう。僕も少し疲れましたし」
「う……うん……そうだね」
純が自分の勉強と芽衣の相手で疲れていると察すると、小町は休憩の提案を受け入れることにした。
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