第16話:オタクで恋は難しい

◇ ◆ ◇


「ここ……かな?」


学校から帰宅した小町は、簡単に着替えを済ますと、純の家に向かっていた。

体調を崩している純のお見舞いをするためである。

家には両親はおらず、中学二年生の妹が看病しているとのことだ。


小町は純の家に行ったことはなかったが、場所はチャットアプリで送ってもらったので、問題なく到着できた。

平凡な二階建ての一軒家が純の家だった。


小町が玄関の扉の横のチャイムを押すと、中から女の子の声が聞こえてくる。


「はい」


「えーと、純くんの……友人……の小泉といいます。純くんのお見舞いに来ました」


「……兄に友人はいません。新手のオレオレ詐欺ですか?」


「ぐっ……い、いるから!」


「しかも女性とは。信じられませんね」


「ほ、ほんとだって! 純くんに聞いてみて! 小泉小町が来たって」


「……兄は寝ているので。お引き取りください」


そう言って無言になる。

小町は毒づくようにつぶやいた。


「くっ……。このお兄ちゃん大好きっ子め……」


すると──ガチャリと音を立てて扉が開いた。


「だ、誰が、お兄ちゃん大好きっ子ですか!? 訂正してください!」


「チャンス!」


小町は空いた扉に手と足を差し込む。


「はっ!?」


小町と純の妹で、扉の引きあいになった。

妹はショートカットで、ちんまりとした背格好、部屋着にしているのかジャージを着ていた。


お互いに力が入ったまま、扉を隔てて会話する。


「こん……にちは! ちょっと……純くんに……会わせて……もらえないかしら!」


「お引き……取り……くだ……さい!」


「おね……がい!」


「いや……です!」


「……ぐぬぬ……」


「……がおお……」


「そ……そうだ……メロン! メロン……買って……きたよ!」


そう言って、小町は片手に持っていた買い物袋を見せた。


「メ、メロン……!?」


内側から扉を引く力が弱まる。

ここぞとばかりに小町がたたみかけた。


「ねぇ、芽衣めいちゃん、メロン好きでしょ!?」


「な、なぜ、それを!? いや、なぜ私の名前を!?」


「ふふん、こんなこともあろうかと、純くんに聞いておいたからね」


「や……やりますね。はぁ……仕方ありません」


芽衣は力を緩めて扉を開けた。


「メロンだけおいたら、さっさと帰って下さいね!」


「はいはい」


 ◇ ◆ ◇


「……こっちです」


芽衣に、家の中を案内される小町。

純の部屋は二回だった。


「あの……兄が弱ってるからって、いやらしいことしないで下さいね」


「し、しないよ!」


すぐに純の部屋についた。

芽衣がコンコンとノックしても反応がない。


「やっぱり寝ているみたいですね……諦めて下さい」


「ちょ、ちょっと顔見るだけだからさ」


「……」


ふぅとため息をつきながら扉をあける芽衣。


「……お邪魔しまーす……」


小町に芽衣に続いて、そろりと部屋の中に入った。


(結構、キレイにしてるんだなぁ……)


部屋は飾り気のないシンプルな部屋だった。

本棚には漫画やライトノベル、小説が並んでいる。

机の上には教科書や参考書、ノートパソコンがおいてあった。


ベッドには純が寝ており、すぅすぅと寝息を立てている。

そこまで深刻な様子ではなさそうで、小町は安心した。


「朝に比べれば、だいぶ熱も下がってきたので」


「そうなんだ。良かった」


ほっとしている小町に向かって、芽衣がベッドの下を指し示して言う。


「あ、えっちな本はその辺です」


「そういうこと、言わなくていいから! ってかなんで妹が兄のえっちな本の場所を知ってるの!?」


「そりゃ、わたしが買ってきたので。妹ものオンリーですが」


「へ、ヘンタイか!」


「ち、違います! 兄を悶々とさせる嫌がらせをしてるだけです!」


……ツンデレをこじらせすぎてるよ、と思う小町であった。


「ええと小泉さん……でしたっけ? とりあえず、そこに座って下さい。何かお飲み物でもお持ちしますので」


「あ、はい」


芽衣がバタバタと階段下に降りていった。

なんだ意外としっかりしてるじゃん、と思って小町は指し示された座布団の上に座って待った。


寝息を立てている純を見て、


「ふふ……無邪気な顔で……かわいいなぁ」


などと感想を漏らす。


そうしていると、すぐに芽衣が戻ってきた。


「まぁ、これでもどうぞ」


間の前に置かれたお盆に目をやると、お茶とお茶漬けが載っていた。


(……お、お茶漬け?)


そういえば、京都辺りでは、「お茶漬けぶぶづけでもどうどす?」は早く帰れの意味だったっけなぁ……なんて事を考えつつ、まぁ、せっかくだし頂くかと口をつける。


そうして小町がお茶漬けを食べていると、芽衣が口を開く。


「……小泉さん、知ってますか? 京都では──」


「ぶっ!!」


思わず吹き出しそうになるお茶漬けを手で押さえた。


「……汚いなぁ」


「め、芽衣ちゃんのせいでしょ!」


そうして二人が騒いでいると、純が目を覚ました。


「うぅ……ん」

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