第17話:妹さえいれば?
「あ、ご、ごめんね! 純くん! 騒がしくして!」
純は寝ぼけた表情で、ベットに寝たまま周囲を確認して口を開いた。
「む? ……小町さん、どうしてこんなところに?」
「ほ、ほら! お見舞いだよ。スマホ見なかった?」
「あ、すいません。……途中までは見てたんですけど、いつの間にか寝ちゃってたみたいで」
「いいの、いいの! 気にしないで」
純と小町が話していると芽衣が割り込んでくる。
「で……お兄ちゃん、この人なんなの?」
「小泉小町さんだよ。知ってるか? 有名人なんだぞ」
「……それは知ってるけどさー」
芽衣はジト目で小町を横に見ていた。
「……え〜!? 芽衣ちゃん、私のこと知ってたの!?」
──それなら、そんな邪険に扱わなくても良かったんじゃ、と小町は思った。
「いえ……有名人としての小泉さんは知ってますけど、うちの兄と繋がりがあるような人とは思えませんので」
「う……そ、そんなことないよ。同じクラスなんだよ私たち」
「そうなんですか? でも、ただのクラスメイトがわざわざお見舞いに来ますかね? ただでさえうちの兄には友達がいないのに」
「芽衣ちゃん、自分のお兄ちゃんに向かってひどい言い草だね……」
「はは。まぁ、真実ですから」
といって純は笑った。
そんな兄に向かって芽衣は心配げに尋ねる。
「ね、ねぇ、お兄ちゃん、怪しい壺とか売りつけられてないよね?」
「するかー!!」
純への問いかけを、小町がさえぎった。
「そうですか……では、現金を要求したり──」
「それもするかー!!」
「まさか……そのえっちな体でせまったり──」
「……し、してない!!」
「むむ……怪しいですね、なにか思い当たる節が?」
「ぐっ……」
──以前のサキュバス演技の件を思い出してしまう小町であった。
「ははは……二人とも仲いいですね」
小町と芽衣の様子を見て純は脳天気に笑う。
「「良くないよ!」」
「ははは……」
二人の同時ツッコミに純はもう一度笑った。
そして、改めて芽衣に小町を紹介しようと芽衣に声をかけた。
「芽衣、あのな、小町さんは僕の……」
「僕の?」
純は、ちょっと考えてから言葉を続ける。
「僕の……一番大切な人……かな??」
「「ぶっ」」
小町と芽衣の二人は同時に吹き出した。
「じゅ、純くん! な、なに恥ずかしいこと言っちゃってるの!」
「え、なんか僕、変なこと言いましたか?」
「お兄ちゃん、騙されてるよ! 兄にとって一番大切なのは妹だって、それ一番言われてるから!」
「え、そうなの?」
「そうだよ、鬼○の刃でも言ってたもん!」
そう言って、芽衣は本棚にある漫画本を指し示した。
「なるほど……」
「えぇ! 納得しちゃうの!? 純くん」
「ふふふ……冗談ですよ」
(……どっからどこまで!?)
小町はそう尋ねたい気持ちをぐっと飲み込む。
「……それはともかく、わざわざお見舞いに来て頂いて、すいません」
純はベッドに寝たまま頭を下げるような素振りを見せる。
「え、ううん。気にしないで! 私が来たかっただけだから……その……純くんの顔が見たくてさ……」
そう言って、小町は頬を赤らめた。
そんな小町に、純はずいっと顔を布団から顔を出して近づける。
「……そうですか? どうぞよく見ていって下さい」
「ちょ……そ、そういう事じゃないって……」
目の前に純の顔がきて、小町は余計に照れてしまう。
「……はぁ〜、私お邪魔みたいだから下に行ってるわ」
二人の様子を見ていた芽衣はそそくさと立ち上がった。
「ご、ごめんね、芽衣ちゃん」
「いえいえ、お構いなく……あ、メロンだけ貰っていきますね」
そう言って、芽衣は小町の持ってきた買い物袋を持って、純の部屋から出る。
そのまま足音を立てて階下へ降りていった。
◇ ◆ ◇
静けさの戻った部屋で、小町は純に語りかけた。
「……はは、元気な妹さんだね」
「すいません。ご迷惑をおかけしたみたいで」
「ん、いいの、いいの。私、妹いないから、新鮮で楽しいしさ」
(ちょっと大変だったけどね)
と、小町は心の中で苦笑いしていた。
「……明日は学校来れそう?」
「そうですね。だいぶ良くなったみたいなので、大丈夫かと」
「そっかー、そう言えばね! 今日、新しい友達ができてさ〜」
小町は黒崎巡について話した。
純はうんうんと頷きながらその話を聞く。
「そうですか、良かったです」
「うん。明日から一緒にお昼食べようよ」
「いいですね……誰かと一緒に食べるご飯は美味しいですもんね。って、これ小町さんが教えてくれたんでしたっけ」
「う、うん……そうだよ……」
小町は、気恥ずかしくなって、軽くうつむいた。
そうして会話が少しとまる。
チクタクと純の部屋の時計の音だけが聞こえる沈黙がしばらく続いた。
その静けさの中で、純は小町に向かって微笑んだ。
「……でも、小町さんが来てくれて良かったです」
その言葉に小町は、ぱぁっと明るい表情を見せた。
「え、ほんと??」
「ええ。妹が退屈しなかったみたいで」
「え!? そっち!?」
「はい。わざわざ学校休んで僕の看病してくれてたので、申し訳なくて」
「……そ、そうだね」
小町は少しがっかりした表情を見せた。
そんな様子を察したというわけではないが、純は小町に話しかける。
「あ、もちろん僕も……嬉しいですよ」
「う、うん!」
「なんか……小町さんが居ると安心します」
「へへへ……そう言われると、なんか嬉しいな……」
小町は手をもじもじとさせて照れていた。
「なんか……ぽかぽかしますね」
「そ、そう!? 心が温かくなってる……って事かな? うれしいな……」
「こんなとこに……小町さんが居るなんて……夢みたいで……」
「ゆ、夢!? お、大げさだよ〜!!」
体の前で手を振って照れをごまかす小町。
「僕……このまま……小町さんと……ずっと……一緒に……」
「え、ずっと!? そ、それは、いきなりすぎないかなぁ〜!? ほ、ほら物事には順序ってものが! 私たちまだ学生だし──」
純の言葉に照れてしまった小町は、早口で喋っていたのだが──
「……すぅ……すぅ……」
「……って、寝てるぅ……」
純の寝息を聞いて、はぁ〜と大きく
(まったく……のんきなんだから……)
小町はそう心の中で呟いて立ち上がった。
そして、純の寝顔に向かって微笑む。
「……しょうがないなぁ……また……明日ね……」
そう言って純の額に自分の顔を近づけ──
「あぁ! キスしようとしてる!」
「し、してなーい!」
外から覗いていた芽衣に気がついて、踏みとどまった小町であった。
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