第18話:でこぼこトリオ
◇ ◆ ◇
翌日──
純は風邪から回復し、何事もなかったように登校した。
「小町さん、おはようございます」
「おはよう。大丈夫だった?」
「はい。おかげさまで」
純は微笑む。
その様子に昨日のことをフラッシュバックのように思い出した小町は問いかけた。
「えーと……小町さんに来てもらったことは覚えていますよ。メロンも妹と美味しく頂きました。すいません、色々と」
「え、うん……気にしないで。えと……ちなみに最後の方に喋ったこと覚えてる?」
小町は、おずおずとした様子で純に尋ねる。
「すいません……最後の方は眠くなってしまって……あまり覚えていなくて」
「そ、そっか……そうだよね……はぁ〜〜」
予想はしていたものの、落胆した様子をみせる小町であった。
昼になって、約束通り小町は黒崎巡を誘って、純と三人で弁当を食べることにした。
◇ ◆ ◇
さて、クラス一いや学校一と言ってもいい美少女がカースト最下位はおろかカースト外とも言える、陰キャとされている二人と一緒に過ごしているとどうなるか?
まず男子の反応はおおむね「小泉さんって優しかったんだな」というものになる。
純のことも、「からかってたというよりは、ぼっちをほっとけなかったのかな」のように評価をするものもいるだろう。
つまり、小町の意図したものではないが、評価はこれまで以上に上がってしまう状況になるのだ。
だからこそ、女子の反応は芳しくないだろう。
「いいこぶっちゃって」というような雰囲気が自然と生まれる。
特に小町が一緒に過ごしていたカースト上位の女子達の反応はシビアになる。
彼女達にとっては小町と一緒に居ることが、ある種のステータスになっていたところがあるため、勝手に抜けられては面白くない。
この事が後にトラブルを引き起こすわけだが、それはまた別のお話である。
◇ ◆ ◇
「え〜と、この子が黒崎さんだよ」
純の席を中心にして三人で三角形をつくって机を囲んだ後、先頭を切って、小町が黒崎巡を紹介した。
「……は……はじめまして? 如水くん」
「え……と、クラスメイトなんだけど、純くん知ってた?」
「ええ、知ってましたよ。
(って、私の名前は知らなかったのに黒崎さんのことは知ってるんだ!?)
最初にあったとき、名前を覚えてもらっていなかったことを小町はよく記憶していた。
「え……と……小町さんは、如水くんが……私の名前を知っていることに嫉妬……じゃなかった驚いているみたいです」
「──ぶっ!?──」
自分の気持ちを解説されて慌てて吹き出す小町。
「ああ、黒崎さんとは去年も同じクラスだったので」
「えぇ、そうだったんだ!? ……言ってくれれば良かったのに」
「え……と……すいません。隠す気はなかったんですけど……。話したことはなかったですし」
「ま、まぁいいよ。さ、ご飯食べよ」
三人で弁当を食べ始める。
とは言っても初めての三人での食事である。
話題を探り探りの状態であった。
「え〜と、同じクラスってことは一年二組かぁ……」
純から以前のクラスを聞いていた小町が切り出した。
「そう……ですね。担任は……佐々山先生でした」
「僕は良く怒られましたね」
「あ〜、相性悪そうだもんね」
佐々山は社会の教師なのだが昔ながらの熱血教師った。
「そういえば……佐々山先生が……如水くんに『俺の授業はつまらんか!?』って怒ったことが……あったような」
「ああ……窓の外に綺麗な鳥が飛んでいたんですよね。それを見てたら怒られまして……」
「まぁ純くんぼーっとしてるところあるからなぁ……」
「素直に『はい、つまらないです』って言ったら廊下に立たされましたね」
「ふふ……あれは……面白かったかも」
巡がクスクスと笑う。
「一回……『もう帰れ!』って……怒鳴られたこと……あったよね?」
「あ〜、そのまま帰っちゃったんだ?」
「いえ如水くんは……『すいません、家の鍵を忘れたので、帰れません』と答えてました』
「純くん、あのね〜……」
「いやぁ、あの時は焦りましたね。冬でしたし」
「……もう何も言うまい」
「ふふっ……そんな感じだったので……如水くんのことは良く覚えていますね……」
「へぇ〜……」
小町と純の付き合いはまだ一ヶ月程度だ。
くだらない話ではあるが、純のことを小町より長く知っていることを、小町は純粋に羨ましく思った。
「あ……でも私は表面的なことしか……如水くんのことを知りませんので」
「はは……さすが黒崎さん」
心の中を読まれて苦笑する。
「ん? ……小町さん僕の事を知りたいんですか?」
純が珍しく察しの良さを発揮をしていた。
(うっ……こ、ここで照れてもしょうがない!)
「え!? う……そ、そうだね〜?」
「大丈夫ですよ。僕も小町さんのことで知らないことも多いですし。これからお互いを知っていけば」
(ちょ……それ、付き合いたてのカップルのセリフだよぉ〜〜……)
「ふふ……二人とご飯食べると楽しいですね」
巡が愉快そうに笑う。
「そうですか? ありがとうございます。僕も、黒崎さんとご飯食べられて、ご飯が美味しいです」
純にとって他意はないということは分かっていても、小町の心は僅かに揺れた。
(むむ……わ、私は!?……)
そして、それを察した巡は一計を案じる。
「え、えと……如水くん。……小泉さんが『私と黒崎さんどっちが良いの?』 って」
「ちょっ──そこまでは思ってな──」
巡を止めようとする小町だったが、もう遅い。
「う〜ん、どっちかを選ぶなら、やっぱり小町さんですね」
「──うぐはっ!?──」
声にならない音を、どこからか分からない場所から出す小町に、
「……ですって……良かったですね? 小泉さん」
にっこりと笑う巡。
そんな様子を見て小町は思う。
(こ、このコンビ……なかなか凶悪なんじゃないかしら……)
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