第26話:お祭りと告白 中編

◇ ◆ ◇


たこ焼きを無事にゲットした純たちは、屋台から少し離れたベンチで他の三人を待っていたが──


「お姉ちゃんたち、まだちょっと掛かるって」


小町がスマホに受信したメッセージを見ながら言う。


「そうですかぁ。え〜と、先に食べちゃいましょうか?」


「な〜んだ? 純くん。さっきは興味ないみたいに言ってたのに、結局食べたいんじゃない?」


「う……そうですね。いざ買ってしまうとなかなか待ちきれなくて……」


純は恥ずかしそうにぽりぽりと頭をかいた。


「それは確かにね〜。じゃ、先に食べちゃおうか」


小町がたこ焼きの箱を開けた。


「こっちがソースで、こっちがしょうゆだよ」


箱の半分づつで味付けが分かれている。


「じゃ、僕はソースから……って、あれ?」


「ん? どうしたの? 純くん」


「……つまようじが一本しか入っていないようですね」


正確には、先端がフォーク型になっているつまようじだった。

それが一つだけしか入っていない。


「え〜? 店のお兄さんが忘れたのかな〜……」


「ん〜、僕、店に戻って何本かもらってきますね」


純がベンチから立ち上がって、屋台に戻ろうとするが──


「──ちょっ、ちょっと待った!」


その手を小町が引っ張って止めた。


「え? どうしました?」


「……お、お店まで戻るの大変だし、一本でも良いよ!」


「……そうですか?」


「うん……ほ、ほら私が取ってあげるからさ、はい、あ〜ん……」


前もこんなことしたっけな……と思い出しながら、小町はたこ焼きを純に差し出す。


「あ〜ん……もぐ……もぐ」


「……どう?」


「うん、美味しいですね」


いつかと同じように純は動じていなかった。


(むう……やっぱりこの程度では恥ずかしがるわけないよね)


そう思いながら、小町は次のたこ焼きを爪楊枝に刺す。


「次はしょうゆだよ、あ〜ん」


「あ〜ん……もぐ……もぐ……。……こっちもなかなかイケますね」


「ふふ……銀○こと比べてどう?」


小町はいたずらっぽく尋ねた。


「う〜ん……どうでしょう? ……分からないですね」


「え〜? あんなに銀○こを推してたのに?」


「いや〜……。小町さんと食べると何でも美味しいというか……。銀○こを小町さんと一緒に食べたことがないので、比べられないですね!」


(───も、もう! ま〜た、そういうことを真面目に言っちゃってさぁ──う、嬉しいけどさ!!)


小町は複雑な気持ちを覚えながら、自分が食べるためのたこ焼きに爪楊枝を刺す。


それを自分の口に運んで──


「もぐ……って、熱っ!! ほっ──ほっ──ほっ」


予想外のたこ焼きの温度にびっくりして、小町の口がたこになっていた。


「こ、小町さん! み、水を!」


純が持っていたペットボトルを小町に手渡す。


「ふぁ、ふぁいふぁと! (あ、ありがと!)」


ペットボトルのジュースで、口の中の温度を下げた。


「こ……こんなに熱いなんて……よく純くん普通に食べてたね……」


「え、そうですかね? 小町さん、猫舌ですか?」


「……ん〜、まぁちょっとね〜……」


そこまで酷いものじゃないはずと思う。

純が特別に熱い物に強かったんだろう。


「う〜ん……それじゃ、ちょっと冷ましましょうか」


純は、小町が無意識に爪楊枝を刺していたたこ焼きを小町の手ごととって──


「ふ〜……」


息を吹きかけて冷まそうとしていた。


「え、ええっ!?」


手を握られていることと、子どものように扱われていることの両方で、小町の顔は真っ赤に染まって、動揺の声が漏れる。


「……ちょ、ちょっと……純くん!」


「あ……すいません。嫌でしたか?」


「い、嫌じゃないけど……恥ずかしいから! 自分でやるって!」


手を自分の方に引き寄せて、「ふーふー」と息を吹きかける小町。

その様子を見て純は微笑んだ。


「ふふ……小町さん、かわいいですね」


「かっ……!?」


不意の褒め言葉でワンパンをもらってしまう。


「──なんだか芽衣が小さい頃のことを思い出しますね〜」


(──ちょっ……私ってば芽衣ちゃんと同じカテゴリーなのぉ!?)


心の中でツッコミをして「はぁ〜」と大きくため息をつく。

落ち着いたところで、温度の下がったたこ焼きを、やけどしないように慎重に食べる。


小町は、もぐもぐと咀嚼しながら、ふとあることに気がついた。


(……よく考えたら、ペットボトルといい、爪楊枝といい、間接キスをしまくってるような……)


一回だけじゃなく何度も……。

それを考えると、また恥ずかしくなってきて体温が上がってしまう。


(……まぁ、純くんはそんな事気にしてる素振りないけど……)


横目でチラチラと純をみると、いつものようにぼんやりとした表情で夜空を眺めている。

小町も真似するようにぼんやりと空を眺めた。

まだ花火は上がっていないが、綺麗な星空が視界に飛び込んできて気持ちがいい。


そうしてしばらく二人で夜空を眺めていると、純が何かを思い出したような声を出した。


「……あっ……」


「ん? どうかした?」


何事かと小町が尋ねると、純は気まずそうな顔をする。


「……さっきの間接キスでしたけど大丈夫でしたか?」


「……遅れて言わないでぇ……」


小町はノックアウトされ、真っ赤になる顔を両手で隠した。

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