第24話:父親は真さん

◇ ◆ ◇


純の父親──如水じょすいまこと──が通報をして駆けつけた警察達に、ノビていた不良達が連行されている。

父親は警察となにやら話していた。


その間に、顔面が腫れ上がってボロボロになった木内達と純が話していた。


「助かったよ……如水じょすい……お前って……強かったんだなぁ……」


「いえいえ……。え……と……君たち……僕のことを知ってるようだけど……誰なの?」


純は、知らない人に話しかけられたように不思議な顔をしていた。


三人は──


木内きうちだよ!」


山根やまねだよ!」


草野くさのだよ!」


「ええと……三人とも……?」


「「「 クラスメイトだよ!! 」」」


声を合わせて主張した。


「あっ……す、すいません! 顔があまりに腫れていたので分からなくて……」


「ほんとかよ……確かにひでぇ顔になっちまっちゃったが」


「……ってか、俺たちだって知らないで助けてくれたのかよ」


「俺たちモブキャラすぎて草」


木内たちは、複雑な気持ちでお互いの顔を見合った。


「しっかし……お前って強かったんだな……全然、知らなかったぜ」


「え……? いや、そんなことは……ただ小さい頃に父さんに柔道を習っていただけで……」


「……そういや、お前の父親って何やってる人なんだ? めっちゃ強かったっけど……」


「ええと……船乗り……かな?」


「へぇ……漁師か? 確かに力が凄かったもんな〜……」


木内達と純が会話をしていると、警察の対応が終わった純の父親が会話に入ってきた。


「おいおい! 俺は趣味でしか釣らんぞ」


木内達の会話に、いつのまにか純の父親が参加していた。


「あっ……どうも! 助かりました! ありがとうございます!」


木内達三人がそろって頭を下げた。

このあたりは、さすが進学校の生徒だった。


「いいってことよ。まぁ、ちょっと普段と違うが、市民を守るのが俺の仕事だからね」


「えと……何か警察関連の仕事をしているとか……?」


「俺は、自衛隊で働いているんだよ。海上自衛隊」


ちなみに、海上自衛隊一等海佐──隊司令や艦長のポジションに付けるだけの役職であった。


「ジ、ジエータイ!? な……なるほど……」


「ちなみに柔道は自衛隊に入る前からやっててね、護身術になるかと思って教えてたんだが……」


「そうなんですか!」


「あんなに強いなら……早くやっつけちゃえば良かったのにさぁ……」


「お前、なんでずっと攻撃しなかったんだ?」


木内達は素朴な疑問を純にぶつけた。


「ご、ごめん……」


「い、いや、責めてるわけじゃないけどさ……」


「うむ……それは……昔ちょっとあってね」


子ども達の話をさえぎって、真が昔話をし始めた。


◇ ◆ ◇


純が小学校の頃──


性格的に大人しかった純はいじめの標的になることが多かった。

周りもまだ小学生だったため、直接的な暴力が中心だった。


真は純に強くなって欲しいと思って、自分の得意な柔道を教えることにした。

根がクソ真面目な純は練習熱心であり、学んだ事をアホのように吸収するため、あっという間に強くなった。


試しに柔道大会に出してみると、同じ学年では敵なしになっていた程だった。


だが、純が学校ではやはり大人しいため、彼が強いことを知らない同級生たちのいじめは終わらなかった。


──真が不要な暴力を禁止していたのも理由だ……純は、必要か不要かの判断ができるほど柔軟な性格はしていないのだが。


あるとき、いじめがエスカレートして、机や椅子を投げつけるといった暴挙にまで及んだとき、さすがに、純の我慢も限界を迎えた。

いじめっ子たち全員を、思いっきりぶん投げたのだ。


──相手の子どもたちは全員怪我をしてしまった。

結果的にいじめはなくなったのだが、同じ事が起こると危ないと思った真は、純に攻撃を禁止したのだった。


「いいか、純、専守防衛だぞ」


と言った、父の言葉を律儀に守り続けているのである。


◇ ◆ ◇


「というわけで、俺のせいなんだが……」


真は少し申し訳なさそうな顔を一瞬した後──


「いや〜……本当に専守防衛だけするとか思わないじゃん!?」


とおどけた。


「守ってるだけじゃ、いつかやられちゃうじゃん!? はははは!」


「は、ははは……」


(い、いいのかな……自衛隊員がそんなこと言ってて?)


笑っている真に対して、木内たちは作り笑顔で対応していた。


「いいか純! 今後は『臨機応変』だぞ」


「う、うん!」


分かったよというばかりに頷く純の横で、


(……無理じゃねえかな?)


と、思う木内達であったが、純に対する尊敬と親しみは覚えたのだった。


そうして、次の登校日からは、学校でも純と話すようになっていった。

純にとっては数少ない友人と言える関係だ。


彼らの中で、純は小町にからかわれているという認識が変わることはなかったが、


「あいつが振られたら、俺たちが慰めてやろう!」


という謎の連帯感が生まれたのである。

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