第8話:君の呼び名は
◇ ◆ ◇
サキュバス事件(?)があって数日後──
「ねぇ、如水くん、今日一緒に帰らない?」
小町は純を誘って一緒に帰ることにした。
(ふふ〜ん……今日こそは私が主導権を握るんだから)
彼女は決意に燃えている。
「ねぇ、あそこで、軽くコーヒーでも飲んでない?」
帰り道の途中、ファストフード店を指さして小町が切り出した。
「コーヒーですか? 僕はちょっと苦手でして……」
「コーヒーに限定しなくていいから! コーヒーじゃなくても何か好きなの頼めばいいんだよ!」
純のボケにツッコミを入れながら、店内に引っ張っていく。
それぞれ飲み物とポテトを頼んで、人の少ない二階席の隅に近い席に座った。
「う〜ん……。学校の帰りに、こういうところに寄るのは初めてかもしれません」
純はソワソワとして落ち着かない様子だ。
「ふふ〜ん、そうでしょ、そうでしょ」
小町の方は嬉しそうにしていた。
「そう言えば、小町さんも結局コーヒーじゃないもの飲んでますね。ココアじゃないですか」
「ぐっ……。甘い物が好きなのよ、悪い?」
「いえ、良いと思います。僕も甘いもの好きなんで」
純は自分のバニラシェイクを見せて軽く笑った。
「ふふ……まぁ、それは間違いなく甘い物がかなり好きな人しか頼まない飲み物だね」
そう言いながら、小町も自分の飲み物を飲み始めた。
「……」
「……」
少ししたところで、ズズズとシェイクを吸い込む純に、小町が切り出した。
「ねぇ、如水くん」
「なんですか?」
「わたしたち、隣の席になってそれなりに経ったよね。結構喋ってるし」
「そうですねぇ」
純は、どれぐらい経ったかなと確認するように指折りをしていた。
「あのさ……そろそろ、呼び方を変えても良い……かな?」
小町は少し演技がかった上目遣いをする。
(……男の子だもん、下の名前で呼ばれたらちょっとドキっとするんじゃないかしら……)
という魂胆だ。
「どうぞ」
「純……くん。……って感じでどう……かな?」
照れた風を装って可愛らしく言ってみる。
「はい、問題ないです」
残念、純に効果はなかった。
「ぐっ……。そしたらさ、純……くんも、私の呼び方変えてよ。下の名前でさ」
「そうですか? じゃあ……こまっちゃん?」
「う〜ん、純くん、そういうキャラじゃないよね」
「それじゃあ……小町さん」
「うんうん、良い感じ」
小町は嬉しそうに笑う。
「あとはさ、喋り方も丁寧すぎるよ。同級生なのにさ」
「う〜ん、そうですかね……」
「そうだよ」
「すいません、こればかりは慣れてしまって……。可能な限り善処します」
「ぷっ……その言い方がもう堅いけどね……ふふっ」
小町は、飲んでいたココアをこぼさないようにナプキンで押さえた。
「む、難しいですね」
「ふふっ……あ、あとさ、連絡先も交換しない?」
「連絡先?」
「ほら、チャットアプリとか使ってない? ──チョコトークとかさ」
小町がスマホアプリの画面を見せた。
「ああ、あれですか。あまり使ってないんですけど、インストールはしてありますよ」
と、純が自分のカバンからスマホを取り出す。
QRコードを使ってお互いの連絡先を登録した。
(……ふぅ……これで連絡先ゲットできたけど……純くん、あんまりチャットとかしなさそうだからなぁ……)
小町としては今日の最低限の目的が果たされた。
その後はたわいのない話をしてから二人で帰宅した。
帰宅後──
就寝の準備が終わった小町は、試しにチャットアプリで純にメッセージを送ってみた。
「今日はありがとね」
しばらくすると、
「何がですか?」
と返事が返ってきた。
(……純くんらしいなぁ……)
と苦笑しながら、
「私につきあって、コーヒー……じゃなくて、ココアを飲むのに付き合ってくれて」
と返す。
また、しばらくして、
「いえ、小町さんも僕と同じく甘いものが好きと知れたので、嬉しかったです」
と返ってきた。
(……うぐぐ……チャットでもストレートだなぁ……)
ここでも照れさせられてしまう小町。
「それに、これでいつでも小町さんと話せるようになったので、嬉しいです」
(……うきゅぅ……)
これ以上はもうダメだ……と思いベッドに突っ伏したのであった。
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