第9話:おしごとーく

 ◇ ◆ ◇


今日も小町が彼を誘った帰り道の途中──


「小町さん……」


純は立ち止まると、真剣な目をして小町を見つめていた。


「な、なに? 純くん」


(……え、え……何、この言いづらそうな事をためらっている雰囲気……?)


ま、まさかとは思うけど……告白されちゃう……? と小町はドキドキとして純の言葉を待っていた。


(……ダ、ダメだよ)


こ、告白されたらどうしよう……? こ、断るの? 私?

ほんとは純くんのこと、からかってただけなんだよって言うの?

そしたら私、嫌われちゃう……。

そんなの、嫌だよ……。


純がゆっくりと口を開いていく。


「あの……」


「……ちょ、ちょっと待──」


それを小町は制止しようとするが間に合わず───


「あの、暇なんですか?」


純はいつものように無粋さを発揮していた。


「は……?」


あんぐりと口を開ける小町。


「ちょ……し、失礼ね! どう意味?」


「す、すいません!!」


声を荒げた小町に純は、軽くびくついていた。


「ほんと……すいません。変な意味じゃなくて、なんというか……。小泉さんは仕事もしているわけですし、忙しくないのかな、と思いまして」


純は、小町の顔色を伺いながら、おどおどと話した。


「……ああ、そういう話かぁ……」


ふぅと息を落ち着けて言葉を続ける。


「正直、今はそこまで忙しくないのよねー」


「はっ! まさか……いわゆる、『干されちゃった』って奴ですか?」


「ぐっ……失礼二回目だよ! イエローカードでも退場だよ! ってか如水くんから、そんなギョーカイ人っぽい言葉出てくるのに驚きだよ!」


「す……すいません……。そんな話をたまにネットニュースなんかで見たりするので。つい知ったかぶってしまいました」


純はまたも申し訳なさそうに頭を下げた。


「ふぅん……まぁ……いいけどさ」


(……というか、純くんってネットニュースなんて見るんだ?……)


小町は気を取りなして説明を始める。


「……基本的にはドラマとかの仕事がこない限りは暇……かな。昔……といっても半年ぐらい前までは、歌を歌ったりとか、ダンスとか、それこそネット番組の賑やかしとかもしてたんだけどねー。まぁ仕事があれば、なんでもやってた。オーディションもたくさん受けてたし。……でも今は断ってる。ドラマの仕事が来ない限りは」


「ほう……なぜ?」


「う〜ん……。やっぱり私の目標は女優だからね。それも本格派の」


「ほ〜、本格派……」


「なに、馬鹿にしてる?」


「いえ、いいと思います」


「あと、前のドラマの2ndシーズンをやるって話もあるみたいでさ。それまで仕事入れられないってのもホントの所かな。次は、もう少し私の役を深く掘り下げるって案もあるみたいなんだよね。えっちい部分だけじゃなくてさ」


「そうですか……」


純は相づちを打ちながらも、静かに何かを考えていた。


「ん、どうした? もしかして、私のエッチなシーンが減るのが残念なんだな〜? うりうり」


小町は肘で純を小突いた。


「いえ……そういうわけでは……いや、そういう部分もあるかな?……」


う〜んと、純は真剣な表情で考え出した。


「ちょ、ちょっと、真面目にとられると……ハズカシィ……」


「ご、ごめんさい! い、一応男なので……」


「そ、そうだよね。……は、はは……」


(……ん〜でも他の男子とは、ちょっと違うけど、純くんは……)


小町がそんな風に、頬を赤らめながら考えているのをよそに、純は話を続けた。


「……そ、それよりも考えていたのは、お仕事があると小町さんも忙しくなりそうだなと……」


「う〜ん、そうだねー、きっと忙しくなるね」


「そうですよね。となると、こうやって小町さんと話せる時間も少なくなって、残念だなと」


「──んぁっ!?──」


小町の息が止まった。


(……な、なに言ってるの……)


「ど、どういう意味?」


「いえ……素直な感想を……。それが気になって、最初に暇なんですかと聞いたのですけど……」


「……わざとか? 純くんってわざとやってるの!?」


「??」


はて……何のことですか? という顔の彼。


「……も〜。まったくも〜……」


小町は気恥ずかしくなって、自分の髪をなでて整えて消え入りそうな声で呟く。


「うん……もし本当に次の仕事がきたら、忙しくなるけど……でも、なんとか上手くやるよ……」


「え? なんですか?」


小町の声が聞こえなかったのか、純は大きな声で聞きただした。


「もう! 頑張って時間はつくるって言ってるの!」


「? 何のための?」


「………………はぁ〜〜……………………」


曇りのない純の質問に、小町は大きな溜息ためいきをつき、その様子を純は不思議そうに見つめていた。


 ◇ ◆ ◇

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