第12話:密室ラブコメ
◇ ◆ ◇
数日後の休日──
「と、言うわけで~……やってきましたピックエコー!!」
家の近所のカラオケ屋に小町と小春はやってきていた。
店の前で姉の元気な声がなり響く一方で──
「……わぁい」
妹の小町はテンションが低かった。
「どうしたの~、テンション低いよー。あんたが言い出したことなんだから」
「そりゃ……最初はそうだけど……」
「はいっ……シャキっとして。せっかくおめかしもしてきたんだからさ」
白色のワンピースを来た小町は、小悪魔と言うよりも天使のような雰囲気を漂わせていたが、顔にはマスクとサングラスをかけていた。
街に小町のことを知っている人間がいる可能性は否定できない。
先日マネージャーの舞野から言われたことが、少しだけ気になって、他人の目を気にして一応、隠してみたと言った感じだ。
一方で小春は、カーゴパンツにTシャツというラフな格好をしている。
彼女の快活さが際立っていた──ついでにスタイルの良さも。
「それと、人目につかないデートの場所を確保してあげるという姉の優しさにも感謝して欲しいね」
「確保はともかく、ついて来る必要はないよね……」
「まぁまぁ、姉としては心配なんだよ。妹がどんな男と付き合ってるか知りたいのは当然」
「つ、付き合ってはいないって……」
「似たようなもんじゃないのー?」
姉のからかいを適当にいなしながら、小町は思った。
(うーん……。たぶん純くんは、そう思っていないというか。そういう概念を理解しているか怪しいレベルだけど……)
「そろそろ時間だねー」
と小春が腕時計を見ながら確認していると、たったったと駆け足で近寄る人物がいた。
「あ、あの子?」
「……う、うん」
駆け寄ってきたのは純だ。ジーンズにワイシャツという格好だった。
「すいません。遅くなって」
「ぜ、全然。時間通りだから謝る必要ないよ」
小春が無意識に髪の毛を整えた。
「君が純くんかー。妹がお世話になってるね! 私は小泉小春。小町の姉だよ。いや〜、呼び出してごめんえー。会ってみたくなっちゃってね。妹のカレ──もごっ」
言い切る前に小町が姉の口をふさいだ。
「どうしました?」
「いや〜、なんでもないよ。家族のスキンシップだよ」
「へ〜、仲いいですね」
「そうなの!」
無理矢理にごまかす小町をよそに、純も挨拶する。
「どうも。如水純です。よろしくお願いします。」
「うんうん、知ってる。いやー、聞いてたとおり地味だねー」
小春はポンポンと純の肩をたたいた。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん! ……ご、ごめんね、純くん」
両手を合わせて謝る小町。
「いえ、地味なのは事実なので。気にしないですよ」
「はっはっは。わるい、わるい」
小春は悪びれる様子もなく豪快に笑った。
「で、どう、うちの小町は? おめかししてきたんだよ。感想ぷりぃず!」
そう言って、妹の体を手で指し示す。
「…………」
小町は恥ずかしがってうつむきながら、純の言葉を待った。
「そうですね…………すごく」
「おおおっっ!?」
「──っ!?──」
興奮する姉に、緊張する妹。
「すごく……怪しい人みたいです」
「そうだよね! ワンピースにマスクにサングラスなんてすごく怪しいよね!」
「はっはっは!」
「全く……」
からかってくる姉に対して、小町は頬を膨らませた。
「ま、冗談はこの辺にして、さっさと入ろ! 純くんもちゃんと小町の素顔をみたいだろうしさ!」
小春に先導されて二人もカラオケ店に入る。
◇ ◆ ◇
六人は余裕で入れそうな大きな部屋を選んで、ドリンクを頼む。
ドリンクが到着すると、小春が陽気に言う。
「さてさて、アイドル小町さんの歌を皆で聴く会へようこそ! かんぱーい」
小春はビール、小町と純はそれぞれソフトドリンクを持っていた。
「もー……こんなんじゃ練習にならないよ……」
「なんでさー。観客は多い方がいいっしょ。気になるなら、私は純くんとだべってるからさ。そっちで歌ってなよ」
そう言って小春は純を部屋の反対側に引っ張っていく。
「なげやりなぁ〜……」
小町は呆れながらも、自分のスマフォをカラオケ機器と接続する。
こうすることで、オリジナル曲でも店の中で練習することができるのだ。
そうして練習を始めて歌い出してみたものの……
「眠れない夜♪ ── 私に♪ ── 会いにきて♪ ──」
(うーん……気になる。こんなの集中しろって方が無理なんですけど!)
「── 全部♪ ── 忘れて♪ ── いいんだよ♪ ──」
(……お姉ちゃんと純くん、なに喋ってるんだろ)
そうして、話し声に聞き耳を立てながら歌うことにした。
◇ ◆ ◇
小町の歌をバックに、小春が純の横に密着するように座って話しかける。
「? なんか近いですね?」
「カラオケだからねー。近くに座らないと話せないでしょ」
「ん……確かにそうですね。実は僕カラオケに来るの初めてなんですよね。すいません、慣れてなくて」
うんうんと納得してしまう純。
「ふふっ……面白いなぁ君。それに良く見ると、かわいい顔してるね」
「ん……そうですか? 男なのでそう言われても微妙ではあるんですが……」
「そんなことないよー。男の子だって、かわいい方が良いんだよー」
「そうですかね? なんと言っていいか……ありがとうございます……かな?」
純は小首をかしげる。
小春はそんな様子を見て微笑し、
「んー、もし、男らしくなりたいなら、前髪は切った方がいいかなー? どうかなー」
と言いながら純の前髪をいじりだした。
二人の顔の距離はかなり近づいている。
アルコールのせいなのか、小春の顔もほんのりと赤くなっていた。
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