第6話:男女で一緒に××鑑賞

数日経ったある日の休み時間──


「ねぇ、如水くん」


「なんでしょうか?」


「今更なんだけど、私が一応有名人だって知ってる?」


「……クラスでという意味ではなくて?」


「はぁ……やっぱり知らなかったのね」


とことん他人に興味ないなぁ、と小町は改めて彼の性質を思い知っていた。


「なんか……すいません」


軽く頭を下げている。


「い、いいの! まぁ私もまだまだ大した事がなかったってだけだし、特に問題がないというか、むしろ好都合なくらいで──」


「好都合?」


「な、なんでもない」


ぶんぶんと手を振ってごまかした。


「え……と、自分で言うのも恥ずかしいんだけど、私ネットで放送されてるドラマに出てて、ちょっとした有名人なんだよねぇ」


「へぇ〜、確かにテレビに出てるような人と同じぐらい美人だなとは思ってましたが……」


「──んぐっ──」


(……純粋に言われるとホント……)


顔が赤くなっていないか手で確かめる。


(……うん、大丈夫……だと思う)


「あ、ありがと。それで……良かったら、私が出てるドラマを見てみない?」


「う〜ん」


考え込むような仕草を見せている。


「興味ない? 結構おもしろいよ」


「コメディですか?」


「じゃないけどね。ダークな感じかな……(あとちょっとえっちな感じ)……」


「え? なんですか?」


「なんでもない。なんでもない。ほら、ちょっと男の子の目線からアドバイス欲しいなぁって思ってたりもして」


「う〜ん、僕のアドバイスが役に立つとは思えないけど……」


「そんなことないよ! きっと役に立つって!」


「そうですね、小泉さんの役に立つなら是非お手伝いしたいです!」


屈託のない笑顔に対して、小町は少し罪悪感を感じていた。


 ◇ ◆ ◇


その日の放課後──


他の生徒が部活や帰宅をして他に誰もいなくなった教室に二人はいた。


(……とはいえ、こんなんで本当に上手くいくのかな?……)


小町の作戦は姉の小春からの助言に基づいている。

曰く、彼は女優の小町の姿を見たことないのではないか、ウブな男子であれば、小町の出ているドラマを見れば女として意識しないわけがないだろうと。

そして、見たことがないのであれば、一緒にあのドラマを見てみたらどうか、ということであった。


「じゃあ……いくね」


小町が鞄からタブレットを取り出し、ドラマの再生が始まった。

第一話、画面の中では女子高生の小町がサキュバスに取り憑かれてしまうエピソードが描かれ、そして最初の男である高校教師を誘惑していくという流れだ。


その様子を小町と純は椅子を並べて見ていた。

チラチラと横目で彼の様子をうかがっている。


(……楽しんでるのかな?)


無表情な彼の感情を読み取るのは難しい。

やがて、画面の中の小町が男の部屋でサキュバスとなるシーンになる。


『先生……わたし……実は……サキュバスなの……』


小町のみずみずしい肌があらわになっている。


『わたしとイイコトしてくれないかな……』


画面の中の艶っぽい小町と対照的に、画面の外の小町は赤面していた。


(……うひぃぃ……、これめっちゃ恥ずかしいんですけど!)


男友達と二人でエッチなビデオを見るという展開は、フィクションの世界ではたまにある話だが、現実世界で実際にやるとこんな恥ずかしいとは。

しかも、出演しているのは自分なのである。


(……どんなプレイなの〜〜、これぇ……)


──なんとなくだけど、姉は私がこんな風になるのを想像してたんじゃないだろうか。つまり、私はからかわれていたんだ。


(……チクショーぉぉぉ……)


一方、純は感情を露わにせずドラマを熱心に見ている。


(……なんか言ってよ……喋らないから余計に恥ずかしいじゃん……)


沈黙の時間が流れたままドラマの一話は終了した。


「……ど、どうだった?」


恐る恐る感想を尋ねる。


「う〜ん……確かに、なかなか面白いですね。禁断の愛に手を出してしまった男性が破滅していくというのは、いささか暗いストーリーではありますが、演出の妙なのか引き込まれるものがあります」


「え……意外とまともな感想だね」


もっと斜め上のコメントが出るかと思っていたが拍子抜けした。


「? 僕はいつも真面目なことしか言いませんが」


「……え……ん、そうかなぁ?」


まぁズレているだけで、真面目と言えば真面目かもしれない。


「……そ、それで、私の演技、どうだった?」


「ええ、良かったですよ。エロくて!」


ぐっと親指を立てている。


「ス、ストレートだね!」


「あっ、すいません、失礼しました──もう少し間接的な言葉を選ぶと、魅惑的というか劣情をそそるというか……性欲をもてあまさせるというか……」


「逆に直接的になってるよ!」


「す、すいません!」


(……くそ〜、いつもと同じ雰囲気なんですけど……)


小町のプライドに火がつきつつあった。


(そもそも、本当に私のことを「そういう目」で見てるの?……)


エロいとかいう言葉の割には態度にまったく動揺が見られないのが不満だった。


「ね、ねぇ……さっきの演技をここで如水くんにやってあげようか?」

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