第5話:ペロッ……これは恋?
◇ ◆ ◇
マンションの一室──ショートパンツにタンクトップ姿でテレビを見ながら、ストレッチに励む女がいた。
ショートカットでボーイッシュでありながらも、スタイル抜群で色気も併せ持っていた。
「んんっー」
女が息を吐きながら開脚姿勢を維持していると、バタバタと部屋の外から足音が聞こえてくる。
「お姉ちゃ〜ん」
国民的知名度を誇る猫型ロボットに呼びかけるような声と共に、小泉小町がガチャリと扉を開けてその部屋に入ってきた。
学校から帰ってきたばかりで制服姿のままである。
「相変わらずノックしないねぇ……あんた」
「えへっ!」
「その程度の作り笑顔で騙されるのは、ちょろい男だけだよ。覚えとき」
「はぁい」
タンクトップ姿の女性は、
小町の姉にあたる大学生である。
「まったく……大した演技もできないまま、有名になっちまいやがって」
ぶつぶつと言いながら小春はストレッチをやめてベッドの上に腰掛けた。
「う〜ん、相変わらず激辛ら〜めん!」
小町も、ふざけながら近くのクッションの上に座る。
「ラーメン……あぁ……腹減ってきたぁ……ダイエット中に変なこと言うんじゃないよ」
うんざりとしたような表情を見せる小春。
小町はおどけた表情で謝る。
「ごめんごめんっ」
彼女は姉の小春のことをたいへんに慕っている。
そもそも、彼女が芸能活動をしているのは姉の影響が大きかったのだ。
子どもの頃から演劇を習っていた小春の姿に憧れて、彼女も同じ道を志した。
今も小春は芸術大学に通っていて有名な劇団にも所属している。
決して一般層に知名度が高い女優ではないが、将来の活躍を期待されている新人だ。
小町も「本格的な演技ではまだ姉に敵わない」事をよく知っていたし、演技のことも含めた色んな事で相談に乗ってもらえる心強い姉だった。
「それで……どうしたん?」
「……うん、ちょっとね……なんというか……男の子の事なんだけど」
「オトコの相談ねぇ……ま〜た告白されたとか?」
「ち、違うよっ」
「へぇ〜、違うのか、珍しい。もしかして……あんたの方から好きになったとか?」
「そ、そんなんじゃないよ!」
「ふ〜ん?」
小春は口をとがらせつつ、疑うような視線を小町に向けた。
「そんなんじゃないよ……ただ、私のことを女として意識してない男の子がいて……。なんというか……しゃくにさわるというか……。そう、私のプライドに関わるってだけで!」
「ふぅん……あんたもそんな年になったんだねぇ」
今まで小町がそんな事を言い出したことはなかったなぁと思いながら、小春はにやりと笑う。
「……な、なんか、やらしいなぁ」
「母さ〜ん! 赤飯よ! 赤飯を炊いて!」
「ちょ、ちょっと!」
リビングにいる母親に聞こえそうな声で言う姉を必死に制する。
「いや〜、まぁ母さんも察してると思うけどね。ほらアンタ今日自分でお弁当作ってたでしょ」
「お姉ちゃん、聞いてたの? でも、ママには適当に嘘を言ってあるから大丈夫だよ」
「はぁ……あのね〜、そんなの男のためってバレてるに決まってるじゃん」
「そ、そうなのかな!?」
「そりゃそうよ。あんたの演技力じゃね〜」
「むむ……なんかへこむなぁ」
小町はしゅんと肩を落とした。
「ま、それは半分冗談。そもそも相手が母さんだからね……母親ってのはそういうのに敏感だから。最初から相手が悪いんだよ」
「むぅ……そんなもんかぁ……」
「ま、そんなもんよ。んで、その男の子に自分を女として意識させたいってわけか」
「ま、そんなとこ……」
「んじゃ、少し詳しく聞かせてもらおうか」
「うん……。その男の子は───」
◇ ◆ ◇
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