第4話:なんで私がテレてんの!?

席が隣同士になってから数日の間、昼休みの時間以外も二人の会話は少しずつ増えていった。


(……うん距離感は十分、縮まってるはず……今日は勝負をかける!……)


そんな状況を踏まえ、小泉小町は張り切っていた。

やはり勝負は、一番、長い時間話をする事ができる昼休みの時間だ──。


「じゃ〜ん、今日はなんと、お弁当を自分で作ってきました!」


と言って、いつもより少し大きめの弁当箱を如水純に見せびらかす。


「へ〜、なんでまた?」


「それはね……如水くんのためだよっ♡」


いかにもぶりっ子という口調で口火をきっていく。


「え、僕のため?」


「そうそう。ほら、君のお弁当っていつも、おかずが少ないじゃない? 成長期の男の子がそんなじゃ、足りないだろ〜なと思って、おすそわけしてあげようと思って♡」


「それは……ありがとうございます」


純は深々と頭を下げて感謝の意を示した。


「ほら……あ〜ん♡」


「い、いや、それは……」


「どうしたの? いらないの?」


「いえ、さすがにそれは僕もちょっと恥ずかしいというか……」


表情を隠すように、顔を背けている。


(おおおっ!? 如水くんが照れてる、照れてる!!)


隣の席になってから初めて小町は手応えを感じ、心の中でガッツポーズをしていた。


(そりゃそうよね! かわいい女子に弁当を食べさせてもらうなんて、男子からしたら理想のシチュエーションだものね☆)


だが、そんな小町の気持ちと裏腹に、彼はすぐ真顔に戻っていた。


「ん? なに?」


「大丈夫ですよ! 僕も、もう子どもではないですから……ほら、お箸もちゃんと使えますし!」


食べるのに問題はないですよ、と箸をカチカチと動かしている。


「……うん、うん。綺麗な箸使いね……。じゃな〜い! 子どもにご飯を食べさせるお母さんの真似じゃな〜い!」


「あ、そうなんですか?」


純は無邪気な表情を崩していない。


それを見て、小町は「ふぅ」と溜息ためいきをつきながら、


(ふっ、この程度の天然ボケには、もう慣れてるんだからっ……)


と謎のモチベーションをキープしていた。


「ほらほら、恋人とかがやるやつだよ。アニメやマンガでもよく見るでしょ?」


「なるほど、あれですか!」


ぽんと手のひらを叩いている。


「でも僕と小泉さんは恋人ではないですが」


「まぁ、そうだけどさ……いいから、一回やってみようよ!」


「何のために?」


「う〜ん……ほ、ほら、将来、恋人が出来たときの練習だとでも思ってさ!」


「むう……小泉さんはともかく、僕に恋人ができるとは思えませんが……」


純は意外と冷静に自分を見ていた。


「う……そんな自虐いらないから! とりあえず、はい、あ〜ん♡」


「はぁ……あ〜ん……んぐんぐ……」


差し出された卵焼きをもぐもぐと食べている彼に尋ねる。


「ど、どうかな?」


実のところ、小泉小町は料理が得意ではなかった。

そもそも、まだ高校二年生ということもあるし、芸能活動もあるので、そんなに家の手伝いをするタイプではなかった。

そんな彼女であるので、演技(?)のためにでも男子に料理を作る経験は初めてなのだ。


(……ママに手伝ってもらっているし、そんなに変な味にはなっていないと思うけど……)


女の子の友達とお弁当の作りあいで勝負ですることになっちゃった、と無理矢理な嘘をついて手伝ってもらったのだった。


(……う〜、意外と緊張するなぁ……)


そんな感じで彼の感想を待つ。


「はっ!?」


卵焼きのひとかけらを食べ終わった純がいきなり目をぱっと見開いた。

小町の中の不安が急激に高まる。


「ええっ!? も、もしかして、不味かった!?」


「いえいえ、そういえば次の英語の授業で小テストがあるのに勉強してないな思い出しただけです」


「なんで今思い出したし!」


「いえ、卵と言えば、ハンプティ・ダンプティじゃないですか。あの英語の詩がいきなり頭に思い浮かんじゃって……」


「なるほどね……ってそんな人いる!? 色々と脈絡ないよ!?」


「まぁ、それはともかく……うん、美味しかったですよ」


「そ、そう?」


内心でほっとしながら、彼の顔を観察した。


(……う〜ん、全然ドキドキしてる雰囲気がないんだけど……やっぱり私、全然意識されてないんだなぁ……)


がっくりと肩を落とす。そんなことはつゆ知らず、如水はおもむろに自分の弁当のハンバーグ(といっても冷凍食品だが)を箸でつかむと──


「はい、それじゃ。こっちも。あ〜ん……」


と、差し出した。


「え? へ……ちょ……あ……ん」


目の前に食べ物が来たことで、反射的に口の中に受け入れてしまった。

とりあえずそれを咀嚼しながら喋る。


「んぐ……にゃ、にゃすんのよ! んぐ……」


「あ、すいません。ハンバーグ嫌いでした?」


「んぐ……はぁ……そういう事じゃなくて」


「いや、将来恋人ができた時の練習ということでしたので、こちらもやった方がいいのかなと思いまして……ほら……今は男女平等ですし……」


「んぐ……わ、私はいいのよ、練習しなくても!」


「え、なんでですか??」


「と、とにかく必要ないの! まったく……はぁ……」


気恥ずかしさを隠しつつ、水筒のお茶をぐいっと飲んで口の中をすっきりさせる。


「あ、そのポテトサラダを貰ってもいいでしょうか?」


彼は弁当箱にあるサラダを箸で示していた。


「ん、勝手に取ってっていいよ〜」


もはや投げやりになって返事を返した。


「いやぁ……ありがとうございます……んん、これも美味しいです!」


彼にしてはめずらしく、喜んでいるのが表情から見て取れた。

見たことのない彼の表情を見て、少し胸がトクンと高鳴る。


「ん……ど、どうも」


(……まったく……なんで私がドキドキしてるのよ……)


動揺を隠すように、もう一杯お茶を飲んで気持ちを落ち着かせようとする。


「それにしても……」


彼は弁当を見ながら、少し考えるような仕草をみせていた。

その様子をみて問いただす。


「ん、どうしたの?」


「確かに、小泉さんが前言ったとおり、二人でご飯を食べると美味しいですね」


「……はぁ……それって、単純に如水くんの冷凍食品よりは、私の手作りの方が美味しかったからだよね……それで喜んで良いのか微妙だなぁ……」


(……そもそも、私が言いたかったのはそういう物理的な話じゃなかったんだけど……)


「いえ、もちろんそれもありますけど──」


彼は言葉を続ける。


「え?」


「小泉さんと一緒に食べると、僕が持ってきている冷凍食品がほとんどの弁当でも、一人で食べていたときよりもすごく美味しく感じられるんですよね……とても不思議です」


いつも通りの純真な目をしていた。

そこに悪意や邪気や下心がないことが分かっているからこそ、ストレートに言葉の意味を感じてしまう。


「──っ──」


ドクンドクン──胸の鼓動が先ほどよりも早くなる。

カァァァァッ──顔から耳まで赤くなる。


(……な、なんなのこれ……な、なんで私がテレてんのっ〜〜〜!?……)



────────

【あとがき】

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