第14話:新キャラ黒崎さん
◇ ◆ ◇
純と小町のクラスには、
黒髪でいつも前髪が隠れている陰気な少女というのが、彼女のまとっている雰囲気だった。
純が他人の感情に異常なほど鈍感で周囲から浮いているのに対して、彼女は他人の感情に異常なほど敏感で周囲から浮いていた。
──言い換えれば、繊細すぎる女の子だった。
自然と周りの人間の本心や言葉の裏を理解してしまうところがあった。
例えば、女の子が他人に対して「かわいいね」といった時に、素直に受け取れず、「ほんとは私の方がかわいいけど」とか、「私よりかわいくてムカツク」みたいな裏の気持ちを不必要なまでに読み取ってしまう。
そんな彼女なので、周囲との距離を自分から空けてしまい、周りからも空気のような扱いを受けていた。
高校生にもなったので、直接的ないじめは少ないにしろ、周りからは「いないもの」として扱われているような少女である。
しかし、巡は繊細であるがゆえに、純と小町の関係をクラスの中で最も理解していた少女だった。
◇ ◆ ◇
(……今日は純くんは休みか~……)
珍しく純くんが学校を休んだ。
携帯にメッセージを送ってみたところ、風邪を引いたとのことだ。
(……心配だなぁ~……)
彼の性格を考えると、多少体調が悪いぐらいなら学校に出てきそうな気がする。
(……お、お見舞いに行っちゃおうかなっ?……)
ついでに向こうの家族に挨拶しちゃったり、彼の部屋で看病しちゃったりして…………。
なんて妄想をしていると、
「小泉ー、ここ読んでみろー」
「は、はいっ!」
などと授業中であることを忘れてしまったりした。
そんなこんなで、もうすぐ昼休みという時間になった。
純くんもいないので、女子の友達と弁当を食べることになるだろう。
(……と言っても、純くんがいても最近は一緒に食べられてないんだけど……)
マネージャーの舞野さんから釘を刺されたこともあり、周囲の目が気になってしまう。
毎日一緒に昼ご飯を食べていれば、「からかってるだけじゃないんじゃないか」と思う人もさすがに出てくるだろう。
(……頑張ろうって決めたのに……! 学校で話せる時間が少なくなってる……。それに……私がいないと純くんは一人なんだよね……)
彼は気にしていないだろうけど、彼が一人でご飯を食べたりしているのを見るのは、心が揺さぶられた。
お節介な保護欲なのかもしれないけど、最近の悩みの一つだった。
と、どうにもできない事を考えていたら、昼休みに入った。
友達と弁当を食べる準備をして、お手洗いに行ってから教室に帰ってくると、
「きゃっ!」
という小さな悲鳴が聞こえた。
◇ ◆ ◇
床に散らばる弁当が目に入る。
(あ、あの子は──)
黒崎巡さんだ。
同じクラスの女の子──だけど、ほとんど話したことはなかった。
その子の弁当が床に散らばってしまっている。
……多分、もう食べられるところがほとんどないだろうってぐらいに、こぼれてしまっている。
どうやら誰かがふざけて、弁当を食べている黒崎さんの机にぶつかってしまったらしい。
ぶつかった男子は、反射的に
「あ、わり」
とは言ったものの、その弁当の持ち主が黒崎さんだと分かると、無言で自分の席に戻っていった。
その様子を見ていたクラスメイトたちも、一瞬は彼女に注目したものの、すぐに自分達の会話に戻る。
そう、まるで、何事もなかったように。
私は思った。
見ないことにすれば、何も起きない。
私の世界はいつもどおりだ。
(……だけど……)
やっぱりほっとけなかった。
「大丈夫?」
と彼女に声をかけて、散乱してしまった弁当を持っていたティッシュで、彼女と一緒に片付ける。
「私の弁当あげるからさ」
「……」
黒崎さんは無言でうなずていた。
そんな様子を見ていた、いつも一緒にご飯を食べているクラスメイトが手伝おうとしてくれたけど、私は、
「大丈夫。二人で片付けられるからさ」
と伝えた。
正直言うと、ちょっと腹が立っていた。
自分からは動かないのに、私がやってるから手伝わおうとと思っただけだろうと。
「空気を読んだ」だけで親切心なんかないんじゃないかと。
(……でも、これも純くんの影響かな~……)
以前の私だったら、他のクラスメイトと同じように無視していたかも知れない。
今は、彼だったらこうするってのを私はなぞっているだけだと思う。
彼は嘘のつけない人だから。
片付けが終わると、自分の席の近くで黒崎さんと弁当を食べることにした。
黒崎さんの残った弁当と、私の弁当を二人で分ける。
「……ありがとう。いただきます……」
食べる前に黒崎さんが小さな声でお礼を言ってくれた。
「いえいえ」
と軽く返事をする。
小さな体格から予想できたけど、黒崎さんは少食のようだ。
ちょこちょこと細かく弁当を食べている姿は、愛らしいとおもった。
前髪で隠れてるけど、目も凄く綺麗だし。
なんかちょっと如水くんに雰囲気にてるなーなんて思ったり。
「あ、あのさ……えーと……」
自分から何かを話しかけようとしたけど、今まで接点がなさすぎて話題が出てこなかった。
「な、なんでもない」
そうしてしばらく無言だったけど、黒崎さんが、ぽつぽつと小さな言葉をつないで話かけてきた。
「……あの……小泉さんって……如水くんのことが……好き……ですよね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます