第13話:恋愛トリック
「ちょ、ちょっとーーー!!! 何やってんのーーーー!!!」
──キィィィィィィィィン──
マイクを通した小町の声が部屋に鳴り響いてハウリングを起こした。
「「うわぁっ」」
大きな音に反応して純と小春が耳を押さえた。
「お姉ちゃん! 純くんに何してんのよ」
「なにも〜? ちょっと髪型変えたらどうかな〜って話をしてただけだよ〜」
「だからってそんなに近づく必要ないでしょうが」
「え〜! だって〜」
「だって〜、じゃない! まったくもぉ!!」
ぶりっこぶる姉に、妹はぷんすかと怒る。
一通りの怒りを発散した後、小町はドリンクとフードのオーダー用の端末をいじり出す。
「あー、無理無理、練習なんて絶対無理。なんか頼も」
(ほっておいたらお姉ちゃんが何するか分からないし)
「あ、わたしも!」
ポテトやパフェなど簡単な軽食を端末で頼むと、すぐに店員が届けてくれた。
純を挟んで小町と小春が座った。
「純くん、食べさせてあげようか〜?」
「ちょっとお姉ちゃん、また何やってんの──」
「大丈夫です。自分でスプーン使えますから」
「??」
「……そのくだり、前もやったなー……」
などと言うやりとりをしながら、わいわいと会話が始まる。
話題を切り出すのは、やはり小春だった。
「純くんはさ〜、兄弟はいるの?」
「ええと、妹がいます」
「へ〜、そうなんだ」
「え、そうなの? 知らなかったなぁ……」
(……私、いつも自分のことばかり喋ってたのかなー?)
反省しながら小町は話に入っていく。
「妹さんと仲は良いの?」
「う〜ん……今はあんまり良くないですかね……」
「そうなんだ?」
「今日も出かける準備をしているところを妹に見つかって、『珍しいね、誰かと遊ぶの?』と聞かれたので、素直に『クラスの女子とそのお姉さんだよ』と言ったら──」
「言ったら?」
「もうお兄ちゃんなんて大嫌い! と言われました」
「……うーん……?」
「この前も、僕が学校から帰ったら、妹が僕の部屋に勝手に入ってベッドを占領されてたんですよね。扉を開けたら、顔を赤くして怒って逃げていってしまって」
「好かれてるよね!? それ、絶対好かれてるよね!? しかも結構重度のブラコンだよ!」
「いえ、好きと言われたことはないですね」
純は真顔のままでジュースに口を付ける。
「あのねー、普通はそんなこと言わないんだよ」
「ははは」
小町と純のやりとりを見ていた小春が笑っている。
「ほら、漫画とかラノベとかでも、素直になれない女の子って出てくるじゃん? それと同じだよ」
「ん〜でも、ああいうのはフィクションですからねー。現実と混同してはいけないかと」
「フィクションにも少しぐらい真実があるの!」
「うーん……そうなのかぁ……」
小春が会話に加わる。
「そうだよ〜、純くん。素直になれない女の子なんて、たくさんいるんだから。ほら、近くにもいるかもしれないよ〜」
にやりといたずらっぽく笑っていた。
「もう! お姉ちゃん、何言ってるの!」
「ははは。ちなみにさー、純くんは好きな人とかいるの?」
(──っ──)
小町の息がつまる。
「ええと、家族のことは好きですけど……」
「そういうのじゃなくて、恋愛的な意味で。ほら、好きな女の子とかいないの?」
(──ちょっ──)
「うーん……正直言うと、恋愛というものをした事がないので、よく分からなくて……」
「そかそか」
(──はぁっ──)
小町は安堵がまじった様な
そんな妹を横目に、小春は少し真面目な顔をした。
「……まぁさ〜、恋愛なんて良く分かんないよね〜。私だってさ未だに分かんないもん。好きだと思ったり、付き合った人とかはいるけどね〜。だけど、結局冷めちゃった。だとしたら、たんなる一時の気の迷いだったのかな〜って思ったりするし……」
(──なんか珍しく真面目だな──)
と小町が感じたのもつかのま──
「で、純くん……、小町の事はどう思ってる? 好き?」
(────お姉ちゃん! 質問が直接的すぎーー!!!!────)
「え……と……うーん」
純は返答に窮する様子を見せた。
「ほら、素直な気持ちをぶっちゃけてよ」
(────しなくていいから!! ……いや、して欲しいけど!!────)
小町は混乱している。
「小町さんは、美人ですし、優しいですし、かわいいですし、自分を持ってますし、スタイル良いですし、夢をもってますし、良い匂いしますし、話が上手ですし、演技が上手ですし、面白いですし、人気者ですし──」
「おおお! どんだけすらすらと褒めてるんだ!」
「あ、あとエロいですし!」
(────そ、そこはいいからっ!!────)
「うんうん。それで、どうなの? 好きなの?」
「そうですね、僕、小町さんのこと好きです」
「おおっ!?」
(────き、きたー! こ、告白!? ここで!?────)
小町の心臓が期待で膨らんだ。
「……でも、恋愛とかはよく分からなくて……」
「うんうん、そっかー」
(────うん……人として好きって事だよね! あぁ、分かってたさ! 分かってたさ! ────)
落胆を隠すように小町はぐいっとジュースを飲んだ。
「……じゃ、純くんにとって小町は、どんな存在なの?」
「なんと言ったらいいか僕にとって小町さんは……家族以外で一番身近な人……でしょうか?」
「ふーん、なるほど、なるほど」
(────…………うーん……喜んで良いような、そうでないような?…………────)
困惑する小町をよそに、純と会話をしていた小春はうんうんと頷いて満足したようだ。
「はは、君、ほんと素直だなぁ。よしよし、妹をよろしくね!」
と、バンバンと純の背中を叩いていた。
◇ ◆ ◇
結局まともな練習はできずに、カラオケ店を後にして、小町と小春は帰り道を歩いていた。
「あ〜、楽しかったぁ」
「う〜、疲れたぁ〜」
元気満々で足取りの軽い姉と、それについていく疲労困憊の妹。
「でも良かったじゃん。純くん、小町の事が好きだってさ」
「う〜ん、あれは単に人としてって事じゃん……」
「どうかなぁ? でも、家族以外で一番身近な人って、結局、恋人みたいなもんでしょ」
「う〜ん……友達でもありえるんじゃ?」
「まったく、ネガティブだなー。……そうだ! こんな言葉がある」
「何?」
「夫婦とは一番身近な
「……それ、無理ない?」
「そんなことないって! 一番身近な人ってことは夫婦に一番近い存在って言えるじゃん?」
「……そ、そっかなー?」
「そうさね!」
「そ、そっか!?」
姉の話術によって、小町は少し元気を取り戻した。
「おう、自信持って行け!!」
「で、でも……夫婦はちょっとその……先に行きすぎてるんじゃないかな〜?」
といつつ、小春は頬を赤らめている。
「ははは、まぁねー。でもさー、世の中にあんな純粋な男の子いるんだねー。私、ちょっと羨ましいなー、なんて……」
「ええっ!?」
「冗談冗談! 妹の男に手を出すほど落ちぶれちゃいないって」
「もう!」
と言いながらも、小町は純が褒められて悪い気がしていなかった。
(……そうだよね、純くんみたいな人、他にいないもん! 私、もっと頑張らないと!)
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