第10話:恋はオチるもの

当然ではあるが、小町と純の関係性はクラスメイトの間でも以前から話題になっていた。


「小泉さんと如水って、一緒にいること多いよなぁ」


「俺、この前さぁ、二人が弁当食べさせあってるのみたんだけど……」


「おいおいマジかよ、あの陰キャと小泉さんが!? ありえないだろ!」


「噂によると、二人で一緒に帰ってるとか」


「いや~、なんか女子達の話によると、小泉さんがからかってるだけらしいぜ。いつあの陰キャが落ちるかって賭けしてるとかさ。笑うよな~」


「まじで? えげつね~」


「いやいや、演技だとしても小泉さんに構ってもらえるなんて陰キャには贅沢ってもんよ」


「違いねぇな。嘘でも良いから、俺も構ってもらいたいぐらいだわ」


「あいつが小泉さんに告白したら皆でからかおうぜ! 陰キャが夢見るなってよ!」


「「「ギャハハハ!」」」


小町は純をからかっているだけ──こういった周囲の認識が、結果的に純に対する周りの嫉妬を控えめにしていたのは、ある意味ラッキーでもあった。

周囲から見れば不釣り合いな二人が話していても、余計な横やりが入ることが、なかったのもこういう理由だ

そして、小町自身もそういった状況を上手く利用して純との時間を作っていた部分もあるのだが──


 ◇ ◆ ◇


「ねぇ、こまっちゃん。最近、ちょっと如水にかまい過ぎじゃない?」


学校の休み時間に、小町と友人が集まっていると、一人の女子生徒がそんなことを言い出した。


「え、そ、そう?」


「そうだよ。なんか、「からかってる」を超えて仲良すぎと言うかさ~」


「そ、そんなことないよ」


と否定するが、さらに別の一人が口を挟む。


「まぁいいじゃん。こまっちゃんは、私たちの「遊び」に付き合ってくれてるんだからさ」


彼女がフォローのつもりで入れた一言──だがしかし小町の胸にはズキンと響いていた。

最初は友達の(いじめとも言える)遊びにつきあって純に話しかけただけ、ということが胸の中にトゲのように突き刺さっているのを、自覚してしまう。


「あははー、まぁ私はもう賭けに負けたけどねー。あいつがこまっちゃんに告るまで、正直一週間かからないと思ってたからさー」


「ぷぷっ。あの手の陰キャはびびってそう簡単に告らないってw」


「内心ではもう絶対落ちてるよ~」


小町は、そんな話をから笑いでその場をごまかしながら──


(ううん……そうじゃない。だって……落ちてるのは私だもん……)


とは言い出せなかった。


「で、でもさー、割と如水くんって良い奴……というか面白い……というか……」


力なく言葉を絞り出すが──


「え~、こまっちゃん。なに言っちゃってんのー。冗談キツイよー」


「あ、優しい女のふりしてるな。やらしいわ~」


「アイドルがファンの悪口言えない感じ? プロ意識って感じ?」


「わぉ、すっげ~」


などと相手にされなかった。


「ご、ごめん。ちょっと、お手洗いいくね」


と言ってその場を逃げ出すのに精一杯だった。


 ◇ ◆ ◇


その日の帰り──


純と小町は同じ道を歩いていた。


「あのさ、純くん」


「なんですか?」


「純くんって、なんで他人と話さないの?」


「? こうして小町さんと話してますけど」


「そうじゃなくてさ、クラスの友達とかと話さないじゃん」


「うーん……。話しかけられれば話しますけど……。そういう機会が少ないだけですかね」


「自分からは話しかけたりしないの? ほら、友達いないと寂しいじゃん」


「うーん……」


そう言って純はしばらく考え込む仕草をみせた。

何度も小さくうーんと唸りながら、答えを探しているようだった。


「……多分……正直に言うと、僕も友達はいたほうが良いと思うんですよね」


「……それって、友達が欲しい、っていうのと違うの?」


「いえ、大きくは違わないです。ただ、無理してでも友達になる、というのもちょっと違う気がしていまして。それに……自分でも、僕が空気読めない発言をしちゃうのは分かってますからね」


と言って、親指をぐっと立てた。


「ふふっ……そこ、ドヤ顔で言うところじゃないけどね」


今度は小町が少し考え込んで言葉を探す。


「……少し……(カッコイイ……)とは思うけど……」


「え、なんですか?」


「なんでもない、ないんでもない。ほら、私なんかはさ、周りがどう考えるかを気にしちゃうというかさ、あんまり自分を突き通せるタイプでもないから、純くんの考え方は芯が通っているというか、そんなふうに感じて」


「うーん……。そんな立派なものではないですよ。小町さんは女優さんじゃないですか。周りがどう考えるか分からないと、そんな仕事は務まらないんじゃないですかね? 小町さんに限らず、ちゃんと周りの人のことを考えて合わせられてる人の方がすごいですよ」


「……」


(……そうやって考えられる……本当にすごいのは君だよ……純くん……)


純への好意と尊敬、そして自分の胸に中にあるわだかまりが、小町の胸の中をぐるぐるとかき回した。


「僕はただ、自分にできないことを無理してしないってだけですかねー。怠け者なんですねきっと」


と笑いながら言う純。小町もそれにつられて、ふふふと笑う。


「でもさー、もったいないなー。純くんが喋ったら面白いのにさー。皆知らないなんて」


「そうですか? まぁでも僕は小町さんが僕のことを知っていてくれるだけでも十分ですよ」


「──っ──」


(……まったくもぅ……)


赤くなっていく顔を隠しながら小町は──


(……まぁでも、私だけが知ってる彼の素顔……なんてのもいいか……)


などと考えた後──


(……はっ!まさか、これって、独占欲ってやつ!?……私もう結構ヤバいところまできてるのかしら!?……)


自分で自分の気持ちにツッコミを入れ、余計に顔を赤くしていた。

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