第六話 「毒された真実」
真相を突き止めるため、レイとエステルは村での聞き込みを開始した。思いのほか、情報は順調に集まった。
薬草店の店主は、レイの質問に首を傾げつつも重要な情報を提供した。
「毒性を持つ植物ですか?〝月影草〟なら結構前に、大量に買っていった人がいましたよ。屋敷の使用人でしたね。毒性といっても乾燥して生成でもしない限り毒にはならないし、淡い青白い花弁が綺麗だから買っていく人はいるんですが。あそこまでの量を買う人は初めてでした」
レイとエステルは顔を見合わせる。「エステル、これは怪しいと思わないか?」
「はい。非常に怪しいです。大量の草を買う人は、大抵良からぬことを企んでいます」
「……お前、草が全て毒だと思うなよ」
次に訪れた酒場では、常連客から更なる情報を得た。「現当主様が、夜中に何かを運び出していたのを見たって話もあるし、隠れて誰かと会っていたって噂もあるな」
「前当主様は亡くなる直前まで健康そうに見えたんだがね。それが突然死んだもんから、みんな不思議に思ってたんだよ」
と、これらの情報は、すべて現当主カレドニアへの疑惑を強めるものだ。レイは思案顔で呟いた。
「カレドニアには動機があるはずだ。父親を殺してまで当主の座が欲しかったのか?それとも……」
エステルが突然口を開く。「レイ、人を殺すことは悪いことですか?」
「当たり前だ!なんでそんなこと聞くんだ?」
「では、私たちは今、悪いことをしようとしているのでしょうか?」
レイは自分の額を押さえ、ため息を吐くように答えた。
「お前はだれを殺すつもりだ。俺たちは真実を明らかにしようとしているんだ」
「真実のために人を殺すのは、許されるのですか?」
「だからお前……」と、レイは複雑な表情を浮かべる。そして……
「そういう質問は後にしてくれ」と、らちのあかない話を終わらせた。
その後、村の広場で出会った親切な使用人は屋敷内の状況をこっそり教えてくれた。使用人といっても、全員がレイを疎ましく思ってたわけではない。
中には気の毒だと噂していた者もおり、彼は後者の方だった。
「アルビオン様が亡くなってから、屋敷内の雰囲気が一変したんです。みんな、何かに怯えているみたいで...」
この話は、カレドニアへの疑惑をさらに深めた。屋敷内で、何か恐ろしいことが起きている。
毒性の植物の大量購入、現当主の不審な行動、そして前当主の突然の死、屋敷内の不穏な雰囲気。
それぞれの情報が、パズルのピースのようにはまり、真相への絵を描き出している。
レイとエステルは、これらの情報を持って再びオリンピアの所に戻ることにした。彼女もまた、新しい情報を持っているかもしれないと……
「ところでエステル、おまえ他に怪しいと思う事はなかったか?」
彼女は真顔でレイを見る。「はい。思いました」
「なんだよ、なら言ってくれ」
エステルは静かにレイを指さした。「あなたです」
彼女の言葉に、呆れるように「なにがだよ」と尋ねるレイ。するとエステルは美しい切れ長の目を鋭く光らせ、答えた。
「コソコソと情報を調べ回る不審者。まさにあなたです」
「お前、本当に俺の味方なのか?」
言葉の意図も読み取れぬ人形と共に、レイは集めた情報を持って再びオリンピアのもとへ向かった。夜の闇に紛れ、庭の植え込みに近づく。
「エステル、今度は俺のこと不審者って言うなよ」
「あなたは立派な不審者です」
「……」
鮮やかにエステルの言葉を無視すると、レイは植木超しにオリンピアと情報を交換する。
「お父様の部屋から、この紙が見つかったの。役に立ちそう?」
彼女が見せたそれは、月影草の大量購入を示す決済書だった。さらに複数の毒性植物の名前、入手方法、などが書かれた紙もある。これは、敢えて毒性植物を選んでいたという証拠にもなりそうだった。
月影草の大量購入、現当主の不審な行動、前当主の突然の死。すべての事実が、手紙の内容と合致したので「やっぱり暗殺か」とレイは静かに怒りを露わにした。
直ぐにレイはエステルを連れ、オリンピアから手渡された証拠品を持って、意気揚々と屋敷の扉を叩いた。
出てきた使用人は当然レイ達を相手にしなかったが「月影草の購入決済書の件と伝えてください」と言うと、直ぐに屋敷内に通された。
ただ、話せるのは一人だと言われ、エステルの方は下の客間にて待たされる事になった。レイは何かあった時の護衛の為に彼女を同行させたが、今更後戻りは出来ないと覚悟を決める。
当主カレドニアとの対峙。レイは集めた証拠を突きつけ自首を求めたが、それはそう上手くはいかなかった。意外にもカレドニアは冷静に反論した。「月影草を買ったことが何だ?それが即ち毒殺の証拠になると言うのか?毒に生成して使った証拠は?」
「それは……」レイは口篭る。
「そもそも、お前はその書類をどうやって手に入れた?」
レイはそれに答えられなかった。オリンピアの立場が危うくなるからだ。返事をしない事で、カレドニアは警備を呼んだ。
「こいつを捕まえろ。私の部屋に忍び込んだ盗人だ」
直ぐに捕らえられたレイに、カレドニアは最後の土産とばかり耳元で囁いた。「証拠がほしいか?」
レイの眉が思わずピクリと動く。
カレドニアが続ける。「大丈夫だ、お前の大事な友人に、その証拠を持たせてやった。今ごろは下で美味しく嗜んでいるだろうな」
レイは血の気が引いた。「あんた...何をしようとしているか知っているのか?」
カレドニアが嘲笑する。「これが人の知恵というものだ。お前の正義など、この程度のものよ」
こんな人間と比べたら人形の方がマシだと、レイは客間に通された彼女の身を案じた。
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