第二十八話 「一髪触発」

レイ達が教室へ入ると、中の空気が一瞬で変わった。

二人の新入生の入室。しかも、一方は銀髪の美少女。当然のように目立ち、直ぐに教室内はザワついた。

それよりも、明らかに敵意を持った三人の視線がレイ達に向けられていた。

それは昨日、一悶着あった魔法剣士たちだ。


「ま、まさか……」リーダー格の魔法剣士が唸るように言った。彼の目には怒りの炎が宿っていた。

レイは思わず呟いた。「同じクラスだったのか」その声には緊張が混ざっていた。

エステルのほうは、気にもしないといった冷静さが感じられる。


三人組は立ち上がり、レイたちに向かって歩み寄ってきた。教室内の他の生徒たちは何かを察知したのか、身を引くように視線を逸らす。

緊張が高まる空気の中、ライアンが「ん?どうした?」と、状況が飲み込めていない様子でレイたちと三人組を交互に見ていた。

「君たち、知り合いなの?」


その時、朝のホームルームの鐘が鳴り響いた。その音が、まるでこれから始まる対決の開始を告げるかのようだった。

そんな、緊張が高まる教室の空気を切り裂くように、教室のドアが開いた。


「おはよう、みんな」

声の主は、30代後半くらいの女性だった。長い黒髪を後ろで束ね、知的な雰囲気を醸し出す眼鏡をかけている。彼女の登場に、教室内の空気が一変した。

「あ、先生おはようございます」クラスの誰かが声を上げた。

魔法剣士たちは歯軋りしながらも、席に戻る。


先生は、レイとエステルに気づいた。「そうそう。今日から新しい生徒がいましたね。前に出てきて、自己紹介をしてください」

レイとエステルは前に立ち、簡単に自己紹介をする。

すると「私はマリアン・ウィロウと申します。このクラスの担任です」と先生──マリアンは微笑んだ。


「みんな、新しい仲間をよろしくね」

しかし、教室の空気は依然として重かった。レイは自分の席に向かいながら、魔法剣士たちの鋭い視線を感じた。

授業が始まったが、レイの心は落ち着かなかった。

これからの学園生活がどうなるのか、不安を感じずにはいられなかった。

一方、エステルは冷静さを保ちつつも、常に警戒を怠らない様子だった。彼女の鋭い直感は、この状況が簡単には収まらないことを告げていた。


昼休みになると、魔法剣士のリーダーがレイたちに近づいてきた。

「放課後、中庭で待ってろ」彼は低い声で言った。「決着をつけようじゃないか」

レイは息を呑んだ。これは避けられない対決になりそうだった。


リーダーの言葉を聞いたライアンは、レイとエステルの間に立ち、困惑した表情で言った。

「ちょっと待ってよ。何があったの?決着をつけるなんて……」

魔法剣士のリーダーは冷ややかな目でライアンを見た。

「お前には関係ない。黙ってろ」


その言葉にライアンは一瞬たじろいだが、すぐに気を取り直した。

「関係ないなんてことはないよ。レイは僕のルームメイトで、エステルさんも」

彼は一瞬言葉を詰まらせたが、「……大切な友達だ」と続けた。


レイはライアンの勇気に少し驚いていた。昨日まで見知らぬ人だったのに、こうして自分たちのために立ち向かってくれている事が嬉しくも感じた。

エステルが静かに一歩前に出て、「ライアン、ありがとう。でも大丈夫よ」と言う。

次に、魔法剣士たちを見つめ、「放課後、中庭ですね」と冷静に告げた。


リーダーは不敵な笑みを浮かべ、「おう。必ず来いよ」と言って立ち去った。

ライアンは困惑した表情で二人を見た。

「本当に大丈夫なの?先生に言った方が…」

レイは首を横に振った。

「いや、俺たちで解決しないといけない問題なんだ。心配してくれてありがとう」


昼休みの残り時間、レイはライアンにイジメの現場に出くわした時の事を説明した。ライアンは驚きつつも、理解を示し。色々と教えてくれた。

彼の話では、いじめっ子のリーダーは【ダリウス・アイアンフィスト】といい、魔法使いとして有名な家がらの息子のようだが。

他の二人は、そんなダリウスに引っ付く腰巾着のようなものだと判明した。


「僕にできることがあったら言ってくれよ」ライアンは真剣な表情で言う。

授業が再開し、時間が過ぎていく。しかしレイの心臓は早鐘を打っていた。ただ、エステルの冷静な佇まいを見ると、少し落ち着きを取り戻せた。


そして放課後、レイとエステルは中庭に向かった。ライアンも心配そうに二人に付き添う。

中庭に着くと、ダリウスたちがすでに待ち構えていた。周囲には、何処からか噂を聞きつけた学生たちが集まり始めている。

緊張感が漂う中、レイは深呼吸をした。これから起こることが、彼らの学園生活の行方を決めることになるだろう。


エステルは静かに剣を構え、レイは魔力を集中させ始めた。対決の火蓋が切って落とされようとしていた。

緊張感が漂う中庭。レイとエステルに向かい合う形で、ダリウスたち三人が立っている。

周囲の学生たちの視線が、彼らに集中していた。


その時、人混みを掻き分けるようにして一人の少年が飛び出してきた。

「や、やめてください!」

それは昨日、彼らに絡まれていた少年だった。

「これは僕が招いたことです。もうやめてください!」


「でも……」レイは困惑した表情で少年を見る。

少年は必死に続けた。

「学園内での許可なき決闘行為は禁止されているんです。こんなことをしたら、あなた達も罰せられてしまいますよ!」

するとエステルが冷静に剣を下ろした。「彼の言う通りね」


レイも深呼吸をして、緊張を解く。「わかった。もうやめよう」

しかし、ダリウスは納得しなかった。「ふざけるな!」と叫び、突如レイに向かって飛びかかる。

その瞬間、エステルが風のように素早くレイの前に立ちはだかりダリウスの拳を片手で受け止めた。

「やめなさい」エステルの声は冷たく、鋭利な刃のようだった。


突如、怒声が響き渡った。

「何をしているの!」

振り返ると、そこにはマリアン先生が立っていた。彼女の目には怒りが宿っている。

「全員、校長室へ来なさい」


校長室では、エルドリッチ・ソーサラー学長が厳しい表情で一同を見渡した。

「学園内での暴力行為は絶対に許されません。今回は厳重注意に留めますが、次にこのようなことがあれば……退学も辞さない覚悟でいてください」

全員が頭を深く下げ、反省の意を示した。

だが校長室を出た後、ダリウスはレイとエステルに冷ややかな視線を送った。

その目には明らかな敵意が宿っていた。


その日以降、直接的な衝突こそなかったものの、ダリウスたちのいじめの対象は完全にレイたちに移った。

あらゆる機会を利用して嫌がらせを仕掛けるようになったのだ。

授業中に魔法の的を外し、〝誤って〟レイに当てたり、廊下ではすれ違いざまに肩をぶつける。

エステルに関しては、剣術の腕前を逆手にとって「あの女は他の魔法工学の生徒を見下している」などと言い広めていたり、その手段は巧妙かつ陰湿なものだった。


エステルは相変らず冷静に対応していたが、レイは日に日に自分のストレスが溜まっていくのを感じていた。

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