告白

「おいらはね。この世界を単一種族にしたいんだよ。今までの争いの大半は異種族の争いだからね。エルフと人間は交戦状態だし、ゴブリン族はホビット族を快く思っていない。全てをやり直して単一種族にしたらほとんどの争いは無くなるんだ。おいらは種族間の争いをずっと見てきた」

ゼリーの言葉にガーリーは考えこんだ。世界を変えるという思考はこれっぽっちも持ってなかった。

全ての魔法を知りたい。ほとんどそれだけの為に生きてきた。


「ゼリーはいったい何才なんだ?」

「それもまた難しい質問なんだな。生きてただけなら数千万年かなぁ。ただけっこうな間、思考停止してたし」

「ゼリーは何者なんだ?」

「教えても難し過ぎて理解できないけどな」

「構わない。どうせいつかは記憶を失うんだ」

「なら言うよ。この世界は宇宙と呼ばれる世界で、そこには何兆個の星があるんだ。単位が分からないだろ?南に砂海があるだろ?あの砂粒一つがこの星だとして、砂海の景色が百倍以上あるのが宇宙なんだ」


ガーリーは理解出来なかった。

「砂粒一つが俺様の世界だと?」

「そう。たった一つの砂粒がガーリーの住む世界なんだ。おいら達や人間、エルフや魔物達が一粒の砂に住んでる。ただ他の星にはほとんどが生き物は居ない。生命が住める星は限りなくゼロに等しいんだ」


ゼリーの話は続く。

「おいら達は住める場所を求めて何万年も何もない所を漂っていたんだ。そしてようやく二つ見つけたんだ。その一つがここ。おいら達は二つに別れて住む事にしたんだよ」


ゼリーの途切れる言葉を待ってガーリーは質問した。

「おいら達って他にもゼリーは居るのか?」

「おいら達は一つだけど、複数でもあるんだ。ガーリーが理解出来るか分からないけど、個体群と呼ばれる生き物なんだ。それぞれが思考を持って動くけど、一つの思考としても考える事が出来るんだ」

ゼリーは身体を十個程に別れた。

「これ繋がってないんだぜ」

一つの丸い塊が話す。

「ほらこの寝顔見ろよ。可愛いよなぁ」

違う塊が娘達のベッドへ行き寝顔を見て言った。再び一つに戻る。


「おいらは小さいからこれが限度だ。これ以上小さいと思考を持たなくなり世界樹へ戻ってしまう」

ゼリーは触手を一つ伸ばし、先端に小さな玉を作った。


「おいらは世界樹から別れた世界樹なんだよ。世界樹から見たらおいら自身が混沌でもあるんだ。だから閉じ込められてたんだ」


ガーリーは目頭を押さえた。ゼリーの話が全然、理解出来ない。

「ゼリーはどうしたいんだ?」

「だから混沌を減らしたいんだよ。それには単一種族で世界を作り直すしかない。他に良い案があればそっちにするさ。ガーリー考えてくれるかい?」


「つまりこの世界を平和にすればいいんだろ?争いのない世界に」

ガーリーは一つずつ考えてく。聞いたばかりの話なのに理解できずに忘れてしまいそうになる。


「俺様がこの世界を支配すればいいんじゃね?人間もエルフもゴブリンもあらゆる種族を」


「目的は違うけどそれを考えてるのは居るよ。人間やエルフ。闇の魔法使い達も考えてるかも。それが混沌を産み出すのさ」

ゼリーが答える。

「世界樹は支配出来ないのかな?」

ガーリーは質問する。

「世界樹は考える事と生命を産み出す事しか出来ないんだ。前は居たが、おそらく今はおいらだけが唯一この世界に直接触れる。世界樹の中でも特異体質なんだ」


それでガーリーは思い出した。

「二つの世界に住んでるって言ってたよね。そっちは平和なのか?」

「地球って呼ばれてる星ね。あっちは単一種族で作ったから平和なはずだよ」

「なら、そこのやり方を真似たら?」

「だから真似ようとしてるんだ。単一種族こそが混沌を少なくする唯一の方法だと、おいらは信じてる」


しばし二人とも沈黙。

「俺様とゼリーが組めば世界を一つに出来るんじゃないかな?」

ガーリーは言った。


「私達も居るわ」

リカヒの声。寝ていたはずのリカヒが起きていた。クロとヤミも起きていた。

「その為に私達を集めたんでしょ」

リカヒの声。口調は五歳の女の子だがセリフはとても五歳とは思えなかった。ガーリーが言った。

「リカヒ、お前、理解出来たのか?ゼリーの言葉を」

「よく分からないけど私だって何故ここに住んでるのかは、たくさん考えたもの。きっと何かの意味があるはずだって。ゼリーの言葉でこの為だな。と感じたの」

「クロとヤミも同じなのか?」

「滅びるのは嫌だわ」

クロの言葉にヤミが補う。

「皆と離れるのはイヤだわ」


五歳のエルフとオーガ。成長速度ははるかに高かった。人間の五歳児と同じだと勘違いしていた。


「ゼリー、どうする?」

ガーリーは娘達から目線を外せずに言った。

「どうせ反対してもやるんだろ。いいよ。やってみようか」

ゼリーは言った。

ガーリーはリカヒとクロとヤミを思い切り抱きしめた。


(俺様の記憶が吹っ飛んでもコイツらを守ってやる)

ガーリーはこの想いだけは記憶から決して失わないように強く誓った。


リカヒとオーガの双子を再び寝かしつける。他の娘達はグッスリ寝入っている。

ガーリーとゼリーは部屋を替えてまた話し合う。ガーリーは聞きたい事がまだあった。


「子供達をどうやってさらったんだ?あの盗人の存在は?手形の扉は?」

「一度に質問するなよ。利用したのは悪かった。謝るよ」

「謝らなくていい。教えてくれ」


「子供達は全員おいらが産み出した。もちろん対価は大きい。何かを産み出す時に何かを失うのは世界樹でも同じ。おいら達は身体を対価にする。子供達を作る前の身体は修道院くらいあったんだぜ」

ゼリーは身体を揺らして言った。話は続く。

「で、なんだっけ?あぁ、あの男か。あれはガーリーを修道院に来させる為に使っただけなんだ。ガーリーのお宝の場所と、逃げ道を修道院。と教えただけだが」

「抜け殻にする程の魔法は何を使ったんだ?」

「おいらが奪ったんだよ。おいら達は記憶を奪ったり与えたり出来るんだ」

「俺に記憶を与えた?」

「与えてないよ。記憶は与えられるけど、たくさんの知識が一気に入るから気が狂ってしまう」


「あの手形の扉は?」

「トゥリの言う通りさ。世界樹に行ける入り口。おいらと同じ思考の仲間が必要だったんだ。存在がバレたら呑まれるから入るにはあれしかないんだ」

ゼリーの答えにガーリーの違和感は解けた。


「ドラゴンとか産めないのか?」

「おいらの身体じゃ少なすぎて無理だね。七人産むのですら、おいらの存在がどれだけ小さくなるか分からなかった」


「本当に混沌が来るのか?」

「ガーリーや人間、エルフ達が知らないだけで、ゴブリンとか何十万匹もいるんだぜ。それに他にも種族は居るんだ。いつか必ずとんでもない戦が始まる。魔物達は知恵をつけてきてるし、闇の魔法使いもなにやら企んでる。誰かが動けば一気に混沌の世界になる。間に合えばいいんだが」


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