娘に

四歳を迎えた時、ガーリーは子供達はもう修道院の世界だけでは狭すぎる事に気付き、町へ連れ出そうとゼリーに言った。ゼリーは記憶や経験は増えるだろうが人目につけば危険も増える。と反対した。


結局折り合いをつけ、町ではなくブランス村へ連れてく事になった。村ならガーリーが子供達を育ててる事を誰もが知っていたからだ。


七人にフードや帽子をかぶせ、人前では決して取らない事を約束させる。全員良い返事はしたが果たしてキチンと守るかどうか、ガーリーもゼリーも不安だった。


村は歓迎ムードではなかったが、邪険にはしなかった。ガーリーは村にとって、なんでも買ってくれるお客でもあった。


村の子供達だけが奇異な視線を七人に遠慮なくぶつけた。

エルフのリカヒとドルイドのトゥリ、リザードマンのウォッタ。それとオーガのクロとヤミはその視線に気づいた。リカヒは堂々と受け止め、トゥリは下を向き、ウォッタは気にしなかった。クロとヤミも気付いたにもかからわず気にしなかった。

人間のフィアとホビットのチッツだけが村の子供達の視線に全く気付かなかった。フィアは大勢の人達を見て。チッツはたくさんのオモチャに夢中だった。


娘達はそれぞれ好きな物を買ってからジニーの食堂でご飯を食べ、何事もなく帰宅出来た。唯一、食堂でもフードや帽子を被ったままでの食事。ガーリーは誰かに注意されないかとヒヤヒヤしたが杞憂に終わった。


「やっぱ人の多い所はダメだな」

帰宅しグッタリ疲労したガーリーはベットに寝転び言った。

「だろ?七人も面倒はみてられないよ」

ゼリーは答えた。帰ってからも服を着替えさせたり飯を食わせたりと大変だった。


子供達が五歳になるとガーリーは口数が減り落ち着きがなくなる。絶えずイライラして、子供達が気付いても隠そうとしなかった。


ガーリー自身は苛立ちの原因が分かっていた。扉の封印の手形がそろそろ合う時期なのだ。子供達を対価に使う。記憶を全て失うのか、命まで使わなければならないのかすら分からない。


扉の先を知ったところで自分の自己満足にしかならない。それの為だけに子供達を犠牲にしていいのか。ガーリーは悩む。

こんな感情は初めてだった。ゼリーは扉を開く前提で育てている。それも気にくわなかった。


「ゼリー、扉のカギはあるのか?」

「ないけど、手形で開くんじゃないか?」

「開かなかったらどうするんだよ」

「鍵を探せばいいだろ。おそらく次の満月だろうな。中はなんだろうなぁ。ガーリーも知りたいよな」

ゼリーの他意のない言葉に苛立ちが溢れた。

「子供達はどうなる?」

つい力を入れて言った。

「記憶を失うだけじゃないかな?抜け殻になっても赤子に戻るだけだし」

「俺が今まで育てた苦労は?」

「だからその苦労を報いる為にも扉を開けないとな。集めたお宝どれだけ使ったと思う」

「お宝はまた集めればいい」

「でも手形は待ってはくれないよ」

ゼリーの言葉にガーリーは睨みつけるも何も言い返せなくなる。


「俺はあの中を知りたいんだ。でも子供達を犠牲にするのはイヤになったんだ」

ガーリーは叫んだ。どちらも失うのはイヤだった。ガーリーの大きな声で子供達が集まる。


「愛着がわいたのかよ」

ゼリーは言った。

「お前は湧かなかったのかよ」

ガーリーは負けじに言い返した。


ゼリーもガーリーも無言。


口を開いたのはドルイドのトゥリだった。

「あ、あのね。あの床の事?あそこだったらね。世界樹へ繋がってるんだよ。そ、それにね。ゼ、」

「トゥリ、なんで地下を知ってるんだ?」

ゼリーがトゥリの話の途中で言った。


「だ、だってヤミが教えてくれたんだもん」

とトゥリは素直に答えた。ガーリーとゼリーはヤミを見る。ヤミは視線を背けた。

「開いてたのよ」

とヤミはソッポを向いたまま言った。


「ドアは開いてないだろ」

三つの魔法がかかってる。簡単に開けられるはずがない。

「ドアじゃないわ」

と言ったのはクロ。

「どこからだ?」

ガーリーの質問にクロが黙って歩きだす。後を皆がついていく。クロは外に出ると修道院の裏に回った。崖から切り落とした石がたくさん置いてある場所。その石と石の隙間に子供達が次々と入っていった。どの子もすでにここを知ってたようだった。

ガーリーは大きくて入れない。ゼリーが入る。


しばらくしてゼリーが出てきた。

「隠し通路だったよ」

ゼリーの言葉にガーリーは唖然とするも、やがて大きな声で笑った。

「ゼリーの身体を対価にしたのも無意味だったんだな。しかしお前らよく見つけたな。こんなとこ」

戻ってきた子供達を見てガーリーはそう言い、また大きく笑った。ガーリーはおかしくてたまらなかった。


「よし決めた。トゥリ、中身は世界樹へ通じる道なんだな。きっとこれと同じように他にも通じる道があるはずだ。だろ?ゼリー」

ゼリーは否定も肯定もしなかった。

「決めた。もう決めたぞ。お前達は俺様の娘だ。誰も不幸にはさせんからな」

ガーリーは言い切って子供達を抱きしめた。

「怒ってないの?」

トゥリが恐る恐る聞いた。

「怒るもんか。むしろ褒めてるんだ。凄いぞ。トゥリ。よくやった」


子供達の話を聞く。あの隠し通路を見つけたのはクロとヤミ。蟲を探してる時に見つけた。と言った。

ガーリーが封印したドアを解除し地下に行くと部屋には子供達のオモチャや蟲籠。ランタン。布団までもあった。地下室は子供達の秘密の遊び場所だった。


子供達には地下に行くな。とは言ってなかった。このドアは開かない事だけ伝えてあった。それにガーリーの知らない書物をリカヒは見つけ、チッツは魔力のある石を見つけていた。


修道院の中でしか遊べない七人にとって修道院全てが遊び場であった。


ようやく寝かしつけた後、ガーリーとゼリーは話し合う。


「トゥリはドルイドだ。木の属性って事は世界樹の話は本当だと思う」

ゼリーは、うん。と返事する。

「世界樹に行けるかもしれないんだぞ。そんな素っ気ない返事でどうするよ」

ゼリーは再び、うん。と言う。何かを考え込んでいる。

「全て正直に話せよ。ゼリー、お前本当はスライムじゃないんだろ?」

ガーリーは大きく息を吸ってそう言った。


「なんだと思う?」

ゼリーが答えず質問する。

「世界樹の何かかな」

ゼリーが、うん。と答えた。

「やっぱりな。何が目的なんだ?」


「ガーリーは自分の事どれだけ知ってる?」

「俺か?子供の頃の記憶はもうないな。親兄弟も知らないしどこで産まれたかも分からん。魔法がたくさん使えるのはおそらく、前世の記憶を持ってるのかもしれん。俺が忘れてるだけでな。それが夢に現れてる。そんなとこか。ゼリーは?」

「おいらはなぁ。どこまで話せるかなぁ。話せば子供…娘達が平和に過ごせなくなる可能性が高くなる」


「俺様の魔法でなんとかするさ。ここ五年間ほとんど魔法使ってないんだぞ。ここにある書物は全て記憶したし、夢も見続けてる。ほら話せよ」


ゼリーは言うのを渋る。ガーリーは黙ってゼリーの覚悟が決まるのを待つ。


「なぁ、混沌は平和に必要か?」

ゼリーは唐突な質問を言った。

「そりゃ必要だろ。それがなければつまらん」

「言い換えるか。毎日が死と隣り合わせの生活は必要か?」

混沌とはそういう事なのだ。面白いつまらないでは片付けられない。ガーリーはゼリーの言葉に黙る。


「この世界は混沌がある。おいらは出来る限り悪も混沌も少ない世界にしたいんだ」


「どうやって?」

ガーリーは聞いた。






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