七人の乳飲み子


二階に上がりガーリーは言った。

「ここに住んで赤子を育てるぞ」

「何バカな事を言ってるのよ。あんたが育てられるわけないじゃない。この子達の性別知ってるの?」

ジニーがあきれた顔で言う。

「男女半々?」

「それすら知らないで。女の子よ。全員ね」

「ここを綺麗にして村でも作れば育てられるだろ」

ジニーにかまわずガーリーは言う。

「あんた、正気?」

「ほら、こんなに可愛い赤子達じゃないか!」

ガーリーは赤ん坊達を何人かガサツに抱き抱え頬ずりをする。そのうちの一人が泣き顔に。慌てて箱に戻す。


「お金あるの?」

ジニーの問いに、

「ゼリー!出しな」

とガーリーは指を鳴らしてゼリーに言った。ゼリーの身体がドーナツ状になり、その輪の中から色鮮やかな宝石が出てきて床に溢れるように落ちた。

「私がやるわ」

ジニーは目の色を変えて宝石に飛び付いた。

「ジニーに任せるから頼むぞ。とにかく俺は子供を育てたいんだ」

ガーリーは両手を上げて言った。


ゼリーは、決心したガーリーを見てホッとした。好奇心を刺激されまくったガーリーと、宝石に魅せられてるジニーは気づくはずもなかった。


ガーリーは修道院の土地全てに浄化の呪文を唱えた。だが全ての魔素は消えなかった。地下の扉から魔素が溢れ出てる。


「地獄へ通じる門かもしれないな」

とゼリーが言った。仕方なく誰にも入られないよう地下への扉に封印の魔法を三個重ねてかけた。そのうちの一つにゼリーの身体を対価に使った。ゼリーが嫌がるかと思ったが珍しく素直に差し出した。ゼリーの身体は小さくならないが使った分だけ体積が減る。


数日後。

「ガーリー、少しは手伝いなさいよ」

ジニーは床を洗いながら怒鳴った。

ゼリーは何本もの触手で器用に七人の子供をあやしてる。ガーリーは地下にあった書物を片っ端から読んでいる。


「もう少し人を雇おうぜ」

ガーリーは書物から目を離さず面倒くさそうに言った。

「お金は出さないよ。全部あたしのもんだ」

「なら一人でやるんだな。俺はもうジニーに渡したんだ」

「まだあるんでしょ。出しなさいよ」

「あるけど、あの宝石一つで一年過ごせるよ」

「あんなのすぐ売れるわけないでしょ。テキス街にでも行かないと」

ジニーは文句を言った。


修道院は一週間ほどかかって綺麗になった。ジニーが一人でやる事に根をあげ、乳母と掃除夫を雇ったのだ。雇えたのは村長の娘でもあるジニーが頼み込んだ事と渡した銀貨の枚数。


乳母はエルフやドワーフの子供達を見て驚いたが、ジニーが銀貨をさらに渡した事で黙った。


ジニーが修道院のそばに小さな飯屋と住まいを建てた。毎日修道院に通うのが面倒だからと。それなら飯屋付きをと考えた結果らしい。お客は今のところガーリー一人だけ。


村人は綺麗になってく修道院を覗き見するようになった。事実、地下室を封印してからは、カラスや使い魔達は一切集まらなくなった。ヤギやヒツジを飼い始めてからたまにオオカミが来るくらいだ。


赤ん坊は全て女の子。エルフ、ドルイド、人間。の他にホビット、リザードマン。そしてガーリーが一番驚いたのはオーガの双子。長く生きてるゼリーですら見たのは初めてだと言った。


成長と共に外見的特徴も顕著に現れた事でオーガだと分かった。

人間の子は普通だが、エルフは耳が尖り、ホビットの緑色の髪はちぢれてきて。ドルイドは相変わらず小さいまま。リザードマンは両首筋に小さな三本のエラ線が現れ。オーガの双子の頭にはそれぞれ小さなコブのようなツノと歯にヤイバが生えてきた。


六種族の子供を対価とする魔法とは一体なんなのか。そもそも人間やエルフ、ホビットならともかくドルイド、リザードマンから子供を盗み出すのはほぼ不可能に近い。そしてオーガ。東にある島々にスマホと言われてる伝説の種族。


疑問は疑問のままながらも生活の基盤を作る。ガーリーはここら辺では手に入らない高価な果物と野菜のタネを植えた。育てたい人を雇う。ヤギやヒツジ。馬も増やした。


どの赤ん坊も病気せずに元気にスクスクと育つ。その成長と共に修道院の周りにジニーが雇った人達が住み始める。


ガーリーはひたすら書物を読む生活。魔法を使う対価に記憶がなくなる。記憶を増やすのは書物が適してる。僧侶や魔法使いなら必須な習慣。


そして出来る限り眠りにもつく。ガーリーは夢の記憶も対価になってると信じてる。その証拠に夢の世界の黒く塗りつぶされてる場所が昔より多くなってる。

夢の中で見れる文字は知っていたが今はもうほとんど塗りつぶされて分からない。


赤ん坊の名付け親には相応の責任がかかるので、ゼリーもジニーも嫌がり、仕方なくガーリーが付けた。


光のエルフはリカヒ。炎の人間にはフィア。土のホビットにチッツ。木のドルイドにトゥリ。水のリザードマンにウォッタ。闇のオーガ双子にクロとヤミ。


「どっからその名前を?」

とジニーが聞いた。

「夢の中で知ってたはずの文字さ」

とガーリーは答えた。夢の世界では理解できてたはずの単語。今はうろ覚え。


精神的な成長はエルフが早かった。身体的にはリザードマンのウォッタとホビットのチッツ。元気なのは人間のフィア。大人しいドルイドのトゥリ。オーガのクロとヤミは滅多に泣かなかったが笑う事も少なかった。


村の人達の半分以上は種族の違う子供達が居る事を恐れた。災難が降りかかるだろうと。


不安がる村人達にガーリーはジニーを通じてなるべく村で買い物をし、時には珍しい果物や野菜をタダで渡した。子供達を教育するマスターが欲しいし、変な噂は立てたくない。


精神的成長の早いエルフが一番最初にガーリーをパパと呼んだ。ガーリーは、パパじゃない。ガーリーだ。と答えた。ガーリーは育てはするが父親になる気は毛頭なかった。


ジニーはわざと子供達にガーリーの事をパパと呼ばすようにしていた。ガーリーがここにずっと居てくれれば、魔物や獣が襲ってきた時でも安心出来る。ガーリーの強さをジニーは知っていた。


赤ん坊が育つとともに修道院の近くに住む者が増え、毎日誰かしらが野菜や果物を買いに来たり、何かを売りに来るようになった。ガーリーも子供が使う布や服、書物など必要な物を値切りせず、惜しみなく頼んだ。


ガーリーは売りにきたほとんどの品物を買った。七人を育てるのは思った以上に物が必要でお金がかかったが、お金の心配しなくていいほどの宝石は集めてあった。


修道院の裏にある崖に無数の掘った居住跡がある。売りに来た村人が、昔ここは神官や僧侶、修道士達の修行の場所だった。と教えてくれた。


ガーリーの一日の生活は書物を読みながら子供達の世話と相手。そして崖にある居住跡の散策が加わった。


あっという間に三年もの月日が流れ、子供達は動き回るようになり、成長が早いエルフのリカヒが早くも姉妹達の面倒を見たがるようになった。


人間のフィア。好奇心旺盛で目を離すとすぐ違う所へ行きたがった。フィアのせいで屋敷には足の高い机が多くなった。なんでもかんでも触りまくる。


赤ん坊から身長も体重もさほど増えない甘えん坊なドルイドのトゥリ。抱かれるまで泣き続ける。意外と根性はあるのかも。とガーリーは片耳を塞ぎながら泣きわめくトゥリを抱え抱きしめる。


ホビットのチッツはオモチャが大好きだった。オモチャといっても人形などではなく、釘や馬の蹄鉄、綺麗な小石などだ。


リザードマンのウォッタは水属性らしく水風呂が大好きだった。夏はずっと水の入ったオケに浸かっていた。暑さに弱いのかもしれない。


双子のオーガ、クロとヤミの目が赤く光り始めた。二人とも世話を焼かれるのを嫌い滅多に抱っこを求めなかった。


ガーリーとゼリーはやる事がないのもあるが、ひたすら子供達の相手をさせられた。

立てたり喋れるようになったら少しは楽かも。と思ってたが、それぞれが歩き始めると勝手にあちこちと動き回り、動かない時はそれぞれの話相手をしなくてはならない。

ガーリーはまともに書物を読む時間がなくなった。


文字通り子供達に振り回される日々。それでもガーリーは乳母を増やす事はしなかった。ガーリーは気付かないうちに子供達に愛着が湧いていた。



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