フィアとルッカ
ゼリーが娘達に今日の戦いの反省と注意をしながらの晩ご飯。ルッカは馬のそばにいながらゼリーの話に聞き耳を立ててる。
クロとヤミがゼリーを見つめた。
「誰か来るようだ。馬車だ」
ゼリーは皆に言った。フィアも含め全員フードを深くかぶり下を向いた。
ルッカが、この炎を見つけた兵士か商人だと思う。と皆に言った。
「馬車の中に入る?」
とトゥリが言うも、
「俺達は悪い事は何もしてない」
とガーリー。
三台の馬車が近くに止まり中から人が出て来た。
「なんだよ。もう来てるじゃねぇか」
降りた男の声が聞こえた。
ルッカは三台の馬車に描いてる名前を見て小声で言った。
「テキス街の商人達だ」
ザメリカ国で一番大きな街。レギウス国王が住んでる城下街。商売の街でどんどん人が住み着いていく。
「どこの街の商人だ?」
男の問いにルッカが、ブランズ村だ。と答える。男達は顔を見合わせたが、一人の男が「ザメリカとドシアの境にある小さな村だ」と思い出したように言った。
「お前達がこれをやったわけ…ないよなぁ」
男がフィア達を見て言い、ルッカは、そうだ。と答えた。男達が笑う。
「全部は取らないから嘘はつくなよ」
「嘘じゃない。魔法使いがいるんだ」
ルッカは言った。
「ここにどれだけたくさんの魔物がいるか知ってるのか?国ですらお手上げしたんだぞ」
「本当にこの人達が倒したんだ」
ルッカはムキになって言った。
「何を謙遜なさってます。ガーリー様」
とガーリーが露骨に頭を下げて横から言った。
「ガーリー様の魔法で倒したのは事実でございますよ。商人様」
明らかに芝居がかった言い方をするガーリー。
「あっしの名前は、デルカリのルッカという小さな商人でございやす。このガーリー様と申す方に助けられたんでございます。いやもうそりゃ恐ろしかったです。あまりの恐ろしさに子供達はまだ震えておりますです。はいぃ」
と娘達を指差した。娘達全員が震えてるのが分かる。ガーリーの道化芝居に笑い声をこらえて必死に耐えている。
男達は信じられず、
「なら証拠を見せてみろ」
と言いだした。
「ガーリー様は魔法をたくさんお使いなさったので…でも一つだけなら」
とガーリーはルッカに目配せをする。
「おー。闇の呪文を見せてくださるとは。こりゃあっしの生涯一の記憶となりましょう」
ガーリーは大げさに手を上げてルッカを敬った。ルッカはガーリーの意図は分かったが、呪文が分からないので突っ立ったまま。
「あぁ。杖を忘れてましたな」
とガーリーはルッカに近づき小声で、
「何やってんだよ。適当に呪文唱えろよ」
と言った。
ルッカは、たとだとしく
「や、闇に出でし、冥界のあるじよ。わ、我が名の下に召喚せしめよ。フィアトゥリリカヒウォッタチッツクロヤミ」
最後は何を言っていいか分からなくなり皆の名前を続けて言った。
ルッカの影から黒いモノが浮き出され、それはどんどん大きくなる。悪魔の顔をした黒い影が現れた。
「おー。古代の悪魔を召喚したのですか。子供達も大きく震えてますぞ。あぁ恐ろしや。やれ恐ろしや」
ガーリーは踊るように言う。娘達は笑いを抑えるため、更に大きく震えてる。
悪魔の格好をしたゼリーが低い声で言った。
「我があるじを愚弄したのはどいつだ?奈落の底へ案内しようぞ」
男達は身動き一つ出来なかった。ガーリーは、
「ガーリー様のお力を信じましたでしょうか?あっしがお怒りを和らげるよう進言致しますゆえ、どうかお静かに、お静かにお帰りくださいましぇ」
ガーリーは呆然と突っ立っている男達に帰るよう悟す。が、恐怖に思考停止してるのか動かない。
突然どの馬も暴れ出し、まだ生き残ってる魔物達が飛び立つ音や奇声が響いた。クロかヤミ、どちらかが殺気を出したらしい。
その物音や声で男達は我に返り、一言も言わず逃げるように立ち去った。
娘達は我慢の限界を超え大きく笑い転げた。
「何をやらせるんだよ」
ゼリーは元に戻って言った。
「これで俺様の名前が更に有名になるだろ?」
ガーリーは笑って言った。
他の商人もここに来ると予想を立て、朝明るくなったと同時にゼリーが煙の残る穴から急いで宝を取り出した。
結局めぼしい剣や鎧はなかったが、お金や宝石はそこそこに集まった。
バザールに向かう道中。運転してるルッカの手綱椅子の隣にフィアが座って来た。
「風、気持ちいいね」
フィアが言った。ルッカは、うん。としか言えなかった。
「ねっ、私にも教えて」
「何を?」
「運転」
フィアは笑って言った。爽やかな笑顔と魔物と戦ってる時の精悍な顔。その差に思わずルッカは思わず見惚れた。すぐ我に返り、
「危ないからダメだよ。四頭操るのは難しいんだ。それにお客さんにはやらせられないよ」
四本の手綱を二本ずつ持ちそれぞれの馬を制御する。馬の性格を知るまでと慣れるまで難しいが、フィア達ならすぐに覚えてしまうだろう。そうしたら自分は必要なくなる。ルッカはそれが嫌だった。
「本当、いい風ね」
フィアは立ち上がって手を上げて風を身体に浴びた。
目の横にフィアの柔らかそうなお腹が服の間から見えた。ルッカは前を向く。気付かれたかと思いルッカは質問した。
「何のためにあんな事をするの?」
「あんな事って?」
「いつも剣の練習してるし、魔物…退治…とか」
質問してる途中に聞いてはいけない事を聞いたかと思い直し、最後は声が小さくなった。
「あぁ。パパと世界統一するからよ」
フィアは屈託無く答えた。
「世界統一って?」
「よく分からないけどパパが世界の王になるのよ。そうしないとずっと一緒になれないんだって」
フィアは笑って答えた。ルッカもよく分からなかった。世界の王になんかなれるわけない。もしなるのにしても子供の時からフィアをこんな危ない目に合わすのか?とルッカは思った。
世界は広い事をルッカは知っている。父親と共に色々な街を渡り歩いた。ジャイナ街にも何回も行った。でもガーリーがいればもっと世界を回れる。とも思った。
「よく分かんないや」
「私もよ。皆がやってるから私もやってるの。それに一番になれたら気持ちいいと思わない?」
フィアは微笑んでそう言った。
ルッカはフィアが七人の中で一番綺麗だと思ってる事を言いたかったが、恥ずかしくて言えなかった。
「これ」
と言ってルッカは綺麗な髪留めをフィアを見ずに渡した。これも本当なら売るつもりの品物。小さいけど珍しい海珊瑚の石がついた髪留め。
「売ってくれるの?ありがとう」
フィアは言った。
「い、いや。君にあげるよ」
「本当に?嬉しいわ」
ルッカはそっぽを向いて、にやけそうになるのを我慢した。
「じゃあ私もあげるね」
とフィアはルッカに渡した。何本かの大きな尖った牙。
「使い魔の主の牙よ。倒した人しか手に入らないから自慢できるでしょ」
「こんなお宝貰えないよ」
ルッカは断る。それに初めての戦いの記念なんじゃ。とも言った。
「いいの。あげるの何もないし。髪留めの方が素敵だし」
フィアは髪留めを眺めて言って、それから髪に止めた。風でなびく髪に海珊瑚の石がキラキラと光った。
ルッカはフィアがやっぱり一番綺麗だと思った。
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