バザール

バザール。四年に一度、商人同士が一斉に集まるお祭り。あらゆる場所からあらゆる種族の商人が売買しに来る。が、今では入場券さえあれば商人でなくても入れるようになった。


朝ご飯を食べてる最中、

「こないだの商人もバザールに来てたら危ないんじゃない?」

とフィアが聞くと、

「二週間もやってるし、ホビットやエルフも来るんだ。だからいざこざは絶対にご法度なんだ」

と馬車の乗り鞍に座ってるルッカが答えた。

「誰が仕切ってるんだ?」

とガーリーは干し肉を奥歯で咀嚼しながら聞く。

「大商人マゾンとザメリカのレギウス王です」

ルッカは答えた。

「リザードマンは来るのか?」

とウォッタは聞いた。

「どうでしょうか。前回は滅多に見かけない闇の魔法使いも来てたしね。父さんは、その人を転生者だと言ってたもの」

とルッカが答えてく。


「俺様より強い魔法使いがいるのか?」

「まぁ四、五百年生きてるのも居るからなぁ」

とゼリー。

「どうやって?」

「身体を乗り換えるのさ。転生って言うんだ」

ゼリーはすぐに答えを言った。


「事実だったんだな。教えてくれ」

ガーリーは、自分が知らない魔法があるのは許せない。


「教えてもいいけど、成功するの難しいよ。ほとんどが失敗する」

「使わないから教えろよ」

ガーリーはゼリーを掴み引き寄せて言った。

「分かったよ。分かったからそんな近付くな」

ゼリーは、ガーリーからスルリと離れて言った。ルッカが鞍から降りて、

「僕にも教えてください」

と頼み込んだ。

「ルッカは無理だよ。呪文唱えるうちに抜け殻になっちまう」

「使いません。一つでも知りたいんです」


「分かったよ。娘達もよく聞きな。やり方だけ話すよ。わざと少し難しい言葉で話す。まず対価は自分の上層記憶の全て。記憶には上層と中層、そして無意識層の三つに別れてるんだ。人間関係や生活の記憶のある上層部分的は間違いなく全て失う。そして対象の相手が必要。ほとんどが寿命の長いエルフだけどね。対象とする抜け殻のエルフを用意する。転生の呪文を唱える。うまくいけば自分の中層記憶と無意識層の記憶を対象に移し替える事が出来る」

皆がゼリーの話を聞いてる。

「もちろん、うまくいけばの話だぞ。失敗したら抜け殻になる。記憶処理がうまくいかずに気が狂う事もあるし、うまくいったとしても上層記憶を再び記憶する為に、誰かの手助けが必要になる。だからまぁ、死ぬ前の悪あがきだな」


「俺の夢もそうなのか?」

「ガーリーのは本当に分からないんだ。夢の景色は聞いた事すらない。もし転生ならその景色すら失う。絶対に思い出す事は無いし夢にも現れないはずなんだ」


「呪文は対象者にも言わせないと産まれないから、一人で唱えても何も産まれない」

それからゼリーは呪文を言った。ルッカとガーリーはその呪文とやり方をしっかり記憶した。


馬車に乗りバザールへ。

「さぁ、服や小物は好きなのを買っていい。お金はたんまりある。お宝売るからね」

馬車の中でゼリーが言った。娘達は喜び、それぞれ何を買うかを言い合った。ルッカは転生の呪文を記憶に刻もうと黙ったまま。ガーリーは夢の事を考えていた。


ガーリーがいつも見る夢。硬い道路。周りには高くそびえ立つ石の建物。馬のいない車が何台も道を通る。見た事もない服を着た人間達がたくさん歩いている。そして真っ黒な自分の姿。どこにも触れず、誰にも見られない。景色が前より少しずつ黒く塗りつぶされてる。前は意味の分からない文字があったが、今はもうその部分も黒い。見渡す景色の半分とはいかないがけっこう黒くなってる。


全て黒くなったらどうなるんだろうか。夢の中のガーリーはここを夢の世界と分かってるのだが、他の場所に行ってみようという考えはいつも思いつかず、毎回その場にただ立ち尽くしてるだけ。歩く事も出来るはずなのだが、歩くという行為を忘れてしまってる。


目覚めてから、歩いて別の場所へ行けたのに。扉が開いてる建物の中に入れるのに。と悔やむ。そしてすぐどんな夢を見たか分からなくなる。思い出せそうで思い出せない不安定な気持ちを抱えて目覚めるのが、ガーリーの寝起き。


昼ご飯を食べながら、ゼリーがまた色々な話をする。それを離れて食べてるルッカが盗み聞きしていたが、ゼリーがおいで。一緒に聞くように。と言った。


フィアが少しズレて席を空けるが、ルッカは恥ずかしくてゼリーの隣に座った。


ルッカにとってゼリーやガーリーの話はお金を払ってでも聞きたい話ばかりだった。どの話も聞いた事がない内容で、作り話だとすら思ってしまう。


馬車に乗る前、ルッカは娘達に売ろうとした品物を全て見せて、好きなのをあげるよ。と言った。

話を聞かせてもらった対価。と付け加えた。品物はどれも女の子なら買いそうな物ばかりだった。

ガーリーはそんなルッカを見て、宝石を一つあげる事を約束した。バザールで金に替えて品物を買って村で売れば儲かる。と。

ルッカは、自分は何もしてない。と断ったが、娘達が戦ってる間に馬の見張りをしてた。とガーリー。


ルッカはますますガーリーと一緒に居たいと思った。


バザールに近づくにつれて行き交う馬車が多くなり、バザール入り口の空き地には三百か四百もの馬車が止まってあった。


娘達はバザールの入り口を見つめてる。

ルッカは二度目だったのでバザールに関して覚えてる記憶を全て、頭の中から掘り起こす。


ゼリーはガーリーのマントの中に潜り入り、ルッカを先頭にバザールへ入った。


娘達は、これだけ一度にたくさんの人を見るのは初めてだった。人間やエルフ、ホビット、ドワーフ、そして顔すら隠すような黒ずくめの集団。

物を売る商人はエルフとホビットが多かったように見えた。

ウォッタはリザードマンを探すが見つからない。


見た事がない美味しそうなお菓子をたくさん買って、案内地図を皆で見る。別行動と戻る時間を決める。武器と防具は皆で見る事に決めた。


ホビットのチッツとドルイドのトゥリが一緒に行動し、リカヒとウォッタとフィアの三人が一緒。オーガの双子はいつものように二人一緒。


フィアがルッカに、一緒に周ろうよ。と言ったが、ガーリーと一緒に競売を見に行くと断った。フィア一人とだけなら一緒に行きたかったが、それは言えなかったし、顔には出さなかった。


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