バザール.2

ゼリーは皆の行きたい所はだいたい把握していた。チッツとトゥリは道具屋だろうし、フィアやリカヒ、ウォッタは武器屋だろう。オーガの双子は生き物屋。と。


ガーリーは魔法使いを探してる。

「けっこう広いな」

ガーリーの呟きにルッカが、

「こんなに大きくなるまでは色々あったみたいです」

と答えた。

「何のためにバザールをしてるんだ?」

ガーリーは聞く。ルッカは分からなかった。ゼリーが答える。

「貴重な宝を集めたいんじゃないかな?値段のつけようがないほどの宝を」


値段のつけようもないお宝が世界にいくつもある事をルッカは知っている。

使い魔くらいの魔物なら寄せ付けない光の宝珠は一度見た事がある。記憶を失わず産み出す事の出来る炎のランタンも知っている。

もちろんどれもデルカリ商店にある全ての品物を売っても買えない高価なシロモノだ。


「競売には入れるんだろうな」

ガーリーの質問でルッカは我に返って、

「買うのは招待状か高額な金額を支払わないと無理だけど売り手なら売り物に価値があれば入れる」

ルッカは父親の受け売りで答えた。中に入る事は父親すら無理だった。


「この宝石いくらになるかね?」

ガーリーは笑って言った。

「まぁまぁな金額になるとは思うよ」

ゼリーはフードの中で答えた。


競売の売り人用の入り口へ。そこそこ待たされてようやく宝石を鑑定人に見せる。鑑定人は長いヒゲに装飾品を付けた老ホビットだった。


鑑定人は宝石の入った袋を覗き、全て売ってもよろしいか?と聞く。ガーリーは、もちろん。と答え、

「どんなのあるか見たいんだが見るだけでも出来ないかな?」

と聞く。ヒゲのホビットは小さな眼鏡を外し、ガーリーを見て、一人金貨十枚。と金額を言った。


ルッカには手が出ない金額だったが、ガーリーは金貨三十枚を出した。



「もう一人は?」

鑑定人が言うとガーリーは胸元を開きゼリーを見せた。ヒゲのホビットが驚く。

「こ、これは。まさか」

手に持ってた金貨を何枚か落とした。がすぐ我に返り、「お二人様ですね。二十枚になります」と十枚ガーリーに返した。


通路でゼリーがガーリーに言った。

「おいらの事を言うなよ」

「悪い、悪い。つい癖でな。しかし何であんなに驚くんだ?」

「そりゃ、おいら伝説の生き物だからな」

「俺様も伝説なんだけどなぁ」


ルッカは二人のやりとりを見て、凄い人達だと思いながら後ろをついて行く。


競売はすでに始まっていた。ガーリーはホビットから貰った売り物一覧の紙をザッと目を通すもどれもこれもパッとしなかった。ルッカはどれでもいいから欲しかった。噂や聞いた事しかない品物が多かった。買えなくても全ての品物をこの目で見たかった。


ガーリーは目録の紙をクシャクシャにした。慌ててルッカがそれを貰う。この一覧の紙ですら高く売れる。伝説の道具が存在する証明となるからだ。


「順番がまだまだだからまた来るかね」

ガーリーが外に出ようとする。ルッカは迷った。ここにずっと居たい。でもガーリー達とも一緒に居たい。


ガーリーにソッと近づいてきた男が、「こちらへ来ていただけませんか?マゾン様と」と耳元で言った。

「いいよ」

退屈してたガーリーは答え、男の後について行く。


布で隠してた通路を進む。途中何人か剣を持った戦士が立っていた。奥に扉。案内した男が扉を開ける。


部屋には、背が高く痩せて骸骨のような男が立っていた。

「よくおいでくださいました。エバー様。今回は何をお求めに」

丁寧なお辞儀をして言った。


「娘達のをね」

と、ゼリーが胸元から顔を出して答えた。

「ゼリー、お前エバーだったのか?」

ガーリーが言った。

「エバーって名前知ってるの?」

ゼリーが答えた。

「いや、初めて聞いたけど。俺でなければお前だろ」

「おいらの昔の名前だね。今はゼリーって呼ばれてる」


「何を求めて来たのかと尋ねてるのですが」

表情は変わらないが、骸骨のような男が高飛車な口調で言った。ここで初めてガーリーは、この男がゼリーを快く思ってない事を知った。


「なんだこいつ?ゼリーお前ナメられてるよ」

「いいんだ。元々こういうヤツなんだ」

「初対面なのに俺様の名前も聞こうとしないし。ムカつくな」

「おや、これは失礼いたしました。ゼリー様の使用人かと思いまして。申し訳ございませんでした」

物言いは丁寧なのだが、明らかに見下してる。


ガーリーはいつもなら言い返すのだが、黙ったまま。かなり怒ってる証拠だった。

「おい、おいらにはいいけどガーリーにはその性格を向けるなよ」

ゼリーは言う。

「申し訳ございません。私の名前はマゾンと申します。大変失礼を致しました。差し支えなければお名前を伺ってもよろしいでしょうか」

マゾンの丁寧な言い方が返って嫌味に聞こえガーリーは無視する。マゾンを睨んですらない。ルッカはマゾンの名前を知って驚いた。大商人マゾン。まさか会えるとは思ってもみなかった。


「ガーリー・ストライカーって言うんだ。こっちはデルカリ・ルッカ。ブランス村の商人」

ゼリーがガーリーの代わりに答えた。


「ストライカー様にデルカリ様。これからも何卒よろしくお願い致します」

マゾンは頭を低く下げて言い、頭を上げて、

「ゼリー様と二人きりでお話しをしたいのですがよろしいでしょうか」

と口にした。マゾンの言葉にガーリーは無言のままゼリーを掴みテーブルの上に置くと、ルッカの腕を取り部屋から出て行った。


廊下に取り残されたガーリーはルッカに早口で言った。

「この俺様がよく我慢しただろ?褒めろ。早く」

ルッカは慌てながらも、

「さすがガーリー。普通なら怒って当たり前だよ。よく我慢したね。強いのを隠すのが本物の男だって父が言ってたし」


「もっとだ」


「ガーリーの凄いのは魔法をたくさん使えるだけじゃない。なんでも知りたがる探究心は強いし、なによりハンサムだし。男なら誰もが憧れる理想の男だよ」


「当たり前だろ」

ガーリーは髪の毛をスキあげて言った。


「何よりも無敵だしね。娘七人も育ててるし」

ルッカは褒め言葉を探しながら言う。


「そうだよな。俺様は強いし優しいしかっこいい」

「そう。本当にそう思うよ」

ルッカは本当にそう思った。


「仕方ねぇな。ゼリーの知り合いらしいから、ここは俺様の懐の深さで赦してやるか」

「そうだよ。強いからこそ勝ちを譲れるんだよ」

「負けてないけどな」

「そ、そう。負けてなんかないよ」

ルッカは慌てて言い、ガーリーに分からないよう、そっとため息を吐いた。


「あの人、エルフかなぁ?」

ルッカは言った。

「エルフは好かん。リカヒ以外は」

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