バザール.3
娘達。
所狭しと並ぶ商店の通路をトゥリとチッツは一つ一つ丁寧に見廻ってるが二人ともまだ一つも買えてない。
チッツは持ってる金貨で買えるだけ全部。と言いたいくらいあれもこれも欲しくて迷い、トゥリは欲しい物は決まったが購入時に商人との話し合いが苦手で声をかけられない。
結局二人ともパパに買ってもらう事にして商品を吟味するだけに決めた。
リカヒとウォッタ、フィアは欲しい服を探してた。ウォッタが可愛いドレス調の淡赤の服を選んだが、リカヒの「似合わないわ」の的確な言葉で少し不貞腐れていた。それでもウォッタは最後まで悩み続けその服を買い、集まる場所へ向かう。
オーガの双子は、生き物屋の店主を困らせていた。双子はなかなか出回らない珍種の蟲ばかり尋ねてるからだ。店主は困り果て、他の生き物屋の店主を集めた。それでようやく何匹か買えた。
蟲や昆虫は薬剤の対価に使う。魔法を産む対価は記憶だが、薬剤などの永続効果がある魔法は蟲や草木、生き物の命が対価となるのが多い。
「珍しい蟲を使う魔法は産む対価(記憶)も大きいよ」
と店主が親切心に言った。
「私達が産むんじゃなくてガーリーだからいいの」
とヤミが答えた。
「ガーリーって誰だい?」
「私達のパパで最強の魔法使い。ガーリー・ストライカー。名前きちんと覚えておいて」
クロが答えた。
広場の時計が鳴った。集まる時間。姉妹達は集まったがガーリー達はまだ来ていない。
ウォッタが買ったドレスを取り出しチッツ達に同意を求めた。素敵だわ。とか、似合ってる。とか言われるものの、チッツ達の表情は芳しくない顔だった。それに気づいたウォッタは、
「返してくる」と乱暴に立ち上がり、一人で返しに行ってしまった。結局、皆して服屋が並ぶ通りに行った。
チッツがすっぽり身体が入る子熊の毛皮を気に入り買った。子熊の頭がフードになっている。
オーガ二人は、黒い帽子と黒い服を買った。チッツとフィア、リカヒは髪飾りをまた買った。
再び集まる場所に戻ってもまだガーリー達は来てなかった。七人は机に座り帰って来るのを待つ。
「トゥリ、パパどこにいるか分かる?」
リカヒの言葉にトゥリは目をつぶった。ガーリーの心音を探し始める。小さい頃からいつもガーリーと寝ていたトゥリはガーリーの心音なら聞き分けられる。が、
「ごめんなさい。人が多過ぎて分からないわ」
トゥリは目を開けて言った。姉妹達は先程、たくさんお菓子を食べ過ぎて食欲もない。やる事がなくなる。
色々な人達が次々と目の前を通り過ぎる。人間、エルフ、ホビット。商人に戦士。魔法使い。貴族に金持ち。
「ドルイド居ないね」
トゥリが通りを見ながら呟く。
「リザードマンも見なかった」
ウォッタが返事する。
会話は止まる。どこにも行けない退屈な時間。
「ねぇ、強そうな人当てっこしない?」
フィアが言う。皆が賛成し七人とも道行く人達を眺める。
「あの人強そうじゃない?」
「どこよ?」
「あの腰に剣を二本挿してる人よ。茶色フード被ってる人間」
「えー、人間じゃない」
「パパも人間よ。あ、あの人達強そう」
フィアが遠くにいる黒づくめの五、六人を指差す。全員、祭りか儀式に使うような仮面で顔を隠してていた。
「エルフかな?体格からしてホビットじゃなさそうだけど」
リカヒが返す。
「私達もお面つけたいわ。お揃いの。ねぇチッツ、作ってよ」
フィアが言い、皆もうなづく。チッツが、木で作ってみようかしら。と答えた。
「あそこ」
クロが珍しく喋った。クロが強そうと思ったなら強いはず。皆はどこ?と問い、クロは指差す。皆は指差した方を見たが分からない。
「どんな格好?」
フィアが分からず聞く。
「あ、なんだ。パパじゃない」
ガーリーの心音を感じとったトゥリが正解を言い当てた。
ガーリー達が帰って来た。ガーリーはゼリーと文句を言い合ってた。ルッカが娘達に遅くなった事を謝った。
「なんだ、あいつは。最後まで無視しやがって」
「無視してたのはガーリーの方だろ?」
「あんなヤツをかばうのかよ。まさか統一の事は言ってないよな?」
「言ったよ。マゾンの力も必要なんだ」
「あんなヤツ必要ないね。俺様だけで充分だよ。それに娘達もいるだろ」
ガーリーとゼリーの口喧嘩を呆然と見つめる娘達にルッカが困り顔で笑った。
「よく分からないけど、遅かったわね。約束の時間は過ぎてるわよ」
リカヒが注意する。ガーリーとゼリーはケンカを辞めて謝った。
「ごめんよ。宝石全部売るのに時間かかったんだ」
とゼリー。
「悪かった。ルッカだけでも先に行かせればよかった」
とガーリーは頭をかいて言った。そして娘達の買った荷物を見て言った。
「納得したの買えたのか?」
チッツとトゥリが、まだ選びきれないの。買って欲しいのあるんだけど交渉出来ない。とそれぞれが答えた。
「そうか。交渉ならルッカと一緒に行って来な。俺達は先に武器を見に行ってるから」
ガーリーが言うとフィアが、「私も行くわ」と言った。
「なら先に行ってるからな。ルッカ、頼んだぞ」
とルッカに預かり証を渡して言った。ルッカはうなづく。競売で売れたお金はバザールに預けたので、現金を持たなくても番号と預かり証で買える。
武器屋に向かいながら、ゼリーが娘達に買う注意をする。
「軽く使いやすいのを選ぶんだ。ウォッタは斧も買ってね。リカヒは長剣を。クロとヤミは好きなの選んで大丈夫だね。防具は皆、魔法がかかってるのを。リカヒは鎧を。ウォッタは鎧は邪魔になるから盾を」
ゼリーは言った。クロとヤミは言わなくても自分達の適性をよく分かってる。
ルッカとフィアが並んで歩く。
「ねぇ、競売どうだったの?いいの売ってた?」
フィアは質問する。
「ガーリーと出逢えて良かったよ。珍しい品物を見れるのは商人にとって凄い記憶になるんだ」
ルッカは次々と売られてく競売の品々を思い出して言った。
「ねぇ、欲しいのあるなら買ってあげるわ」
フィアが言う。ルッカは断るも、お金はまだあるから。とフィアは譲らない。そうこうしてるうちに、売り場につきルッカはチッツに欲しい物を聞いて商人と交渉し始めた。
トゥリがフィアに近づき小声で言った。
「フィアって、ルッカの事好きなの?」
「え?ルッカ好きよ。なんで?」
フィアは屈託無く答えた。
トゥリはコッソリとフィアの心音を聞く。普通だったので少しだけ安心した。何故安心したのかはトゥリには分からなかった。
ルッカの心音はフィアと話す時だけいつも速くなるのをトゥリは知っていた。
「トゥリ、次トゥリの番だよ」
チッツが手に二つの袋を抱えて言った。トゥリは我に返り、欲しかった品物を集め始めた。
クロとヤミは短剣と投剣。防具は買わず。リカヒは金色の鎧一式。一目惚れしたらしくゼリーの、「金色は目立つよ」と言う忠告を聞かなかった。
ウォッタは斧を片っ端から振り回し、クロとヤミは短剣を振っている。
女の子。ましてや子供が武器を試し振りしてる光景は珍しく、立ち止まって見入る人も居る。
ガーリーは、娘達が試してる武器の扱いを見て、かなり様になったな。と満足していた。四歳から始めた剣術や武術。それからの数年間は本当に遊んでるように見えて心配だった。ゼリーがよく辛抱して教え込んだものだと感心した。
ガーリーが一人悦に入ってるところへ、ルッカ達が戻って来て、フィア達もゼリーの指摘した武器と防具を選び始める。
フィアも金色の鎧を欲しがったが重いので、胸当てと小さな盾、顔出しの兜を選ぶ。トゥリとチッツは弓矢と投剣。
全員の買う装備が決まると、ガーリーは全て三つずつ購入した。
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