マゾン邸.1
日も暮れてきて、家に帰るか泊まるかを考えてる最中にマゾンがやって来た。どの商人もマゾンに頭を下げたり会釈する。
「もし、よろしければ我が宅へお泊りになりませんか?豪邸に泊まる事は貴重な経験になると思いますし、歓迎致します」
ガーリーとゼリーに言い、娘達を見て言った。
「高価なお食事にお菓子もご用意致します」
「ストライカー様には珍書もございます。人生で二度見られるか分からない宝物もありますゆえ。もちろんデルカリ様もお気に召すかと存じます」
とガーリーとルッカにも言った。
ガーリーは気に喰わず黙ったままだが、娘達とルッカは期待に満ちた目線をガーリーに向けている。
「分かったよ。泊まるよ。対価は払う。何をすればいいんだ?」
ガーリーは娘達の視線に負けて言ったが、マゾンは頼み事か何かがあるから誘ったと判断。それが何なのかに興味が湧いていた。
娘達は素直に喜び、ルッカは密かに喜んだ。マゾンは世界一の大商人である。彼が魔女やはぐれエルフ、はぐれ人間など、闇に生きる者達を、このバザールへ参加するように仕向けた人物。彼が居なければ闇属性の品物や魔具、薬剤は闇の住民にしか知らないままになっていた。
「お金は余るほどありますのでけっこうです。その代わり見て頂きたい物がございます」
マゾンの言葉にガーリーは言った。
「ふん。そんな事だろうと思ってたぜ。最初から、ガーリー様お願いします。と素直に頼めばいいものを。まぁいいぜ。見てやるよ」
マゾンが他の人に頼めない代物とは。ガーリーは好奇心を刺激された事を顔には出さなかった。
購入した品物を乗せた馬車とガーリーと娘達は、マゾンの馬車の後ろをついて行く。馬車の中でガーリーは娘達に、
「マゾンってヤツは口が悪いからまともに聞くなよ」
と、注意した。
太陽がすっかり落ちた時にようやくマゾンの屋敷へ着く。
覗けないほどの高さのある塀に囲まれた屋敷。壁にはたくさんの護符や御守りが飾られてあった。トゥリがガーリーのフードにしがみついた。ガーリーはトゥリを抱き抱える。
重々しい門が開く。この護符と御守りは、外からの魔素を避ける為でなく中からの魔素を外に出さない為の物だと分かった。ガーリーは期待する。これほどの魔素が強い魔法。間違いなく魔具をマゾンは所持してる。
門を開けたのは頭までフードをかぶり、トゥリの背丈くらい。誰もが片足を引きづっていた。おそらくボブゴブリンだと娘達は思ったが誰も口に出さなかった。
「ルッカ、大丈夫か?」
ガーリーはルッカに声をかける。普通の人間でも気付く量の魔素。
「悪趣味だな。金持ってるんだから人間でもよかっただろ」
ガーリーはマゾンに言った。
「屋敷内の使用人は人間です。ご安心ください」
マゾンは答えた。
暗闇の中で反射して光る目が何匹も居た。興味を持ったのか庭に入ろうとするクロとヤミをリカヒとウォッタが引き止める。
屋敷の中は庭とうって変わって綺麗で明るかった。使用人は普通の人間だった。脅された雰囲気は無い。おそらく金で雇われてる。
「あのボブ(ゴブリン)達は番犬代わりか?」
ガーリーが言った。
「番犬よりも立派に仕事します」
「主が居るだろう。よく従えられたな」
「ゴブリンでも使い魔でも賢い者はいるのです」
闇の生き物の集まりには必ず主が二匹いる。主が子を産み、家族を増やす。
使い魔や大カラス、ゴブリン、ボブゴブリン、大ナメクジ。
主が居ないのは闇の魔法使いや魔女。はぐれエルフ、はぐれ人間と人間もどき。
「食事の用意が出来てます故、まずはお食事を」
喜ぶはずの娘達だが、静かで異様な雰囲気に緊張してるのか大人しい。ガーリーとルッカは置物や絵を観ながら奥の部屋へ向かう。
全員が細長い食卓につき、静かな食事が始まる。厳かではないが、明るい話題が言えない雰囲気。
誰も一言も話さない。咳一つすれば一斉に見られるような雰囲気。マゾンとガーリーだけが気にせず口に食べ物を運んでる。
「どうした?お前達。かなり美味いぞ。遠慮せずどんどん食べろよ」
ガーリーは次々と口に食べ物を入れながら言った。マゾンは何も言わない。
「こういう食事は慣れてないんでな」
とガーリーはマゾンに言い訳をした。マゾンは、「どうぞいつものように遠慮のない食べ方でお召し上がりください」と答えただけだった。
娘達もそれなりに食べたはずだし、味も美味しかったのだが、食べた気があまりしなかった。
「どうやら私がいる事で緊張してるみたいですね。食後のお菓子はお嬢様達だけでお召し上がりください」
マゾンの言葉に、食べ終わってから言うなよ。とルッカは思った。後で娘達も同じ事を思ってた事を知った。
「さっそくですがストライカー様とゼリーはこちらへ」
ガーリーの返事も待たずにマゾンは席を立った。食べた食器が片付けられ、代わりに様々なお菓子の皿が並べられた。
「好きなだけ食べていいんだぞ。トゥリ。大丈夫だ」
ガーリーは娘達に。心配そうに見つめるトゥリに言ってマゾンと部屋から出る。ゼリーが危機を感じてないうちは安全なのだ。
娘達は、マゾンがガーリーと出て行ってから息を吐いた。クロとヤミでさえ格好を崩した。
「マゾンってどう思う?」
リカヒがクロとヤミに聞いた。
「悪い人じゃないけど善悪の判断が無い人」
とクロが答える。
「何よそれ。分かんないわ」
「パパもゼリーも何も言わないから大丈夫よ」
フィアがそう言ってお菓子を掴み食べ始めた。
「なんか食べた気がしなかったからお腹空いたわ」
とフィア。
「実は私も」
とルカヒが笑って言った。娘達は次々とお菓子を手に取り食べ始めた。
トゥリが、目を開けて言った。
「パパ達は地下に行ったわ」
トゥリはガーリーの心音を聞いていた。
「これだけの魔素ってなにかしらね」
リカヒが聞いたが誰も答えられない。
「クロ、なんだと思う?」
クロとヤミは、分からない。というように首を横に振る。
「リカヒは大丈夫なの?」
光属性であるリカヒを心配してチッツが聞いた。
「大丈夫だわ。ルッカはどう?」
「僕も大丈夫。これどうやって食べるの?」
ルッカは答え、トグロを巻いた貝のようなお菓子を持って言った。
「これはね、」
と、同じお菓子を昼間食べたフィアが説明した。皆は食事を食べ終えたとは思えないくらいお菓子をたくさん食べた。
マゾン達は地下への階段を下りていった。薄暗い大きな広間。
「ボブゴブリン達の住まいです。奥の部屋に大ナメクジがいます」
マゾンが説明する。地下は屋敷内と違い魔素が濃い。
「大ナメクジが対価か」
ガーリーが言った。「それも対価の一つです」とマゾン。
ボブゴブリンがマゾンの召使いになる対価の一つに食べ物の確保。
大ナメクジは魔物達の主食の一つ。大ナメクジの主の身体は重く大きくなると自ら動く事が出来ない。強烈な酸を吐き、次々と産まれる子供達を守る。主の食事は産んだ子供達で、子供達は主の胎嚢を食べて育つ。子供を産めるくらい大きく育つと主の酸に焼かれるので外に這い出て独立する。
大ナメクジの部屋を横切り、石畳の通路を進む。一つの扉。扉には魔方陣が描いてある。対闇の護符。
「大丈夫だと思いますが、これから見る物は内密にお願いします」
マゾンは振り返って言った。ガーリーは、分かったよ。と答える。
マゾンは呪文を唱えた。商人のマゾンが魔法を使った。中はよほどの代物だ。
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