マゾン.2
「味方が誰一人として傷つかない方法が一つだけあります。新しい国を作るのです。全ての種族を受け入れる国です。争いは他所でやりたい者が勝手にやればいい。つまり自分の国を守るだけなら可能だと思いませんか?」
マゾンの提案にガーリーが答える。
「そしてその国を広げていけばいいんだな」
マゾンはうなづき、
「混沌から逃げたい人がほとんどでしょう。平和を求める人なら全て受け入れます。混沌を求む者は必ず滅びます。いつか世界はガーリーの国になるでしょう」
「ゼリー、どうだ?これなら世界統一になるんじゃないか?」
ガーリーはマゾンの提案に賛成した。
「逆転の発想か。国を用意して集めるのもいいね」
「よし決まった。どんどんこの村に受け入れようぜ」
「ここは人間の支配地だからな」
「奪っちまえばいい」
「そんな簡単ではないよ」
「ここは守るには弱すぎる地形です。水源も少ない方ですし。森も山も海もないと全種族は住めませんよ。それに簡単に言うようですが、安全はともかく、長期的な生産能力と圧倒的な資金がなければ国を作るのは難しいですよ」
マゾンの的確な意見。
「資金はマゾンがいるじゃねぇか。金勘定は得意し大好きだろ。生産はこの村のを基礎にしたらいいだろ。珍しい果物と野菜。護符や御守りで。ホビットから魔石はいくらでも手に入るんだし」
「お願いしますと平伏せば考えてやってもいいですよ」
いつぞやの仕返しのように、マゾンは言った。が、ガーリーはすぐに、深く頭を下げた。
「俺だけじゃ無理なのは分かってる…だから頼む」
ガーリーの行為にマゾンが驚く。まさかガーリーが頭を下げるとは思っていなかった。
「そこまで言うなら手伝いましょう」
マゾンは我に返り真面目に答えた。ガーリーは頭を上げ、
「おい。この事は絶対誰にも言うなよ」
とマゾンとゼリーにいつもの調子で言った。
「まずはホビットの里に。そしてドルイド達に逢いましょうか」
「何故ドルイドなんだ?場所は分かるのか?」
「ドルイド達は誰かに見つかると棲み家を転々と移動します。世界を知るならドルイドに逢わなければ。居る場所は分かりますが、問題はドルイドが会ってくれるかです」
「トゥリなら逢ってくれる可能性は高いだろ?場所ってどこだ?まさか?」
「そのまさかです。迷いの森です」
迷いの森。バインと言う動く木が密集してる森。木そのものは動かない。柔らかく長いツタが垂れ下がり、そのツタが意思をもって動く。
誰かに見つかる事を嫌がるドルイドがそこに住んでいる噂はあった。が、確かめようとする者はいない。
何故ならパインの枝を傷付けるとむせるような匂いと白い樹液が出る。それは意識を白濁させる効果を持ち、焼いた煙を吸えば意識を失う厄介な木だからだ。
人間もエルフもバインの白い樹液を痛み止めに使っている。森の奥にさえ入らなければ害はない森である。
二台の馬車で再びホビットの里へ行く。チッツはベリルとの再会を喜び、一番気に入った御守りをあげるの。とガーリーやリカヒ達に言い回った。
リカヒとウォッタは結果的に言わない約束を破ってしまった事に落ち込んでいたが、秘密はいつか必ずバレてしまうから仕方ない。とガーリーとゼリーに諭された。
トゥリは行きたくはなかったが、クロとヤミが「他に欲しい草花ある?きっと探してくれるわ」と言われて少しだけ元気が出た。「欲しいのはね。」とクロに話しかけるを「パパにお願いした方が確実ね」とクロはガーリーに話題を振った。トゥリは欲しい草花の名前を次々とガーリーに言った。ガーリーは、全部は難しいけどホビット達に探してくれるよう頼む事を約束した。
マゾンは娘達の無邪気な雰囲気に囲まれて「これは意外と私も元気になりますね」
とガーリーに言った。
「ゼリーにも言われたが、子供達が一番の宝物ってのがよく分かるぜ」
と答えた。マゾンは返事をせず娘達が笑いあってる光景をずっと眺めてた。
ホビットの里。ついこないだ来たばかりだったが、今回はマゾンが居る。案の定、長と長老がいぶかしい顔をした。マゾンの顔は商人とは思えないほど愛想が一つもない。が、ガーリーの娘達がマゾンを避けてる様子は全く見られない。ガーリーとゼリーの、マゾンは味方だから大丈夫。の声よりも娘達のマゾンへの態度で、長のゴシュと長老チャロはマゾンを受け入れる事を決めた。
マゾンはお近づきの代わりにと、エルフが作った高さなどを計算する最新の器具を差し出した。借りは作りたくないとゴシュはマゾンに魔石をあげる事を約束した。
初対面ながらも、ガーリーと親しくする事による理がある事を知ってる者。としてチャロとマゾンは互いに認識した。
ホビットは下手な商人よりも損得計算の思考は優れてる。
食堂で会食。前回同様、肉ばかりの料理だったが他のホビット達は居なかった。
「見せるにはそれ相応の対価が必要じゃよ」
とゴシュから言い出した。ガーリーはどうやって秘密の武器を見せてもらうか考えてたから安堵した。
マゾンは箱から石を取り出した。中は七種類の乱曜石。ゴシュも驚いたがチャロもベリルも驚く。
「こ、これをどこで」
ゴシュの驚く声。
「ドワーフ達から譲り受けた石です」
「対価には何をあげたんじゃ?」
「同化のツタとかですな。ドワーフは貨幣より物々交換を好みますゆえ」
「ドワーフにはどちらももったいない代物じゃな」
ゴシュは言いつつもさっそく拡大眼鏡で乱曜石を調べている。長老チャロも乱曜石を見たい様子を隠せず席を立ちゴシュが調べてる乱曜石をアチコチから覗き込もうとしている。
マゾンはもう一つの箱をチャロに渡した。
「実は割れてしまったのですよ」
とマゾンは言った。ほぼ同じ大きさの乱曜石を取り出した。割れた面が融合し合ってる魔石が剥き出しになり綺麗だった。チャロとゴシュ二人とも驚愕の声を上げた。
「これで全てです。これだけの乱曜石はほぼ間違いなくこれだけかと思います」
ゴシュは満足気に大きなため息を吐いて言った。
「仕方ない。見せてやるかの。絶対に秘密じゃぞ」
とまだゴシュは食べ終わってないまま席を立った。ベリルと娘達も付いてくる。長老チャロが何か言いたそうだったが、ゴシュが仕方なし。というように笑ってみせた。
分厚い布で覆われた部屋。
「武器ではないがの。名前も付けとらん。まぁ見てもらおうか」
ゴシュは鉄と同じ石を皆に見せ、力を加減して下に投げた。
ドゴン。と、大きな音がして少し地面は揺れ、石は分厚い布に少しめりこんだ。
「武器にはしないからの」
ゴシュは石を拾いながら言った。
「一つだけ試したい事があるのです」
とマゾンが言い、平たく削った蒼水石を水の入った箱から取り出した。
「ここに一度だけ落として欲しいのです」
「蒼水石か。柔らかい石じゃよ。もちろん試した。一番硬い鉄土石とか全て試したがダメじゃった」
ゴシュが答えるも、マゾンは濡れた蒼水石を置きさらに水をかけた。
「どうか一度だけ。お願いします」
チャロは、同じ力で蒼水石めがけて投げ落とす。大きな音と共に蒼水石が割れた。割れたが粉々ではなく数枚に割れた。普通なら確実に粉々に砕かれる。
「どういう事じゃ?」
ゴシュの言葉に、
「蒼水石に水を含ませると、粘り気のある硬さになるのですよ。ただし斧で思い切り叩いたくらいの力以上でしか効果は発揮しないのです」
「どうやって知ったのじゃ」
「怪我の功名というか偶然ですね。大雨で魔石を保管していた小屋が土砂崩れで崩壊したのです。ほとんどの魔石は砕けてましたが、砕けてない蒼水石が明らかに多かったのです。色々と試した結果、水を多く含んだ蒼水石は強度を保つ事を知ったのです」
「誰がその事を知っておる?」
「私と私の探求者達ですね。それとここにいる皆様です」
ゴシュが唸る。魔石や鉱石に関してはホビットが全てを知ってる自負があった。それをこの人間から蒼水石の秘密を見つけた。ゴシュはトゥリを見る。
ドルイドが魔石の心音を聞ける事を知った。
「わしゃ情けないわい。自惚れてたのか?」
ゴシュは呟くように言った。
「秘密を隠す為に交流をしないのは、他所の秘密を知らないまま過ごす事でもあります。全てを知りたいのならば、自分から開くしかないですね。もしくは大金を対価に使うか。私のように」
マゾンが答える。
落ち込んでるゴシュを可哀想と思ってのか、トゥリがゴシュの持ってる石に耳を当てた。
「心音は聴こえるわ。でもものすごく遠くから聴こえるの」
と言った。
「探せるのか?」
ゴシュの言葉に、
「これくらいからで、ようやく聴き取れるかな。心音が小さいからではなくて物凄く遠くから聴こえるのよ」と言って腕を伸ばした。
「でももし見つけたらゴシュに話すからね」
とトゥリは付け加えた。
「優しい子じゃの」
とゴシュはトゥリの頭を撫でた。トゥリはニコリと笑った。
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