迷いの森.1

揺れ動く木のツタ。前後左右、どこを見ても似たような木々。誰も抜け出した者は居ない迷いの森にトゥリ独り。その真実を見せつけるように生き物の心音は全く無かった。


………


「貴重な真実をお見せいただきありがとうございます。これから我々は迷いの森へ向かいます。最近の迷いの森の噂とかは変わりないですかね?」

マゾンは聞いた。

「そこに行ってどうする気じゃ?まさか無痛薬を採るわけではあるまい」

ゴシュが答える。マゾンはガーリーを見る。ガーリーが話す。

「実はな。俺達の国を造ろうと思ってるんだ。種族関係なく誰もが国民になれる国をな」

「なんじゃ?世界統一は諦めたのか?」

「いや、俺達の国に全ての種族が集まれば世界統一と同じになるんだと考えたのさ。争いを起こす者同士は外で死ぬまでやってくれってな」

「国になる土地なんかあるのか?」

ゴシュはアゴヒゲをねじりながらの質問。

「それをドルイドに聞いてみようかと思ってな。流浪してるドルイドなら知ってるだろうと」

「それで迷いの森か。確かにあそこならドルイドは居るかもしれんが、問題は会えるかどうかじゃな」

「そうだ。こっちにはトゥリが居る。話し合える可能性は高い。ダメなら探しまくるしかないけどな」


「本気なんじゃな」

ゴシュがゼリーに言った。

「おいらは最初から本気だぜ。随分遠回りになっちまったが」


ゴシュのヒゲがねじれまくる。

「よし。ワシも行く。と言いたいがの。ベリル。お前行ってみるか?」

ベリルがゴシュを見る。

「閉鎖的な世界はワシの代でおしまいじゃ。ホビットだけの世界に長くいるとお前も保守的になっちまう。世界を知るにいい機会じゃて。ゼリー達なら安心してお前を託せるしの。剣は使えないが、ベリルがいれば出逢うホビットはゼリー達の敵にはならんはずじゃ。どうじゃ?」

ベリルは隣に居るチッツの手を握って、「行きます。出来る事はなんでもします」とゼリーとガーリーに言った。ガーリーはうなづき尋ねる。

「死ぬかもしれんぞ。覚悟はしとけ」


「それは分かってます。何回も誘拐されたり襲われたりした事もありました」

毅然とした態度でベリルは答えた。ベリルの堂々たる態度に長老のチャロが涙を浮かべて言った。

「ワシもお供として行きますわい」

「お前が行くなら親のワシが行くわい」

と長のゴシュが言う。ベリルが笑い、皆も笑う。

「ベリルだけで充分だ」

ガーリーが制した。ベリルとチッツの二人は抱き合って喜んだ。


二日間だけホビットの里サジラビに居る事にした。トゥリは掘り続けてる穴の一番先で魔石の心音を聴き在り処を教え、ホビットはトゥリに草花を探す約束をした。


リカヒとウォッタはホビットの戦士育成の練習に参加した。ホビットの斧や大金槌での叩き潰す剣法は参考になった。自信のないベリルも練習に参加し、チッツも加わった。クロとヤミは参加せず網と蟲カゴを持ってあちこちの穴へ潜り込んでいた。


出掛ける当日に激しい雨が降り、延期する。結局雨は七日間振り続けた。その間、クロとヤミ以外の娘達はベリルとホビット達と練習をした。裏道は危ないので仕方なく、遠回りの道で迷いの森へ出向く事になった。


途中の村の二、三箇所に立ち寄る。マゾンは世界の大商人の名の通り、どの村でも知られていて歓迎された。

マゾンは手紙を書きそれを届けるように村人に言い、必ず村人と分け与える事を約束させ相応以上の手間賃を払った。

それから、村の人の家屋などを見物し、村人から情報を聞き出す。役立つ情報には子供相手でもきちんと銅貨を支払った。

マゾンは金の使い方を熟知していた。


何箇所かの村でようやく迷いの森についての話を聞けた。それは迷いの森が近い事でもあった。


ようやく迷いの森、すぐ近くの村へ着く。この村はバインから採れる樹液を精製し売るのを生業としていた。迷いの森付近の村は他にも二ヶ所あるが、どの村もエルフや人間、ドワーフ。買いに来る人は誰も拒まず、三つの村は争いを起こさないよう同じ値段で売っている。


迷いの森は広く深いが、誰でもバインを勝手に採ってもいい。だが摂り方と精製の仕方が難しく、村で買った方が手っ取り早い。樹液はそのまま痛み止めの薬には出来ず、人間やエルフなど各種族の身体の体内濃度と同じにしないといけないらしい。


村人は、迷いの森とバインを敬い一日に採る量、売る量を決めていた。多く買いたい者は何日も宿屋に泊まらなくてはならない。村人達はその宿泊費や飲食費を糧に生活している。どの村も潤ってるので襲われないように自警団を雇っている。


襲われるのか?と聞くと、それもあるが、バインの森を燃やそうとするヤツがたまに現れるからな。と言われる。

子供と老いた者を除き、働かない者は追い出されるが、ここ数年は誰も追い出された事がないという。


森の中へ入るのも自由だった。なんでだ?と聞くと、バインの肥やしが必要だからさ。と村人達は笑って答えた。人が入らない時は、肉や野菜を森の奥へ投げ込む。その餌に気付いたオオカミやクマ、イノシシが迷いの森へ入り込む。バインも知ってか知らずか、強い臭いで迷いこんだ獣の嗅覚を殺し、葉が光を遮り、同化のツタが来た道を隠し、更に奥へ奥へと誘い込む。

森と三ヶ所の村はうまく共存していた。


大商人マゾンの名前はここでも有名だったため、買いに来てる商人や魔法使いに、マゾンが来てる事を知られるのは不利益になると判断。素性を隠した。


とりあえず迷いの森を馬車で一周する。トゥリに、森の中の心音を聴いてもらう。草木が茂ってるので、動物やドルイドの心音は分からないと言う。


馬車を停め、さてどうしたものかとガーリー達が思案してると、クロとヤミが森の奥へ石を投げ始めた。

ガーリーは、森を怒らせてどうする?と言ったが、投げた景色に違和感。

クロが石を投げる。石は途中から二つになり石は地面に転がる。

「同化のツタか」

「同化のツタですね」

ガーリーとマゾンが同時に言った。


「クロ、何故分かった?」

とガーリーが聞くと、クロとヤミは両目を指差す。どうやらクロとヤミには同化のツタが分かるらしい。


「他にもあるのか?」

とガーリーは言うとクロとヤミはうなづく。

ガーリー達は森を見据える。

「どれが同化のツタか分かるか?」

とガーリーは皆に聞くも誰も答えない。分かるのはクロとヤミだけだった。


トゥリの、「何か来るわ」の声に皆は身構える。


宙に泳ぐように浮いてる一つの小さな光。眩光石かと思う。

「フェアリーか」

ゼリーが呟くように言った。光は森の手前で止まった。手の平に入るくらいの大きさ。

「あら何よ。さらわれたかと思ったら仲良さそうじゃないの。他所から来たドルイドね。貴方、私達を探し過ぎよ。皆、助けを求めてるのかと勘違いしてるわ」

光からカン高い女の声が聞こえた。

「ごめんなさい」

とトゥリは謝った。

「まぁ、仕方ないわね。さぁ行きましょ。皆が待ってるわ」

光は言ったので、トゥリを先頭にガーリー達は森の中へ入る。


「貴方達も入って来てもいいけど、どうなっても私は知らないわよ。案内されてないもの。ドルイドの娘だけよ」

ガーリー達の足が止まる。

「早く行きましょ。剣は必要ないわ。お友達に渡して」

光は言い、サッサと奥へ進んだ。トゥリはどうしたらいいか歩みが止まる。ガーリーが急いで言う。

「トゥリ、直感的にどうだ?危ないと思うか?」

トゥリは首を振る。懐かしく温かい音が森から聴こえる。


「なら聞きたい事は、平和な国を作りたい。誰もがその国に入れて、争いの無い国だ。それは分かってるよな?その国を作るのに適した場所を知りたいんだ。頼む。聞いてきてくれ。パパ達は何も出来ない。だがトゥリが危険だと感じたら必ず助けに行くからな。皆、トゥリの味方だ」

ガーリーはそう言って、トゥリの腰にある短剣を柄ごと抜いた。マゾンが来てトゥリの手のひらに収まる小さな笛を渡した。

「もし危険ならこの笛を。必ずここまで聞こえるはずです。ただし吹く時はトゥリ嬢様の耳をふさぎながら吹いてください」

とマゾンも早口で言った。

「さぁいい子だ。頼んだぞ」

ガーリーがトゥリの背中を優しく押した。


トゥリの走り去る姿をガーリーとゼリー。マゾン、娘達は見えなくなるまで見つめた。


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