迷いの森.2

光は待っていてくれてた。

「あら、皆来ないのね。まぁ、残念だけど仕方ないわ」

「貴方は誰なの?」

「あら、ドルイドのくせに知らないの。少し悲しいかも」

「ごめんなさい」

「まぁいいわ。名前はティンク。この森の全てを知ってるフェアリーね。まぁ支配者と言ってもおかしくかいわ。貴方は?」

「私はトゥリ。修道院で産まれてガーリーと他の姉妹と育ったの。平和な国を作りたいの。作れる場所を教えて」

「あら、そんな事考えてるの?ドルイドのくせに。珍しいわね」

ティンクは続けて喋る。

「ティンク、ここで育ってここしか知らないから分からないわ。まぁでもママンなら知ってるかもね」


「ドルイド達に逢いたいわ」

「もちろん。連れてくつもりで貴方に声をかけたのよ」

とティンクは飛んで行った。慌ててトゥリも走り出すも、ティンクの光はもうどこにも見えなくなってしまった。トゥリは走るのを辞めた。後ろを振り返る。どこから来たのか全く分からなくなっていた。生き物の気配がない。それで、迷いの森からは出られない。という村人の話を思い出し、不安で泣きそうになるのを目をつぶり堪える。そのまま耳に集中する。心音を聞き分ける。目をつぶったまま両手を前に出し、ゆっくりとトゥリは優しい心音の方へ歩き出した。トゥリは木にぶつかりそうだったが、木は透けてぶつからない。同化のツタが見せた木。

何回か木の根につまづきそうになるも目をつぶったまま音を頼りに進む。


ほとんどまっすぐ歩いたつもりだったが一度も木や枝に当たらなかった。バインの木の枝はトゥリに当たらないように動き、歩く先に木があるとツタは、そっとトゥリの靴を曲げて方向を変え当たらないようにしていた。


「あら?なんで貴方、私より早く着いたの?」

ティンクの声で目を開けた。

「心音を頼りに歩いただけ」

「あら貴方、心を聴けるの?本当?嘘でしょ」

ティンクは驚いた声を出した。


「聴こえるわ。集中すればだけど」

「ちょっと本当?心を聴けるのママンだけなのに。これは面白くなってきたわね」

ティンクはトゥリの周りを飛び回る。


「まぁ、ティンクが案内しなくてもママンの所に行けると思うけど案内するわ。こっちよ。もう意地悪はしないから」

トゥリはティンクが意地悪した事を知り少し怒った。

「意地悪したのね。凄く怖かったのよ。その人の心音分かるし。自分で行けるからティンクはもういいわ」

トゥリの声に、

「あら?ティンクが困るわ。案内するわ」

「けっこうです」

「そんな事言わないでよ。謝るからさぁ」

とティンクはトゥリの顔の前で止まって両手を合わせた。

「明るくて見えないわ」

「あら、姿を見せないのがフェアリーなのよ。貴方そんな事も知らないの?」

ティンクの言葉にトゥリはティンクの顔を見たくなった。

「顔を見せてくれないなら案内はいいわ。こっちでしょ。私知ってんだから」

「分かったわよ。でも恥ずかしいから少しだけね」

とティンクは光を消して姿を見せた。

「どう?見た?見た?見たらまた光るわよ」

「綺麗ね」

「あら、当たり前でしょ。ティンクなんだし」

トゥリはティンクの顔は本当に綺麗だと思った。

「ティンクの他にもフェアリーはいるの?」

「いるわよ。当たり前でしょ」

「私みたいなドルイドも?」

「ドルイドは全ての属性がいるわ。貴方はきっと木属性ね」

「闇もいるの?」

「この森には少ししか居ないわ。洞穴か地下に居るんじゃないかしら。でもフェアリーの方がたくさん居るわよ。人間よりも多いんじゃないかしらね」

「ここにたくさん居るの?」

「もちろん。今もここに居るわ。貴方の前に現れないだけで。ほら」

とティンクは後ろを指した。トゥリが振り向くも何も居ない。

「あら隠れちゃったわ。あ、ほらそこに」

とティンクは指差すもトゥリには見えない。

「また意地悪してるんでしょ。もういいわ。早くママンって人の所行く。聞きたい事があるんだから」

「あら、ちょっと待ってよ。本当に居るんだってば」

ティンクの言葉を無視してトゥリは歩き出す。

「もう。ほら貴方達、意地悪しないで。お願いだから姿を見せて」

ティンクが言った。その途端、トゥリの周りにたくさんのフェアリーが姿を現した。どのフェアリーも蝶々のような羽を広げて宙を舞っている。どのフェアリーも綺麗だった。

トゥリは、わぁ。と感嘆の声をあげた。


「ほら、嘘じゃないでしょ。居るんだってば」

ティンクが言う。トゥリは自分の早とちりを謝った。

「ごめんなさい。案内してくれる?ティンク」

トゥリは素直にお願いした。

「良かったわ。案内するのがティンクなのよ。ほらあそこよ」

とティンクは指を指した。見上げる程の大きな樹木。物凄い太い木だった。近づくと周りにトゥリに似た姿のドルイドが数十人が剥き出しの根に座ってた。一人の女性が木の中に半分埋まっていた。


「ママン。連れて来たよ」

ティンクが木と半分同化してる女性に言った。女性は顔の半分までもが木の皮に覆われていた。

「私の根の知る中で貴方が最後の純血なドルイドでしょう」

とママンと呼ばれる女はトゥリに言った。

「あら、そんなに凄い事なの?」とティンク。


「私に何を求めて?」

「あ、あのね、私達、平和な国を作ろうと思ってるの。それで、平和な国を作るのに一番いい場所を探してるの。教えてください」

トゥリは挨拶もせずにお願いをした。

「誰にとって平和な国なの?世界樹?ドルイド?人間?エルフ?ゴブリン?」

ママンに言われてトゥリは何も返せなかった。

「ドルイドの平和はドルイドだけの世界なの。だからドルイドは他の種族に見つかると移動してその地に二度と住まない。ずっとそうして生きてきたから」

「私は、エルフや人間と暮らしてるわ」

「皆が貴方みたいに強いドルイドじゃないのよ」

ママンは言う。

「だってガーリーが守ってくれるもの」

「その人はいつまで守ってくれるのかしら?何世代も?何千年も?無理でしょ」

「その時にならないと分からないじゃない。全ての土地が他の人に見つかったらドルイドはどこに住むの?」

トゥリは思った事を言う。


「その時はドルイドは消えるの。そういうサダメなのよ」

「なら、私達と住めばいいのよ。きっと強くなれるし。なによりも楽しいわよ」

トゥリは言った。今度はママンが黙る。


「貴方のそばに世界樹が居る。でも世界樹は認めてないのは何故なの?」

ママンは聞いた。トゥリはパパとゼリーの会話を思い出す。

「世界樹は成り行きをただ見守るだけなの。ゼリー…私のそばにいる世界樹は世界を混沌から守ろうとしてるのよ。その為に平和な国を作ろうとしてるの。私はそのお手伝いをしてるの」


「そこにはフェアリーも入れるの?」

ティンクが会話に加わる。

「もちろんよ。平和を望む者なら誰でも入れるの。悪い人は絶対に入れないんだって。平和な国の外で悪い人同士で悪い事すれば、共倒れになるって言ってたわ」

トゥリの言葉の後に沈黙が続く。


「あぁ、貴方は新芽なのね。分かったわ。成木は朽ちていくだけ。新しい芽に従いましょう」

ママンは言った。ドルイド達はママンを見る。ママンはドルイド達に言った。

「私達は滅びを受け入れて生きてます。でもこの子は滅びそのものを避けようとしています。フェアリーもよく聞いて。滅びを回避する術をこの子は持ってます。滅びに立ち向かうこの娘に託してみましょう」

ママンはそう言い手を広げた。指先から芽が出て小さな小さな桃色の花が一輪咲いた。


「さぁドルイドの子よ。草木とドルイド、妖精全てが貴方を認め味方になるでしょう。その代わり貴方は世界中の草木とドルイド、妖精の未来を背負わなくてはなりません。その覚悟はありますか?」


トゥリは、パパやゼリー、リカヒ達姉妹の事を思った。平和な国は絶対に造る。トゥリは桃色の花を口に入れた。花は砂糖菓子のように口の中で溶けた。


トゥリは、自分の身体がグン。と軽くなり五感が鋭くなったのを感じた。

草木の匂いがこんなに芳醇な事。先程まで見えなかった妖精がこんなに集まってた事。草木の心音が細かく分かる。

トゥリは全てが色濃く鮮明になったので少しフラついた。バインのツタがソッとトゥリの背中を支えた。


「大丈夫。すぐ慣れます。貴方の名前は?」

「トゥリです」

「トゥリよ。トゥリに私達の最後の棲み家と決めた場所を教えます。そこを平和の国にするといいでしょう。ティンク」

とママンはトゥリに言い、ティンクを呼んだ。ティンクはママンの目に浮かんだ涙を舐めた。

「ティンクが案内します」

「案内するのがティンクだからね。任せて」


「平和な国を創れたならこの種を植えるように。世界中のドルイドと妖精が集まるでしょう」

ママンの言葉に一人のドルイドがトゥリに種の入った袋を渡した。


「ティンク案内する。戻るんでしょ」

トゥリはママンに頭を下げて、来た道を振り返った。でも、ティンクが案内する必要はなかった。


トゥリの目の前には遠くまで見える一本の道が出来ていた。トゥリはその道をティンクと戻った。


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