絆の魔法
娘達は七歳になり、ガーリーは娘達を集めて、絆の印を入れると言った。
この魔法は、奴隷や家畜の所有を認識をする為の魔法だが、王族や貴族、伯爵などの上流社会での結婚や同盟を結ぶ時にも使う呪文なんだ。
そうゼリーは娘達に言った。
印の形はホビットのチッツが考えた。二重丸の周りに七つの点。その七つの点をそれぞれ線で結んだ印。二重の円を囲んだ七芒星の形になる。
七人は、指先を少し切り血液をそれぞれの皿に垂らす。ガーリーは自分の胸元に軽く小刀を突き刺した。
娘達の背中を半分さらけ出し、ガーリーは娘達の背中にある肩甲骨の間を小刀で少し刺す。その周りにガーリーの胸元から出てる血で二重の円を描き、それぞれの血で円の周りに七つの点を付け、混ぜた血液で七つの点を結ぶように線を引いた。ガーリーも自分の胸元に印を描く。
ガーリーが娘達に呪文を唱える。娘の頭くらいの大きさの印が肌に染み込み、血を拭った肌には薄っすらと赤い痕だけが残った。
全員が服を着直すとガーリーは言った。
「お前達に何かあれば印の点が濃く浮かび上がる。必ず何か感じるはずだ。対価にゼリーの身体も使ったから解呪はされない」
「何かって?」
フィアの質問。
「命が亡くなる時とかだ」
ガーリーの答えに娘達はお互い顔を見渡した。
「さぁ今夜はご馳走にしたよ。皆が大好きなお菓子もあるしね」
ゼリーが重くなった空気を払うように言った。娘達がはしゃぎ、急ぐように広間へ走った。
ホビットのチッツだけが残る。
「どうした、行かないのか?」
ガーリーの言葉に、
「その血をちょうだい。布に染み込ませて御守りを作りたいの」
チッツは血の残ってる皿を見て言った。ガーリーは「もちろん作ってくれ」とお願いした。
チッツは丁寧に血の入ったお皿に布を入れ染み込ませてる。
「オーガにエルフ、ホビットにドルイド、人間の血か。凄く高価な物になるぞ」
ゼリーは楽しそうにガーリーに言った。
「それを言うなら世界樹のゼリーの身体も高価だろ」
「まぁね。でも娘達にはかなわないよな」
ゼリーの言葉にガーリーは深くうなづいた。
広間に戻ると娘達は食べずにガーリー達を待っていた。
楽しい宴が始まった。あまり感情を出さないクロとヤミも笑顔でヤイバが見えている。
いつまでもこの時が続けばいいな。とガーリーは娘達を見ながら思った。
ゼリーが一月に一度、娘達一人ずつ話をする時間を設けた。ここの話はガーリーにすら内緒にする事を約束した。
リザードマンのウォッタ。
剣の練習が一番楽しい時間で、剣の練習を嫌がる他の姉妹が信じられなかった。リカヒでさえ義務的に練習をしている。楽しんでいない。
いかに倒せるかを。いかに攻撃をかわせるかを。剣先を相手に当てる事に夢中になると、たまに剣と一体になった気分になる。剣が相手に当たった時はうれしくなり、当てられた時は涙が溢れる程悔しかった。そして、自分がどれだけ強いか試したい。
そうウォッタは話した。
リザードマンは好戦的で、男はもちろんだが女も強く、アマゾネスとも呼ばれてる。ウォッタの背丈は姉妹の中で一番高く、剣術の為に髪の毛を短くしたがったが他の姉妹達に止められ、髪を後ろに結んでる。剣を握ると目つきが変わる。
エルフのリカヒ。
姉妹が私を煙たがってる事を知った時は少なからずショックを受けたと告白した。
遊びたい気持ちは分かるけど、勉強する時はするものだし、それが普通でしょ。とリカヒはゼリーに同意を求める。
パパは甘く、許したら更に甘えるのを分かってて許す時がある。私がパパだったら晩御飯抜きの罰。と言いたくなるわ。とも言った。ゼリーは笑う。
私だけがパパとゼリーの話を聞いたからかもしれない。世界を統べる話。よほど練習しないと難しいはず。私が強くならなくては。そう思って自分にも律しています。
最後にリカヒはそう言って席を立った。
純血なエルフそのもので、日にも焼けない肌は白く髪も白銀。見た目はどの歳でも年齢より上に見られる。魔法にかかりやすいが芯は強く顕著に瞳に現れてる。感情を抑えて行動するせいか、理不尽さをいつまでも許せない時がある。
ドルイドのトゥリ。
授業は面白くて好きだけど、剣術は剣は重たいし、体術は疲れるしでつまらない。でも皆が頑張ってるから文句は言えないの。
最後は呟くように言った。
木や植物のお勉強は、本だけでなく実際に見てみたい。とも言った。
ゼリーは世界樹の事を聞く。
世界樹は水が流れるような音をいつも出してるわ。それは身近な草木にも伝わってる。その音を聞きながら寝るのが一番好き。
ゼリーは世界樹になんか変わった事があったらすぐ教えてと言った。トゥリはうなづいた。
濃い緑色の髪。小さな顔に大きな目。姉妹の中で一番背が低く身体も力も弱いが、遠くを見渡せる視力と生き物の鼓動を聴こえる耳を持っている。保守的な性格だが、活発な姉妹の中で育ってるせいか他のドルイドと比較にならないくらい活動的。
ホビットのチッツ。
絵を描いたり、粘土細工や造り物をするのが好きで、何故好きなの?と聞くと、頭で想像したモノが見える形になるのが面白い。と答えた。
夢中になり過ぎてリカヒに怒られる事もあるけど、本当にあともう少しで自分の満足できる形になるのよ。それに途中で辞めると気になって他の事が疎かになる。それなら完成させてから違う事をやった方がまだいいはずよ。と、たどたどしくもはっきりと、ゼリーに言った。
剣や体術は?と聞くと、
私は目がいいから、弓矢や投剣が一番好きだわ。と答えた。
赤茶色の髪。背はトゥリの次に低いが、ホビット特有の身体の太さや無骨さは、剣や体術の練習をしてるせいか、さほど人間と変わらない。身体は丈夫だが魔法にかかりやすい。
オーガのクロ。
知りたい事は何?
とクロから話し出す。
ゼリーは、おいらとお話はしたくないのかな?と聞くと、何を話せばいいか分からないから質問して。と答える。
剣術とか楽しい?
普通かな。
勉強は?
普通かな。
楽しい事は何?
蟲を集める事。
皆の事好き?
もちろん好きよ。
ゼリーが少し考えて言ってみた。
パパと世界統一するのどう思う?
クロはすぐに、
皆と離れたくないから私はやるわ。
と言った。
ゼリーはクロは冷たい性格と見られがちだが、そんな事はないと確信した。
二人ともオーガ独特の赤い瞳を持つ。二本のツノがあり、口を開くと八重歯のような牙が見える。髪の毛は黒。背は高くないが体力もあり魔法にもかかりにくい。能力は姉妹達の中でも一段と高い。
オーガのヤミ。
クロとほとんど同じ答えだった。
剣術は?
楽しいわ。
勉強は?
楽しいわ。
どう楽しいの?
色々覚えられるから楽しい。
好きな事は何?
蟲を集めるのは好きね。
なんで?
面白いから。
パパと離れなくないから頑張ってるの?
当たり前じゃない。
皆の事好き?
大好きよ。当たり前じゃない。
ゼリーの憶測だが、オーガの双子は合理主義の性格だと思った。剣術は最短で急所を狙い、体術も自分の力で倒そうとせず相手の力を利用するやり方を好む。勉強も実際に役立つ知識だけ覚えてる感じだった。
人間のフィア。
リカヒとウォッタにいつも勝てないし、クロとヤミは強いくせにわざと私に負ける。チッツやトゥリに勝っても嬉しくない。そうフィアは言い、どうやったら一番になれるの?とゼリーに聞いた。
それぞれの個性と長所があるんだ。フィアは誰よりも一生懸命だし負けず嫌いじゃないか。それは皆に負けてないよ。
とゼリーは答えたが、フィアは納得してないようだった。
ウォッタもリカヒも剣の相手に私を誘わない。ウォッタが、見るのも強くなる方法だ。と言うけど、見てるより実際にやった方が早く強くなれるでしょ。
と、フィアはまた不満を口にした。よほど負けず嫌いなんだな。とゼリーは思った。
どの武器も覚えが早いじゃないか。と言うものの、すぐに負けてしまうの。と答える。
慰めは通用しないとゼリーは悟った。
「悔しいならもっと練習だね」
ゼリーは優しく言った。
「もっと頑張るわ」
とフィアは、分かってる。と言うように何回かうなづきながら強く言った。
髪は金色。負けず嫌い。というより、一番になりたい欲望が、年齢と共に強くなってる。自分をよく見せたい傾向は、成長欲求が強い証拠。感情で行動する事が多い。
大きくなりそれぞれの性格が顕著に明確になってきた。でも全員いい子達だ。とゼリーは思った。
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