パライソ

次の村はあきらかに誰も住んで居なかった。そこからどこにも道はなく、ガーリーはこの廃村を拠点とする事にした。修理して使えそうな家屋は一軒しかなかった。


「ここからパライソまで道を作るのは大変だから、とりあえずここらにしないか?人間もエルフもこんな所まで来ないだろうし」

ガーリーが言う。誰もが賛成する。


ティンクにパライソはあとどれくらいかを、聞くも、もう少し。あと少し。の言葉だけ。


「井戸が使えるといいが」

ゼリーが言った。井戸の周りには家屋を壊した大きな木切れで、重ねるように蓋がしてあった。隙間から井戸の中を覗く。冷たい空気が吹いて水はありそうだった。


ガーリーは石のゴーレムを産み出し、井戸の覆ってる木切れを片付けさせる。

「細かな命令はついてなきゃならん。娘達に探索と食事の狩りを」

娘達はそれぞれ分担して散らばった。


「人手がたくさん必要だな。ルッカはマゾンと一旦帰ってもらい、引越しの準備を」

ブランス村に休まず帰ったとしても五日はかかる。


「こりゃかなりの長期戦だな」

ガーリーは木切れをどかした井戸に魔法で水の小人を産む。井戸から水の小人がすぐに飛び出す。水の小人の中を覗く。

「飲めそうだな。ティンクどこだ?」

トゥリが来る。ティンクはトゥリから離れない。

「ティンクは水だよな?飲めるか知りたい」

ガーリーはティンクに言ったもののティンクは動かない。ティンクがなんか言おうとするのを、トゥリは手を広げてさえぎる。

「お願いだから調べて」

ティンクは水の小人を触った。


「大丈夫よ。一言だけ言わせて。ティンクはトゥリの言う事しか聞かないから」


水さえ大丈夫ならなんとかなる。ガーリーは一息ついた。


クロとヤミがヘビやウサギを狩ってきた。ウォッタが魚を何匹も。食料は森か川さえあればなんとかなる。

寝る場所も娘達は野宿に慣れている。

娘達が生活において不満は一点、お風呂。以前からその事を知ってたガーリーは先にお風呂を作る事に決めた。ルッカとマゾンは居ないし、町造りは人を呼ばないと何も出来ない。それに服も布も多くない。洗濯も必要。


石のゴーレムに掘らすべきか、土を操作すべきか。

魔法を産み出すのに呪文はさほど重要ではない。心像を脳で発着させるのが呪文。それよりも産まれる魔法を頭の中で、どれだけ具体的かつ現実的に想い描けるかが重要である。

回復や催眠の効果も実際これくらいの強さだとこれくらいの効果だと想い浮かばなければならない。大きく間違えると半減したり効きすぎたりする。慣れないと、心像を想い描く時間もかかる。


ガーリーは魔法を想い描くのは慣れてるので、土のゴーレムを産む過程を辞めると土が途中まで掘るように出来る。ここからここまでの土を使う。と想った心像通りにやる。岩のゴーレムも然り、この岩は頭に。この石は腕に。といった具合に。炎や水はその点、楽に想い描ける。


ガーリーは娘達を集め、お風呂を作る提案をした。娘達は喜び、どのようなお風呂にしたいかを話し始めた。


ガーリーは、作る時はゴーレムがやるからな。と言って娘達の好きに造らす事にした。


トゥリが火に強い草があると言い、チッツとベリルは風呂桶を作ると言い出す。水に溶けない粘土の作り方はベリルが知っていた。ウォッタが川から水を引くために地形を調べ始める。リカヒはパンブゥという家の床などにも使う細長い木を切ると言った。

クロとヤミは辺りを探索すると言ってどこかに出掛けた。


ガーリーとゼリーはやる事がなくなる。仕方ないのでガーリーも半壊している家屋から何か使える物がないか探し始める。


ウォッタが川から水を引くのに、太いまっすぐなパンブゥの木を切る。パンブゥの木は皮が硬く中が空洞なので家の中へ引く水路として用いられる。トゥリとリカヒが必要な草木を採ってくる。チッツとベリルが泥遊びかと間違えるほど、たくさんの泥と水をこね、大きな風呂桶を造ってる。


ガーリーは娘達に頼まれた風呂用の家屋の土台作り。風呂場の場所を決めた地面の草を炎のオオカミで焼き払いゴーレムでチッツ達に言われた平たい石を並べ置く。積む順番や向きがあるらしく、この石はここ。ここにはあの石を。と、けっこう細かく注文された。


ウォッタとリカヒが途中まで切った木をゴーレムで切り取って持って来て欲しいと言われる。


娘達は汗をかき、土まみれになりながらも楽しく笑いながら作り上げていく。ガーリーはフィアが居ない事を凄く残念に思った。


ガーリーが手伝いをしなくてすむ時、ゼリーに「フィアはどうしてるかな」と聞く。聞かずにいられなかった。


「デルカリもマゾンの仲間もフィアを探してくれてる。何かあればすぐ連絡が来るはずだ。娘達には聞かれるまで言うなよ」

「分かってるよ。皆黙ってるだけでフィアの事は気にしてるからな」


「風呂作りが終わったら娘達に住まいも考えてもらおうか。忙しくさせとけばフィアの事を考える時間が少なくなるからな」


「そうだな。とりあえず焼け野原にして、真っ平らにしとくかね」


三日かかったがお風呂は完成した。ウォッタの作ったパンブゥ水路から水が流れる。それだけで娘達の声があがる。水は火に強い草と土を混ぜた四角い容れ物へ流れる。容れ物の下には焚き火。水はお湯になりそのまま風呂桶に溜まってく。ベリルも含め娘達は歓声をあげる。


屋根もあり取り外しが簡単に出来る壁も出来てる。


半露天風呂の完成。風呂桶から溢れ出る場所にはパンドゥで作った服洗い場。そして水は石溝へ流れてく。

焚き火をしなければ水は流れっぱなし。

薪小屋を作ろう。服を干す竿を作ろう。と娘達は次々と案を出す。


パパも入ろうと屈託無く言われるが、さすがに一三歳になる娘達。ガーリーとゼリーは断り風呂場から川へ離れる。


「八人のお風呂って名前にしよう」

ガーリーが離れ間際にリカヒの声が聞こえた。

ガーリーは小さな笑みを浮かべた。と同時に落ち着いたらフィアを取り戻しに行く事を考えた。


川には魚獲りの仕掛けが何個かあり、ウォッタがイケスも作り上げていた。すでに何匹もイケスには入っている。


小さな小屋にはクロとヤミが干し肉にするヘビやウサギが干してある。


次の日から人数を分けての探検に出かけ、夕方には戻って来て、のんびりとお風呂に浸かる。それから探索した場所の地図を埋めていく。

夕御飯を食べながら、石切り場になる場所や、大きな沼地。広い範囲の割れ目。野生の牛や馬がいる。それぞれが発見した事を言い合う。クロとヤミも思った以上に多く話をした。


探検する場所が広がるも平穏な日々が続く。

ある夕御飯の時、リカヒが言った。

「フィアはどうしてるかなぁ」


誰もが答えられず沈黙した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る