ラウジ街.1

何日もかけて街へ向かって歩く。その間にエバーからこの世界の事を色々と聞く。

人間以外の種族。魔物。魔法。そしてエバーが、この世界を平和にしたい事。フレイに手伝って欲しい。と言われた。もちろん私はうなづいた。


喧嘩が起きるのは種族がたくさんいるからだと言う。一つの種族になれば平和は必ず訪れる。とエバーは言った。


村人は優しかった?と聞かれ私はうなづく。他の種族、使い魔やボブゴブリンは?と聞かれ、私を食べようと襲って来た。と私は答える。


「人間だけの世界になれば、あの村のように平和な世界になるんだよ」

エバーは言った。確かに村人は誰もが優しかった。人間だけの世界になれば襲われる事はない。


一つ気付いた事を思いついた。言い淀む。エバーが言ってごらん。と言う。

「怒らないでね。人間だけの世界にするには他の種族を無くすんでしょ?ならエバーはどうなるの?スライムでしょ?スライムはケモノ?昆虫?」

「俺も最後には消えるんだよ。でないと不公平になるからね」

「ヤダ。消えるならこのままがいい」

私は言った。別にこのままでいい。エバーが居なくなるのは信じられないし考えたくもない。

「言い方が悪かったね。フレイの身体の中にいるよ。ずっと」


馬車が通れる大きさの道に出る。街はそろそろだな。とエバーが言った。


休憩してる馬車に出くわす。私はエバーの言う通りの質問をする。

「すいません。デルカリ商店を知ってますか?」

馬車の男達は顔を見合わせて、誰もが聞いた事のない名前だと口にする。

私は服とフードと首巻きはあるかと聞いた。


私はお金がよく分からず金貨や宝石の入った袋の中身を見せた。

男達が何か邪な事を考えるのが分かり、続けて言った。

「全部は取らないでね」


男の一人がうなづき、貨幣を何枚か取って私に戻す。


馬車から離れると、服を着替え、首巻きで口を隠す。これで私の口は見えなくなりエバーが話しても私が話したように見える。フードを頭から被り、剣をフードの中に隠し歩く。そのうち高い壁が視野に入る。


エバーが、ラウジ街だと言った。


人間の国は元々一つだったが、前王がわざと国を二つに分け息子二人に王の座を譲った。ザメリカ国とドシア国。この街はドシア国のラウジ街。

ここにドシア王や騎士、兵士達が住んでる。そうエバーに教わる。


街に入るには二つの門をくぐらなければならない。

人間である事。で一つ目の門は通れた。

二つ目をくぐるには、ドシア民の登録をしなければならない。

髪の毛の色から背丈、顔の特徴。産まれた地域。細かく書いて調べられる。


フレイ。十五歳。赤色の髪。栗色の瞳。顔に目立つ欠損箇所無し。産まれた地域不明。家族死亡。


私は文字を知らないのでゼリーが私の手を使い、年齢や育った経緯など嘘が通じる箇所は嘘を書いていた。


誤って魔法を使い記憶が無くなったの。と私は管理の人に答えた。私が女の子だからなのか同情の目を向けてくれる。私はしおらしく下を向く。

管理の人は登録証にハンコを押してくらた。


街への門が開く。騒がしい人の声が聞こえ、色鮮やかな果物や食材に食べ物。食器や武器を売る店が一列に並んでた。世界中の人間が集まったかのような人混みに、私は気圧された。

なるべく端を歩く。エバーが、

「お金を払うと寝泊まり出来る場所が宿屋と言う。まずはそこを探そう」

と言われて宿屋を探す。高いのか安いのか分からない。いくらのお金が私にあるのかも。


止まって。とエバーは言う。私は止まる。エバーが話す。

「すいません。一番安い宿屋はどこら辺に?」

私は慌てて話しかけた男を見る。

男は、「知ってるけど女の子一人だと危ない所だよ」と言いながらも教えてくれた。


安い宿屋。宿屋の人が、お湯は出ないよ。と言ってお金を無造作に受け取った。


私は部屋に入りやっと落ち着いた。

「街より外の方が楽だね」

とエバーに言った。


喧騒のない静かな裏通り。ときたま馬や羊の鳴き声が聞こえる。


「私はこの街で何をやればいいの?」

私は言った。ただ泊まるだけとは思えなかった。

「人間の女王になるかい?」

エバーは言った。女王なんてそんな簡単になれるものとは思えない。

「学校とか行くのかしら?」

とりあえず思いついた思考をそのまま答えてみた。

「学校入ってもなれないよ。まずは貴族に取り入るか、兵士になるか。それから徐々に王族に近づく。確実なのは王様との結婚だな。タランドゥスは独身だしな」

「どうやって貴族や王に近づくの?」

「簡単だね。恩を売るんだ」


どうやって恩を売るのか全く分からなかったので、あいまいにうなづいた。


「お腹空いたろ。フレイはまず人や社会に慣れないと。珍しいからって辺りを見渡し過ぎだよ。外でご飯を食べよう」

確かに私は人も景色もどれもこれもが珍しかった。


エバーに物の相場を覚えるんだ。と言われお店屋を丁寧に見回る。

甘い果物の飲み物と、小麦を練って焼いたパンを買い、道路に立って食べる。

行き交う人を眺める。子供はほとんど居なかった。子供連れは身なりが良かった。テニヤみたいに着古した服を着た子供は見なかった。


赤い顔をしてふらふら歩く男達。エバーが、あれは酒という気分が気持ち良くなる飲み物を飲んでるからだ。と説明する。


剣を携帯してる人は少なかった。鎧をつけ剣を携帯してる人が通る。街の治安を守るドシア国の兵士達だ。と教わる。


日が暮れ宿屋に帰り、翌朝早くにまた外に出かける。一日中外でフラフラと歩いたりしていたが村と違い、誰も私に声をかけなかった事に驚いた。


三日目は、外で食べる飯屋の椅子に座り、近くに座ってる人達の話を盗み聞きした。

商売の話が多かったが、他の街の事や事件、国政の話も聞けた。


「誰かを待ってるのかい?」

若い男が、私の前の椅子に座って言った。


エバーが何か言うかと黙っていたが何も言わないので、私は首を振った。

「昨日もここら辺に居たよね?何してるのかなって」

男は笑って言った。エバーは喋らない。

私はなんて答えたらいいのか分からず黙る。

「何歳なの?ここは初めてっぽいね」

男は私を気にせず語りかける。

「十五歳」

私はそれだけ答える。エバーの声を真似て低い声で言ったつもりだったが、全然似てなかった。男は何も言わず私を見つめにこやかに笑っている。


彼が何を考えてるか全く分からなかった。私は彼の考えを読もうとずっと彼の表情を見つめる。やっぱり分からない。悪い人ではなさそう。なくらいしか。


男がプッと笑った。

「君、凄いね。恥ずかしくないの?」

と男は言った。私は服装が変なのかと思い、自分の服を見た。他の人と同じだと思うが自信がない。フードを着てる人は他にも居た。


「僕をずっと見つめて平気なの?」

男は言った。別に平気だった。

「平気みたい」

私は答えた。男は大きく笑った。

「こっちが恥ずかしくなったよ。参ったなこりゃ。僕はヘルマン。ウェルカ通りのヘルマンと言えばたいがいの商人は知ってるさ」

愉快そうに男は言った。


私の手が勝手に動き耳を触った。エバーが私の手を動かした。

「デルカリの名前聞いて」

耳元でエバーが言う。

「デルカリ商店って知ってる?」

ヘルマンは首を傾げる。親切にも近くを通った荷車を引いてる男にヘルマンは聞いた。が、その男も知らないと首を振る。


「ブランス村は?」エバーの言う通りに聞く。

「知らないねぇ。ザメリカの方かな?君はそこから来たの?」

ヘルマンは知らない。

「マゾンは?」エバーの言葉通りに私は聞く。

「おいおい、そんなに質問しないでくれよ。今度は僕の番だ。君の名前教えてくれたらなんでも教えてあげるよ」


「フレイ」

私は名前を言った。

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