村へ

朝早くに洞穴を出てあてもなく歩く。その間に、人間という種族。村や街、道路、馬車。この世界の事。見かけた木や草、ケモノの名前などを教わる。昼過ぎにようやく人が歩ける小道を見つけ歩くと、小さな村を見つけた。剣をエバーに預ける。


エバーは私から降りて言った。

「欲しいのは食べ物と服だ。遅くても明日の昼までには会おう」

今まで私が食べた物はヘビの肉ばかりだった。私はうなづき村の中へ入った。


すぐに女の人に声をかけられる。

「魔物に襲われた」

と言うと、女の家へ連れて行かれる。お腹すいてない?と聞かれ素直にうなづく。


たくさんの野菜が入った温かい飲み物が出て来た。凄く美味しかった事に驚いた。食べ終わる頃には村の人達が集まっていた。


一人の女性が古着を持って来て、身体を洗った方がいい。と言ってくれた。私は、ありがとう。と答える。


お父さんやお母さん、他の人達は?と聞かれ、魔物に襲われ気付いた時は私だけだった。と答える。おばさんも村の人も私に同情してくれた。


近くの魔物の仕業だ。と村の男達が言った。

「倒さないの?」

と聞くも、無理。命がいくつあっても足りない。と返ってくる。


あそこの魔物に襲われたんだな。

夜、順番で見張りを立てよう。

戦士を雇おう。対価はどうするんだ?


私の前で村人は相談をし始めた。

おばさんが、襲われた子を怖がらせてどうするのよ。と怒る。


「ここから近く街を教えてください。私の知り合いを探します」

私は立ち上がって言った。


街はウラジ街しかないよ。馬車でも五日かかるんじゃないかしら。と言われる。何日かしたらウラジ街から商人が来るからそれまでここに泊まったら?。とおばさんは言ってくれた。私はうなづく。


私は、村を散歩する。人間を見るのは記憶になかったので、子供や大人、お年寄り、男、女、どの人間も珍しかった。


ヤギやヒツジ。オオカミに似たケモノ。馬。様々な家、柵、松明、クワ。育ててる野菜。私は近くにいる村人にそれらの名前を聞いて記憶に入れてく。どの村人も、私を気遣い丁寧に教えてくれた。


女の家に戻ってからも家具の名前を聞いた。女は不思議がるも、私の

「記憶が曖昧なんです。怖さで頭がこんがらがってたせいかも」

の言葉に納得してくれた。

「ママ、僕が教えるよ」と子供が言った。五歳になる男の子だよ。と、女から聞く。女の名前はママ。記憶する。

「僕はテニヤ」

とその子は名乗った。私も名乗る。

「フレイお姉ちゃんね。僕が色々教えてあげるから。これがチューイ。ネズミのお人形だよ」

とテニヤは、手にしてた人形を私に見せた。それからテニヤは小さな物まで名前を教えてくれた。


仕事から帰って来た男をテニヤはパパ。と呼んだ。ママが、私の旦那よ。と言う。テニヤは、違うよ。パパだよ。と言い返す。

ママとパパはお互いのホホにキスをした後、パパはテニヤを抱き抱え、抱きしめた。


どこかで見た記憶。目を強くつぶるが思い出せなかった。


皆で晩ご飯を食べる。テニヤがまた一つずつ食べ物の名前を教えてくれた。

食べ終わり、テニヤが私と一緒に寝たがり、ママも一緒に寝た方がいいわね。と言った。


干し草を詰めた布団。柔らかく暖かい。テニヤの身体も暖かかった。


「ねぇ、魔物ってどこにいるの?」

「よく分からないけど、絶対に入っちゃ行けない森なら知ってる」

「どっちの方?」

テニヤは布団から出て、窓の方を指差して言った。

「あっちだよ。でも危ないから行っちゃダメなんだよ」

私は「分かったわ。行かない」とウソをついた。


布団が柔らかいせいか寝付けなかった。私は起き上がり窓から外を眺める。まだ明かりのついてる家がほとんどだった。

テニヤがムクリと起き上がり、フレイお姉ちゃん、眠れないの?と聞く。私は、うん。と答えるとテニヤはネズミの人形を差し出した。そして、抱いて寝ると眠れるよ。と言った。


私はテニヤと人形のチューイを抱いて寝た。


朝、薄暗いうちに目覚めた。テニヤはぐっすりと寝ている。窓から外を見る。明かりのついてる家は一軒も見当たらなかった。私はコッソリと部屋から出て、ママの家から出た。早足でエバーの所へ向かった。


エバーは私が来るのを分かってたらしく、剣を持っていた。

「その手にあるのはなんだい?」

誰かに見られないように夢中でテニヤの人形を持ったまま来てしまった。


「この近くに魔物がいるみたいなの。私がどれくらい強くなったか試してみたい」

エバーにはそう言った。その気持ちもあったけど、優しくしてくれた村の為にやっつけたい気持ちが強かった。


「俺は助けないよ」

「大丈夫。負けないから」


魔物の棲み家がある森へ入る。魔物道が見つかる。おそらく魔物はボブゴブリンで、そこそこの数だと分かる。少なければこれだけ踏み潰された魔物道は出来ない。


「けっこう居そうだ」

エバーも気付いて声をかける。それでも私は負ける気は全く起きなかった。それよりもせっかくもらった服が汚れてしまうのを心配した。


ボブゴブリンの奇声が聞こえてくる。私が近づくのに気付いてる。

まだ棲み家が見えないのに、何匹かのボブゴブリンが襲って来る気配。私は服を脱いで半袖になる。服を汚したくなかった。


服と人形をエバーに渡し剣を抜いた。


五匹。木をうまく盾にして横に回り、ボブゴブリンのコメカミに突き刺す。引き抜きた勢いを利用して次のボブブゴブリンの頭めがけて斬りつける。頭半分が離れる。

後ろから襲ってきたボブゴブリンのお腹を蹴る。ボブゴブリンは吹き飛び木にぶつかり跳ね返ってくる。その頭を斬る。頭が二つに別れる。服に血がつく。怒りが沸く。


残り二匹のボブゴブリンが逃げ出す。私は剣を投げた。ボブゴブリンに当たり胴体に突き刺さる。残りの一匹は逃げられる。私は剣を抜き、逃げ出した方へ歩き出す。


棲み家からたくさんのボブゴブリンが出て来た。私は服についた黒い血を見る。怒りを力に変えボブゴブリンに向かって走り出した。


二匹まとめて剣を大きくふるった。二匹同時に頭が斬れる。ボブゴブリンのお腹を蹴り上げ、その反動のまま後ろに下がる。近くのボブゴブリンに斬りつける。


疲れはない。剣が思っている以上に軽い。突き刺した方が早いと思い、下がりながら飛びかかってくるボブゴブリンの頭や顔を次々と突き刺していく。


エバーは何も助言を言わない。多分正解な戦い方だと理解した。私が下がるたびに足元にボブゴブリンの死体が増える。


残り数匹。疲れは全くない。私は強くなったのを確信した。木に向かって跳ぶ。反転しながらボブゴブリンを飛び越え、後頭部を斬り裂く。着地時に目の前に居たボブゴブリンの頭に剣を振り下ろす。ボブゴブリンの身体が綺麗に二つに別れる。


冷静に動けてる自分に笑みが浮かぶ。


ひときわ大きなボブゴブリンが二匹。怒りに満ちた目を向けてる。

一匹が片手を振り上げ、私の頭めがけて振りかぶるのが分かる。私はボブゴブリンの肘に手を当てて身体を反って受け流しながら、片方の握ってる剣を下からアゴに突き刺す。

アゴから頭に突き抜けた剣。アゴからあふれ溢れる血。腕にしたたる前に剣を引き抜く。


もう一匹の主。体当たりをしてくる。私の高く跳び上がり、ボブゴブリンの頭の上を飛び越える。振り向いたボブゴブリンの首を横に振り斬る。

地面に頭が転がり落ちる前に私は下がった。首から血が勢いよく吹き出す。


息切れ一つなかった。


「どう?」

私はエバーに聞いた。

「凄いよ。きちんと力も身体も剣も使いこなせてる」

エバーは褒めた。私は下着を脱いで血をぬぐい、エバーに預けた服を着た。

「けっこう歩くけど街に行けるみたい。行ってみたいわ」

私は言った。

「ちょっと待って」とエバーは言い、棲み家の木の下にある複数の穴に触手を伸ばした。やがて何かを持って来た。

「ボブゴブリンとか魔物達は光る物を集めるんだ。ほら」

と、私に金貨や宝石を見せた。

「これはお金と言って服や食べ物を買ったりする時に使う。宝石もお金になるんだ」


ボブゴブリン達の奇声で村人達が様子を見に来るはず。私は石の上に人形のチューイと、そして金貨と宝石を半分置いた。それからエバーを首に巻くように乗せて歩き出した。



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