対価

動きたくなかったが、身体が勝手に咳き込んだ。痛みが来ると思い私は絶望で泣きそうになったが痛みはこなかった。どれくらい数えたのかも忘れて私は起き上がる。

剥がれた爪が何個も地面に落ちていた。でも手の爪は土で汚れていたが生えていた。


大きく息を吸って吐いた。また咳き込む。足も身体も泥まみれだった。痛みは無かった。


エバーが「俺の名前は?」

私は、エバー。と答える。


変わった事は?と聞かれるが、違和感は感じない。変わってないかもしれない。ただ痛みの思考が強い。少しでも気を許すと吐きたくなる。すこぶる気分が悪い。


「私は?」

痛みを誤魔化す為に聞いた。エバーが勘違いしたのか、

「髪の毛が濃くなったせいか赤色になったよ」

と視覚的な変化の事を言った。私は髪のエリを見る。汚れてるが確かに赤く見える。前はもっと色が薄い金色だった。


「痛みの記憶が強いのか?魔法使うかい?少し減らせるかも」

私はうなづく。使って痛みが引くなら使いたい。

「爆炎の魔法を」のエバーの言葉に私は唱える。


「火の精霊よ我の元で集群し[爆炎]となりて創産せよ」


唱えながらニワトリを心像に想う。


私と同じ背丈の炎に包まれたニワトリが産み出された。沸き立つ炎をまとっていた。

熱いけど我慢出来る熱さだった。火傷するはずの近さだが、手も髪の毛すらも燃えてない。熱気で息がしづらかった。私は炎のニワトリを触る。泥にまみれた服に火がつく。


「消して」のエバーの言葉に炎のニワトリを消した。燃えてる服を手で払うが消えない。服を引き千切って捨てる。下着姿になる。


「どう、痛みは?」とエバーは大きな布をくれた。私は布を羽織り言った。まだ頭の奥にしこりの痛み。

「もう少しかな。でも大丈夫」

マシにはなった。

「魔法を産み出してからの時間を覚えておくんだ。産んでる間も記憶を失ってるからな。この痛かった記憶を思い出しながら産めば、痛みの記憶を対価で魔法が使えるはずなんだ」


私はうなづくがそれよりも力の強さを試してみたかった。

近くの大きな岩を持ち上げる。思った以上に軽かった。私はエバーを見た。エバーは、強くなったみたいだね。と言った。


「殴ってごらん」

エバーの言葉に、最初は軽い力で殴る。痛いがあの痛みに比べたら痛みとは言えない痛さ。徐々に力を入れて岩を殴る。拳の皮膚が破けるもすぐ治ってくのが分かる。


エバーが身体に入った時の痛みを思い出し、覚悟を決めて思い切り殴ってみた。痛みが拳から肩まで貫いた。大丈夫。痛みは我慢出来る。


拳の骨が砕けたのが分かる。肩が外れたのが分かった。そして岩が砕けた事も分かった。


腕の中で骨が治ってくのが分かる。破けた皮膚が元に戻ってく。


私は皮膚が治るまでずっと腕を見ていた。腕を触る。肩を回す。いつもの腕だった。


「もっと強くなれるのかな?」

私はつい言葉に出したが、もう一度あの痛みを味わえば確実に気が狂うと思った。

「充分強くなったよ。もっと強くなりたいの?」

私は首を振った。二度と味わいたくなかった。


「よく耐えたね」

エバーは優しい声で言った。そこで初めて、エバーの事を思った。私に身体をくれたエバーはどうなってるのか?と。


「エバーの身体は大丈夫なの?」

「俺は大丈夫。痛みは感じないし、いつもと変わらない。そろそろ名前を考えようか」

エバーの言葉に炎のニワトリを触った時を思い出した。

「フレイ」

私は考える前に言葉が出た。


「フレイか。いい名前だね。フレイの身体に入った俺の身体はもうフレイの物だ。フレイの血や肉と融合したから離れる事はない。フレイの強さは肉体的な力だけじゃない。あの痛みに耐え抜いた精神が強さなんだよ」

エバーは言った。

「俺がこれから何をしたいか話すよ。その前に身体を洗おう。土まみれだよ」

私はエバーの言葉にうなづいた。

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