あの時の坊や
「ではバラム社長。これにて依頼は完了とさせて頂きます」
白眼を剥いて失神したリカルドの身体から手を離し、姉さんは宣言した。
「後は法に引き渡すなり私刑に掛けるなり、御随意に」
「……いやはや、驚いた」
純白のワンピースに付いた埃を払う姉さんに、バラムは感嘆の声を上げる。
「魔女の秘術というのは、一体どういうものなのだね。パメラ殿、ぜひ教えてくれんか」
「あら。残念ですけれど、社長ならワタシが何と答えるかなど予想が付くと思いますが」
「……企業秘密、か。そうだろうよ」
稀代の経営成功者は愉快そうに笑う。
「もっとも。社長の信念に基づくなら、この世に金で買えないものはございません」
「ほう。幾ら出せば売ってくれるね?」
「今のアナタの全財産」
バラムは真面目に思案する様子を見せた。
「……ちなみに、不死や若返りの法はあるのかね?」
「そこまでは残念ながら。今ある技術は不老の法までですね」
「なら止めた。割に合わん。この老いた身体でゼロから稼ぎ直しは酷だし、そこまでせんでも既にシンシアがおる。ウロボロスは無限に
何かに気付いたかのように、老人は姉さんの顔を改めてまじまじと眺める。
「パメラ殿。儂は最初に、そなたの母親の所在を聞いたな?」
確か、そうだった。知り合いに似ているとかなんとか――。
「実は儂が若い頃、放浪の旅人を自称する女性に一夜の宿を貸してやった事がある。その女は一宿一飯の礼にと、当時の鉄鋼業界では斬新な画期的工法のアイデアを授けてくれた。それが大成功して特許を取ったのが切っ掛けで、儂の経営者としての道が
「くははっ」
姉さんは。
きりきりと首を曲げて、
「やっと気付いてくれたわね、あの時の坊や。50年振りに、また御馳走してもらおうかしら」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます