『友達ごっこ』

姉さんとわたしはその夜、街の片隅にある料理屋で夕食を摂った。ついでに言うと、ちびの『回天守護士ハイ・ガード』レイもちゃっかり付いてきて三人での晩餐となった。


細身ながら大変な健啖家である姉さんは分厚いステーキを赤ワインで流し込み、わたしは好物であるパスタをちゅるりと優雅に啜る。レイは焼き魚や味噌スープや漬物といった小皿を盛り合わせたよく分からないセットメニューをぱくぱくと抓んでいた。レイの生まれた国の郷土料理であるらしい。しかし食べながら『まあ美味しいけどさ、肝心のコメが無いじゃん』などとぶうたれていた。コメは南大陸の一部に出回っているどマイナーな穀物であるから、こんな街で食べられるはずもない。


食事の最中、レイとは色々な話をした。それぞれの近況報告、貸し借りしている『禁書バン』についての雑談、互いの身長の伸び悩みについての議論、姉さんとわたしがどれだけ偉大であるかというありがたい演説などなど。


「……こうして偉大な姉さんとわたしの華麗なる活躍により、シレーヌス孤島連続殺人事件は無事に解決し、悲恋の湖伝説はその幕を閉じたのだ。どうだ、凄いだろう」

数週間前に起きた大事件に関わった時の話を語り終え、わたしは胸を張った。

「ふうん。すごいねえ」

レイはこくこくと頷く。

「……でも、思うんだけどさ。それって結局、お姉さんが全部一人で事件を解決したんだよね?」

「にゃにっ!」

「だって、今の話を聞いてたら、調査から証拠発見からアリバイ崩しから犯人捕縛まで、全部お姉さんの仕事だよ。ルナがやったことって結局、うっかりティーカップを割って屋敷の主人に怒られただけじゃん」

「お、お前。一体なにをお前……」

「前からずっと思ってたんだけどさ。お姉さんの仕事中、ルナは基本なにもしてないよね? むしろ見当違いのこと言って場を混乱させたり証拠品を壊したり、足を引っ張っているよね?」

「きえ!」

「ぎゃあ!」

わたしは即座にそのぽやぽやの頬をつねりあげる。


諸君、このちびは決して悪い奴ではないが、馬鹿なのが珠に瑕なのだ。偉大なわたしが姉さんの邪魔をしているなど、まともな思考回路を持っていればおよそ出来る発想ではないだろう。どうか今の戯言たわごとは聞き流して頂きたい。

「いひゃい、ルナいひゃい」

「うるさい! 口内炎が5兆個できろ!」

弾力性あふれる頬を抓りながら、わたしは無慈悲に断罪する。

普段は饒舌な姉さんは、ほとんど口を挟まずわたしとレイのやり取りを聴いていた。

本人いわく、わたしたちの会話を横で聞いているだけで愉しいのだという。


「ひどいよルナ。友達にはもうちょっと優しく接してよ」

気が晴れるまで抓り倒したわたしが指を離すと、レイはぷりぷりとむくれた。

「勘違いするな。あくまで『友達』だ。偉大なわたしと愚かなちびであるお前の間に、真の友情など決して成立しない。何度も言わせるな」

わたしは冷たく言ってやった。

そうか諸君には誤解しないで頂きたいが、わたしとレイは大して親密な間柄ではない。このわたしに、レイが一方的に懐いているだけである。初対面の時からやけに馴れ馴れしい口を利いてきた、この『焔ノ星』で六億番目くらいの偉大さしか持ち合わせない哀れな存在に、惑星第二位である偉大なわたしがの『友達ごっこ』に付き合ってやってるだけなのだ。


だから我々の関係性は、あくまで上辺だけのものである。諸君、どうか誤解しないように。


「……そうだったね。ぼくらの関係はあくまで『ごっこ』だったね」

頬をさすりながら、レイは神妙に頷いた。

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