第14話
「今日は俺が先に風呂行くわ」
「オッケー」
ソファーでダラダラと寝転びながら適当に返事をした。
何だか最近つまらない。何もかもがマンネリだ。
面倒な事ばかりだし
そんな事を考えていると僕のポッケで携帯が震えた。
「うわ……」
かかってきた相手を見て思わずげんなりする。
僕は携帯は2つ持っていてプライベート用と遊び用で分けてある。
プライベート用の方は豊とか、限られた人物しか知らない。
震えたのはプライベート用の訳で……
「何?」
無視してもかかってくる電話に渋々出ると電話の向こうは何やら騒がしい。
どうせまたキャバクラとかに居るんだろうけど
どうせかけてくるなら静かな所でかけてきてほしいもんだ。
「お久し振りだね、若。
来週、正確には3日後のパーティーは勿論出席ですよね?」
最悪な事にかけてきた相手と話してる相手が別ときた。
「顔見せればいいんでしょ。
ていうかさ、何入れ歯記念って。そんなもんでパーティーやるとかおかしいでしょ。」
「それを私に言われても困りますよ。
あぁ、あの小僧は連れてくるんですか?」
小僧。
それが誰をさしてるのかすぐにわかった。
「連れてかないよ。
必要ないじゃんか。」
「必要ありますよ。
もうすぐ若も跡目を継ぐのです。
側近として置くならば此方で色々と学ぶ事も多いですし
顔見世も必要です。」
言いたい事はわかってる。
それをしなきゃいけない事も。
だけど、僕の中で腹を括れてない。
出来るならば…彼を僕の世界へ、汚い世界へ連れて来たくはない。
あの世界へ行けば変わってしまう。
それが僕は嫌だ。
「本人は何て言ってるんです?」
「本人の意志なんて関係ない。
僕が連れてかなっ……豊!返せ!」
フッと手の中から消えた携帯。
バッと後ろを見れば豊が立っていた。僕の携帯を耳に当てて。
「お久し振りです。
はい。はい。勿論行かせていただきます。
はい、では当日に。」
会話が終わったのか僕の携帯を机に置いて隣に座る豊。
いつもはセットされた髪の毛が洗い流された事で見える頭にある傷。
「何で勝手に返事するわけ?
僕連れてかないからね。」
その傷から目を逸らしてクッションを抱き締める。
あの傷を見るたびに思い出す。
「連れてかなくても勝手に着いてくから。
ゆきこそ俺の事なのに勝手に返事してたじゃん」
豊は僕からクッションを奪い僕の頬に手を当てて無理矢理目を合わせようとしてきた。
「何をそんなビビってんだよ。
俺は離れない。もう決めたんだよ。
なのに、何でゆきがそんな怖がってんの?」
「…怖がってなんかない。」
嘘。僕は怖い。
他の物を失っても別にいい。
だけど、豊が居なくなるのは嫌だと思ってる。
だってこんな僕と一緒に居続けてくれるのなんて豊ぐらいなんだもん。
「嘘。怖がってる。
俺に嘘なんてつくなよ。すぐバレるんだから。
何怖がってんのか言って。
じゃないと、俺は何にもしてやれないじゃん」
真っ直ぐ僕を見つめる目はずっと変わらない。
嘘一つない真っ直ぐで綺麗な目。
唯一僕にその目を向けて僕を信じてくれた豊。
この目が濁るのが嫌だ。この目が無くなるのが嫌だ。
「……逆に聞くけどさ、豊はどうして全部捨てて僕に着いてくるの。
僕の世界へ来たっていい事一個もないじゃん。
笑顔の下で皆嘘をついて騙して嘲笑って…
いい事なんて一個もない。」
「どうしてって言われてもなぁ…
俺にとってゆきの隣が一番楽しいし
何だかんだほっとけないんだよ。
お前危なっかしいからさ。」
二カッと笑う豊。
「それに、ゆきの世界がどんな世界でも
俺にとってゆきが居れば何処だって変わんないよ。
それに約束したじゃんか。
死ぬまで離れないって。」
な?と僕のおでこにコツンとおでこを合わせる豊。
「今度は………死ぬかも知んないよ」
一度…豊は生死をさまよった事がある。
襲われた豊は拷問され僕を誘き出す餌として使われた。
僕が唯一側に置いている人だったから…
警備が頑丈な僕より手薄な豊を狙った方が簡単だったんだ。
あの日見つけた豊は血塗れで指や足は折られ顔も腫れ上がり一瞬誰かわからなかった。
生きてる事が奇跡だった。目覚めた事が奇跡だった。
僕のせいだった。
こうなる事なんてわかってた。
だけど、信用するのは怖くて何処までやってくれるのか試す為に汚い事もさせてた。
そのせいで豊の存在が公となってしまった。
少し考えれば、あの時の僕が冷静だったらすぐに分かることだった。
未だに豊の体には多くの傷痕が残ってる。
それを見る度に思い出す。僕が豊にした事を。
僕の平和な日常。 葉叶 @ht_25
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