第13話

最近僕の気分は全く晴れない。

純君を抱いても他の子を抱いても、ずっとモヤモヤしてイライラしている。

原因は何となくわかってる。


「あ、ゆきおかえり。

あのね、ご飯作ったんだけど……貰ってくれる?」


「いらない。豊の食べる。」


自分の部屋に帰ると要が来るから豊の部屋に逃げ込んだけど

遂には、豊の部屋の前まで出没するようになった。


「おい、せっかく作ってもらったんだから貰えよ。

要、これ俺が責任持って食わせるから。」


「イタっ!ちょっと殴るの止めてくれる?」


ビシッとチョップされて豊の腕に噛み付いたりしてみたけど全く効果ない。


「う、うん。今日はゆきが好きだって言ってたの作ったから。

それじゃあ、また明日ね。……ゆき、好きだよっ」


そう言って走って去っていった。


「お前僕の味方じゃないのかよ。」


「ん?味方だよ?

だけど、料理だって簡単に作れるわけじゃないからな。

何か入ってないか怖いなら俺が毒味しようか?」


「僕のご飯は?」


「コレ」


タッパーを指差す豊。


「……毒味してくれるなら少しは食べてもいいけど

僕の分のご飯作って!」


「仕方ねぇな。」


ご飯を待ってる間鳴り続ける携帯をぼーっと眺めた。


「そろそろ……潮時かな」


鳴り止むことがない携帯は次から次へと通知を残していく。


会いたい。

今どこにいるの?

どうしてみてくれないの?

嫌いになった?

ごめんなさい。

大好きだよ。


皆同じような事を何度も何度も送ってくる。

聞き飽きたセリフ。自分の欲を押し付けるだけのまるで自慰行為だ。

そうさせたのは僕だけどさ。

だけど、見る度にガッカリする。

好きなんて言葉一番信用ならない。


「うわ、相変わらず通知がえげつない携帯だな」


「携帯として機能できないんだからただの鉄の塊だよ。」


通知が鳴り止まないからすぐ充電切れるし。


「ほい、リクエストの飯。

先に要の食ってからな」


早速豊のご飯を食べようとする僕を制して要のご飯を毒味する。


「何も入ってねぇよ」


「まだわかんない。

媚薬とかなら即効性じゃない場合もある。」


僕を好きだなんていう人は何処かしら頭がイカれてるから髪の毛や血なんて序の口。

自分を食べてと指を切り落として混ぜた奴もいたっけ。

他にも興奮剤や媚薬や眠剤が盛られたりもしたし。


「それなら後で一口は食えよ」


「覚えてたらね。」


豊のご飯を食べながらうるさくメッセージや着信を残してくる人のトークルームを開く。

開いた瞬間怒涛のメッセージラッシュが始まった。


「何してんの?」


「んー?うるさいから捨てようかと思って」


さよなら。ご元気で。それだけ書いてブロックして携帯を閉じた。


「あー、なるほどね。

そういえば、あの子どうなってんの?名前忘れたけど依頼で勝手に拾ってきた子」


「純君?んぅー……多分もう時期バイバイかなぁ。

飽きちゃった。それに、そろそろ周辺整理しとかないと面倒な事になるし。」


「あー……そういえばそうか。」


来年には僕達は卒業する。此処からは進学組と就職組で道がわかれる。


「豊は、本当にこれでいいの?」


当初進学志望だった豊。

それを辞めて就職組に変わった。


「良いんだって。

ゆきが居ねぇと何だかんだつまんないからさ。

それに言ったじゃん。嫌がられても死ぬ迄側に居るって。」


ヘラっと笑う豊。

僕と居る為に、豊は沢山の物を手放してきた。

そんな豊に僕は失った物以上のものを渡す事を出来ないでいる。


「僕と出会った事後悔してないの?」


「後悔?何で?」


「だって、僕と居る為に豊は未来も友達も家族も手放してきたじゃんか。

僕と出会わなければ手放さず済んだことでしょ?」


「んー、それは捉え方次第じゃね?

だって、本当に手放したくなかったらきっとどうにか両立出来るよう立ち回ったと思うし

天秤にかけてゆきの方が上だった。ただそれだけ。

手放した事も出会った事も後悔なんてしたことねぇよ」


「本当変な奴。」


豊は変な奴だ。こんな僕に何年も何年も付き合って全てを捨てて、ただ隣に居てくれるんだから。


「優しい奴って言えよな。」


二カッと笑いながらハンバーグを頬張る豊。

……未だに迷いがあるのは僕か。





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