第12話
ガチャッと玄関が開く音がした。
遅かったなーなんて思いながら目を腕で隠したまま豊が入ってくるのを待った。
「ゆき………起きてる?」
聞こえた声は豊のモノじゃなく僕が今一番聞きたくないものだった。
「何で居るの?」
僕は起き上がって要を見た。
豊の野郎、出てくなって言って本人連れてくるとか本当にないんだけど!絶対後で料理本全部燃やす!!
「豊に聞いたんだ。
あ、あのね、僕ゆきに話したい事が…あるんだ。」
「僕はない。」
胸がざわつく。要が話すだけでイライラする。
「っ……ゆきはなくても僕はある!
あ、あのね豊から聞いたの。ゆきが僕が嘘ついたと思ってるって」
アイツ何処まで話したんだ?
よし、料理本だけじゃなくて映画も消そう。
「それが?本当の事じゃん。」
「ち、違う!いや、違くないけど
ゆきが嫌いな訳じゃないの」
「何?言いたいことあるならさっさと簡潔に言って。
僕回りくどいの嫌い。」
そして、早く帰って欲しい。
僕の前から消えてほしい。そしたらきっとこの胸のざわめきも消えるから。
「ぼ、僕っ!ゆきがすきっ!
豊達に対する好きとは違って…恋愛としての好きなの…
ゆきが好きでっ…好きでっ…僕以外に触れないで欲しい、僕を好きになって欲しいっ」
泣きながら顔を真っ赤にして真っ直ぐ僕を見る要。
「何であの時誤魔化したの?」
「だって…っ…ゆきの傍に居たかったっ…
知られたらっ…傍に居られないじゃん!
そんなのっ…嫌だった…」
「僕、好きとかよくわかんないけど
そんな事で突き放したりした事ないけど?」
何でそんな変な誤解が招かれたのかわからない。
それに一度嘘ついた要の言葉が本当なのかわからない。何か企んでる?
「でも、ゆきは誰でも抱くけど…っ飽きたら二度と視界には入れないじゃん!僕は嫌なんだよ!
それなら友達としてでもいいから傍に居たかったんだよ!」
「それ否定しないけど、正直言って今の要の言葉僕にとって信用に値するかわからない。
一度嘘ついた奴はまた嘘つく。僕嘘つき嫌いなんだよね。
笑顔で誤魔化そうとする奴が一番嫌い。あの時の要みたいなね。」
何でだろう。
胸のざわめきはおさまったのに、どうして胸が痛むんだろう。
「僕は、要の言葉だったら普通に聞いたし多分考えたよ。
だけど、嘘つきな要の言葉を聞きたいとは思わないし考えたくもない。
それじゃあ、さようなら。道永さん。」
笑顔でヒラヒラ手を振ると傷ついたような顔をしてギュッと手を握る要。
何で胸の痛みが強くなるんだろう。
「っ……わかってる。一度嘘ついた事実は変わらない事も、失った信用がすぐ戻らない事も。
だけど、僕頑張るから。またゆきに信用してもらえるように行動するから!!」
僕が無視していると要と入れ替わりで豊が戻ってきた。
「騙しうちしやがって…仕返し絶対するから」
「連れてこないとはいってないだろ?
それで?どんな感じ?」
はいはい、と言わんばかりに俺の横に座る豊。
「どんな感じも何もないよ。
ただ僕の中で要という人間が居なくなっただけ。」
それだけなのに、何でこんなにズキズキと胸が痛いんだろ。病気かな?
「ふーん。ま、一応言っとくけど俺はお前の味方だから。」
ワシワシと乱暴に頭を撫でる豊。
何かムカつく。
「うるさい、裏切り者」
「はいはい、今夜は晩飯何にしよっかなぁ」
殴ろうとした僕の拳を止めてキッチンへとそそくさと逃げてく豊。
今まで僕に嘘をつかなかったのは豊だけだ。
約束すれば必ず守ってくれたし言ったことは必ず実行した。
まぁ、信用できるか試す為にそれなりに手を汚させたりもしたけど。
「肉じゃがと唐揚げにして!
デザートはフルーツヨーグルト!!」
「はいはい、それじゃあ大人しく待ってようね雪夏ちゃん」
「うるさい豊!!!」
僕が嫌がるのを知っていてワザと名前を呼ぶ豊にクッションを投げたけど
軽々とキャッチされクッションは没収された。
あーーー!もうムカつく!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます