シノブ「ちょっと世直ししてきます」

 Side 藤崎 シノブ


 僕と谷村さんは昼間近くのサカキ高校に潜入している。


 谷村さんならともかく、今の自分でも潜入工作員なみに内部に潜入することができる。


 しかも平日。

 母校の琴乃学園は休校だから自分達も平日にできた。


 ちなみにどうしてこうなったかと言えば・・・・・・



――今の僕達ならサカキ高校を制圧するのは容易いことだけど、あくまで目的は伍田一派を徹底的に潰すことだからね。


――あの手の輩は面子が大事だ。その面子を保つためなら何でもやる。


――最悪なパターンは僕達じゃなくて周りの皆が巻き込まれることだ。そうなってからでは遅い。


――だから何かしらの弱みを握って黙らせる。もう二度と悪さできないように暗示だの呪いだのの類いを掛けるのも後日やるとしてだ。


 もういっそ伍田達に暗示や呪いだの掛ければ済む話に聞こえるが谷村さんもその辺は分かっているだろうし、話の続きを聞くことにした。


――正直、サカキ高校があそこまで馬鹿やる連中だったとは思ってなくてね。ちょっと本腰入れて背後関係に探りを入れてみたらこわいこわい。


――その背後関係を潰すためにも破壊工作するのが今回のミッションだ。


 

 と、丁寧に解説してくれた。


 サカキ高校というのは裏社会との繋がりと言う後ろ盾があるので何でもやってしまう連中である。


 そのためにも手分けして、この一回の潜入ミッションでケリをつけるつもりらしい。


 僕にも声を掛けた辺り、谷村さんは本気なのだろう。


 衣装も特殊部隊がつけるような目だけが出ている布製の帽子でそれっぽい。


 そうして昼間近くのサカキ高校への潜入ミッション。

 物音の遮断、認識阻害、光学迷彩系の魔法などをかけている。

 探知魔法や鑑定魔法なども定期的に発動して周囲を探っていた。


「デジカメには証拠になりそうな物を片っ端から撮影するんだ。スマフォの場合は色々とリスクがあるからね。証拠になりそうな物は魔法の収納袋に入れるんだ」


「了解――しかしこれだけの装備一式どこで仕入れたんですか?」


 異世界で培った魔法の力があるとしても谷村さんはまだこの世界に戻ってから日が浅い。

 これだけの装備を準備できるほど、魔法もそこまで万能ではない。


「お金はちょっと近所で麻薬売りさばいている馬鹿から徹底的に巻き上げて工面した。麻薬も全部燃やしたし、もう表の世界でも裏の世界でも生きていけないだろうね」


「知らない間にそんな事してたんですか?」


 知らない間に慈善活動していたようだ。

 この勇者と言うより暗殺者寄りの人ならそれぐらいは簡単に出来るだろう。


「伍田の周辺の素性を探っていたらビンゴだよ。伍田への報復も兼ねて実行した――裏社会では口の軽い奴の寿命は短いからね。どの道アイツ、ロクな人生歩まないタイプだよ」

 

 影の勇者は元の世界でも健在らしい。

 俺は「地球に戻ってからも現役バリバリですね」と若干呆れつつも感心してしまった。


「ははは、そうだね。親には言えないな。さて――ここから二手に別れよう。体育倉庫などのとにかく物を隠しやすい場所、僕は校長室とかを探ってみよう。念話でやり取りして徹底的に悪事を暴いてやろう」


「了解」



 僕は谷村さんと離ればなれになって体育倉庫に突入したら色んな意味でビンゴだった。


 具体的に言えば見張り番を立てて男と女で盛っていた。

 見張り番を眠らせて、中に突入したらそのシーンにでくわした。

 面食らってしまったがなぜだか自分に気づいていない様子で――


(そう言えば魔法でそういう風になってるんだったな)

 

 その事に気づいて魔法で眠らせた。


「なに!? なんなの!?」


「ちょっと――どうしたの?」


 などと女性達が騒ぎ出す。

 彼女たちの視点からすれば怪奇現象が起きたように見えるだろう。


(本当はプライバシーを覗くような真似はしたくないけど――)


 鑑定魔法などをかけてプロフィールを覗き見する。

 女性達は金のためとか、脅されていたりとか様々だった。

 まあ中にはこいつらのどこに惚れたのか仲間もいた――化粧が濃い3人組の女達がそうである。

 

「落ち着いて、私達はこの高校の潜入調査に来たものです」


 と、暗示をかけて言った。

 潜入調査と言っただけで別に警察や公務員だとは言ってない。

 谷村さん直伝の詐欺の手口である。


「そ、そうなんですか?」


「もしかして警察?」


 などど自分と同い年ぐらいの少女達が次々と疑問を口にする。


「所属は明かせませんがサカキ高校の悪事を暴きに来ました」


 と、言っておいた。


――何か起きたの?


 念話で谷村さんから声を掛けられる。

 谷村さんぐらいなら最低でもここに複数人いて自分がそれと対面しているぐらいは分かっている筈だ。

 なので正直に答えた。


――そうか。念のためスマフォは回収して調べて。こっちも収穫はあった・・・・・・予想はしていたけど、どうやらここは暴力団の麻薬集積所も兼ねているみたいだ。また警察への賄賂の記録も残っている。


僕は思わず(うわぁ)となった。

自分達が言うのもなんだが、まるで映画か小説の世界だ。


――で? どうするんですか?


――とりあえず匿名で暴露してみよう。女の子を先導しておいてくれたまえ。  

 

――あ、それと予想通り倉庫に麻薬あったので回収しておきますね。

 

――デジカメで写真撮ってから、スマホと一緒に魔法の袋で回収しといて。


――了解


 そして段取りを決め終えた。

 


 女の子達はおそるおそる、服を整えて体育倉庫から出てきた。

 出くわした生徒は全員、即行で眠らせる。

 魔法もあるが念のため、谷村さんが準備していた電動ガンを使う。

 強化の魔法+催眠バフの特注式。

 つまり撃たれたら眠ってしまう銃である。

 気分は完全に特殊部隊。


 学校の校舎の方も騒がしい。

 たぶん谷村さんが派手にやってるんだろう。


「あの人もしかして特殊部隊の人かな?」


「いや、それにしても何かおかしい気が・・・・・・」


「一体何者なんだろう?」


 などと少女達が後ろで好き勝手に言う。

 そして裏門に到達した時、そこで谷村さんに合流した。

 普通の人間である少女達からすれば本当に突然現れたように見えただろう。

 谷村さんに本気でスニーキングされたら仮に魔法を使ったとして、近くじゃないと探知は無理だからな・・・・・・この世界では無敵だろう。 


「作戦は第一段階は終わりだ。ああ、君達は真っ直ぐ家に帰るように」

 

「あ、どうも――あいつらにまた」


「ふむ・・・・・・これも何かの縁だ。セイバー、どうしようか?」


 セイバーと言うのは本作戦時の俺のコードネームである。

 ちなみに谷村さんはアサシンである。


「乗りかかった船ですしね――あ、言われた通りスマフォは全部回収しておきました。逆に弱みを握り返せばよろしいかと――ただ、その、」


 そう言って少女達に目配せする。

 このスマフォには少女達に好き勝手していた際の、脅迫写真も大量にあるだろう。

 その事を思うとなると――


「ああ、そう言うことか。ならば別のプランを考えるまでだ。破壊したまえ」


「え、でも」


「多少手間が増えるだけさ。」


「わ、分かりました」


 取りあえず電気を流してスマフォの内部データーを全部破壊した。

 それを見て少女達は呆気にとられたようだ。


「あの、本当にいいんですか? それ証拠になるんじゃ?」


「なあに大丈夫さ。あいつらたくさん悪事働いてるからね。証拠が少し消えても君達に二度と手出しをさせないぐらいどうと言う事もないさ」


「え――でも――」


「ここは信じて・・・・・・ね?」


(あ。谷村さん暗示使ったな・・・・・・)


 そうして谷村さんの暗示により、少女達は解散した。

 そして――


 

 サカキ高校で集めた証拠は一部を覗き(男の慰み者にされていた少女たちの事を除いて)情け容赦なく、全てネット上に暴露された。


 麻薬の在処。


 賄賂の金とその金の使い道と用途。


 学校ぐるみの裏社会との癒着の証拠の数々。


 さらに地元警察も相当腐敗していたらしい。

 

 その結果は――



 大スクープ、魔の高校の実体。


 裏社会との関わりが深い悪魔の高校。


 警察と裏社会の癒着。


 腐敗した地元警察署。


 まるで映画の世界!? 裏社会の麻薬、銃器の集積所と化した高校!!


 学校の教員にも裏社会の関係者が!!


 テレビのマスコミ達も――


『助け出された少女達の証言からは政府の機関の人間ではないのかと』


『警察はこの件に関しては予想だにもしなかったと混乱している様子で――』


『本当に政府の介入があったのでしょうか?』


 とのことでテレビも大騒ぎだ。

 谷村さんによるとニュースにはなっていないが裏社会の人間や、サカキ高校の生徒が何人も行方不明になっているそうだ。


 逃亡したか。


 あるいは消されたかだそうだ。

 

 そんな情報どこで仕入れているんだか・・・・・・異世界にいた頃よりも恐いよ谷村さん。

 

 そうそう、

 

 あの不良三人組のウチのリーダー格は退学処分が決定。

 他の二人も自主退学した。


 これで琴乃学園も少し肩の荷は降りただろう。


 小河原君はこの一蓮の騒動を何となく俺達の仕業だと思っているっぽいが確信には至っていないようだ。


さらにつけくわえるなら、男の食い物にされていた名も知らない女の子のために谷村さん相当念入りに後始末していたようだ。


飄々しているようで几帳面なところあるからな、あの人。


 そして――


 

 母校である琴乃学園の休憩時間、俺達は事の顛末を確かめ合うように廊下に自販機が置いてある人気の少ない廊下で肩を合わせ、突っ立っていながら話し合っていた。


「サカキ高校はどうなるんですかね?」


「さあ? 大人達はともかく少年達は少年法が解決してくれるでしょ。僕達はある意味、警察の尻拭いしただけで後は知らないさ」


「つまり丸投げと」


 まあそれが妥当だわなと思った。


「もっと時間があれば騒ぎにならずにもっと丸く収まったかもしれないけど・・・・・・、まあ過ぎた話だ。これで正義の味方を演じるのはしまいだと思いたいけどね」


「そうですね・・・・・・でも、何かこう――叱られるかもしれないけど、気持ちよかった」


 僕はおそるおそる口にした。


「そうだね。僕も気持ちよかった。まあとにかく、こう言う厄介事は程々にして生きようじゃないか」


 その言葉に僕は一瞬驚いた。

 てっきりお叱りの言葉を食らうかと思ったからだ。

 僕は「そうですか」と返し、続けてこう言った。


「これで終わればですけどね。何かそんな気がしないんですけど」


「ははは。実は僕もだよ。平穏な人生もいいけど多少刺激的な人生もいいね。いっそ二人でチーム組んで世直しでもしてみるかい?」


「ははは・・・・・・まあ積極的にはやりたくないですね」


「それぐらいで丁度いいと思うね、僕は」


 僕も「そうですね」と返した。

  

「さて、祝勝会でもやろうか」


「それ暴力団とかサカキ高校とかで巻き上げた金ですか?」


「本当は燃やすか寄付するかで悩んだけど、金は金さ。使いすぎないように定期的に散財して経済回すぐらいに考えよう」


「なんか今度は自分達が一気に悪い人間になったみたいですね」


 まあ異世界にいた頃から山賊とかの金品巻き上げたりしてたから今更ではあるのだが。


「痕跡は消して回ってるけどあんまりハメを外すと警察に睨まれる恐れはあるからね。国家権力なめちゃいかんよ」


「じゃあ程々に、ですね」


「そう程々にさ」


 そして俺達は教室に戻った。


 今日の祝勝会が今から楽しみだ。

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