北川 舞 先輩からの依頼その2

 Side 藤崎 シノブ


 =放課後・近所のファミレス=


 男二人に女一人。

 奇妙な組み合わせだ。


 場所は近所のファミレスのボックス席。

 俺達は私服姿で目の前にいる私服姿——大人っぽい背格好の北川 舞先輩をみる。

 長い黒髪。

 切れ長の瞳。

 お上品そうに上下を微妙に色合いが違う婦人服で揃えている。

 あまり肌を晒すのは苦手なタイプなのか。


「まさか依頼を引き受けてくれるとはね」


 と、言いながらカフェオレを口に含む舞先輩。

 舞先輩は「意外と悪くないな」などと小言を言う。 


「依頼のストーカーの件についてですけど」


 谷村さんが口火を切った。

 俺は黙っておく。


「正直アナタの家の権力でどうかになる問題では?」


「おや? その様子だと私の家について心当たりが?」


「ええ。長谷川さんとも顔見知りだと」


 ここで俺はピクッとなった。

  

 長谷川さん。

 長谷川 千歳。

 見かけはスーツを着た、自分と同い年ぐらいの少年だが、アレは自分達とは違う種類の怪物だ。

 出る作品のジャンルが違うとも言う。

 金融絡みの作品とかで活躍しそうな。そんな感じの人だ。


 そして目の前にいる北川 舞さんも。

 失礼ながら鑑定したが本名ではないらしい。

 谷村さんも気づいているだろう。


「それに最近、学園のセキリティ―—琴乃学園のですけどね? がランクアップされたのも北川さんにご関係が?」


 前持って谷村さんから知らされていたが、学園のセキリティは目に見えないところで変わった。

 てっきり谷村さんが手を回した物かと思った。

 だが違うらしい。


 例えば、見回りとか。

 軍用犬を引き連れて巡回したりとか。

 そして調べてみれば出るわ出るわ。

 近くのマンションの空き家にも完全武装の兵士がいた。

 鑑定してみるとライブラの差し金ではなく、ディフェンダーと呼ばれる組織の人間らしい。

 テッキリ谷村さんが雇った民間軍事会社か何かかと思ったが、よく鑑定してみると、どうも違うらしい。


 それを言うと北川さんは―—


「その様子だと私の正体についても気づいてそうだね?」


「ええ、まあ。このレストランにもアナタの手が?」


「察しがいいな」


 そう。このファミリーレストランにも北川先輩の手が回っている。

 この様子だと自分達が何時も通っている場所、何時も利用している場所などは、そうなっていると考えた方がいい。


「ではストーカーの件ですが」


「ストーカーについてはいる事はいる。自分の手で処理してもいいが―—」


「メリットは?」


「ライブラ絡みの事件の隠蔽工作をしてやる。それと家族と安心安全に学校を通えるのも保証しよう。両親が路頭に迷う心配もしなくても済む」


(話がどんどん大きくなって物騒になってる!?)


 谷村さんと北川さんとで交わされる言葉がどんどんエスカレートしている。

 スパイ映画か何かのやり取りだ。


「だが日本橋での事には手は出せない―—いや、出したくても出せない―—」


 ここに来て弱気な北川さん。


「何故です?」


 笑みを浮かべる谷村さん。

 分かってて言ってるなこの人。


「我々は日本橋と敵対するつもりはない。下手に噛みついて巨額の資金と共に、海の底へドボンとなりたくないんでね」


 と言って微かながら汗をかいている北川さん。

 北川さんの言った事はライブラの事だろう。

 

 カフェオレを一口含んで北川さんは


「あいつらの不幸は科学寄りの組織だった事だ。でなければ封印された魔王を四天王とその配下セットでこの世に解き放つような真似はせずに済んだものを」


 と言う。

 メイド喫茶「ストレンジ」の事だろう。

 さんざんな言われようだ。

 あの女店主に手出しするのは魔王にケンカを挑むようなものだ。

 異世界を魔王の脅威から救った勇者の俺が保証する。


 谷村さんは「ごもっとも」です。と返した。

 

「本題に戻ろう。ストーカーと言ったが、そいつの所属している組織が厄介でな」

 

「もしかしてT市のロボット絡みですか?」 


 俺が言った言葉に北川さんは虚を突かれたような顔をする。


「鋭いな君——その通りだ」


 当てずっぽで言ったが当たったらしい。


「実は闇乃君がその、ロボットを主力商品として扱う組織を追っているようでして―—」


 谷村さんがそう言うと北川さんは―—


「ああ、闇乃君の方にも別のエージェントをつけている」


 との事らしい。


「本当そのエージェントの支援として君達を送り込もうと思ったが、厄介なのは私を付き纏うストーカーのほうだ」


 そう言ってようやく本題に入る。


「自力で何度か対処しようとしたが返り討ちに合ってな。これ以上、被害を出す前に何としてもそいつを対処したい」


「それをたった二人の高校生に任せる話かな?」


 谷村さんが当然の返事を返したが。


「ライブラの大規模テロ計画をどうやってやったかは知らないが阻止した奴を普通の高校生と言えるのならね」


 こちらも正論で返した。

 俺はなんだかなぁと思う。


「どうします谷村さん?」


「僕は引き受けるよ」


「じゃあ俺も。一人より二人でなら、大抵の敵はなんとかなるでしょ」


「気軽に決めるね君達」


 北川さんに呆れられた。


「困ってる人はなるべく放っておかないのが信条でして」


 俺はそう返す。

 嘘はついてない。


「まあ、事務所の開業祝いだ。それに切り裂きジャック事件以降、どうもなんか辛気臭い空気が漂っていたし、ここらで派手にやりましょうか」


 と言う谷村さん。

 一番敵に回したくない人がやる気を出す程、敵にとって不幸な事はないだろう。

 まだ出会ってもないのに、知りもしないストーカーに「ご愁傷様です」と心からご冥福をお祈りした。




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