北川 舞 先輩からの依頼

 Side 藤崎 シノブ


 =放課後・琴乃学園・空き教室=


 日本橋は切り裂きジャック事件のせいでまだ厳戒態勢だった。

 警官の姿だけでなくマスコミの姿も目立つ。

 営業時間の短縮する店も多くあった。


 そして切り裂きジャック事件で騒いだせいか、創作物のホームズや、モリアーティ、切り裂きジャックが売れてるらしい。

 何だかんだで皆この状況を楽しんでるだろ……  


 まあそんな理由もあり、大阪日本橋は息苦しくなったのでちょっとの間、距離を置く事にした。


 今俺と谷村さんは空き教室を占拠して、半ば学校の事務所として活用している。

 執務席にソファーやテーブル。

 コーヒーメーカーや給油ポッドまで置かれている。


 更には大阪日本橋や秋葉原に繋がっているゲートまであった。

 学校の部屋を完全に出張所に改造している。


「T中学校の自殺事件、実は殺人事件。解決したのは日本橋のホームズ……か」


 空き教室に置かれた執務用の机に座り、新聞に書かれた記事——影司君が解決した事件を見つめている谷村さん。

 

 その事件は俺も知っている。

 影司君が解決したのもあるが、T中学校は俺達が通う琴野学園からそれ程離れていない距離だ。

 なので学校でも話題になったほどだ。


「T中学校って確か谷村さんが昔通ってた中学校ですよね?」


「ああ。まあ良くも悪くも何処にでもある普通の中学校だったよ」


「そこで自殺に見せかけた殺人事件を解決ですか」


「不審に思った生徒が影司君の評判を聞きつけて依頼したみたいだよ。そこからI市中学校の事件を一日も経たずに解決に導いたんだ」


 谷村さんは「問題はその後なんだけどね」と言った。


「何か分からないけど、ヤバイ組織が絡んできたらしくてさ―—」


「ヤバイ組織? ライブラですか?」


 以前の事件を思い出しながら言う。

 ライブラ。

 大阪日本橋で派手に暴れて、ドローンを満載したタンカーを首都兼に突っ込ませると言うハリウッド映画顔負けの大規模テロを目論んだ組織だ。

 その計画は俺と谷村さんで阻止した。


「今のところは何とも。日本政府にパイプがあって、それでロボットを主力商品として使うハイテク組織か―—まあともかく、その謎の組織のせいで暫く何でも屋は休業だってさ」


「そうか―—」


 ちょっと気になるのが元勇者としての性か。

 

「もっとも僕が住んでるI市でもピュアリア(〇リキュアみたいなの)みたいなの―—確か、エンジェリアとか出て来たりしてこっちも何かと物騒だよ」


「世の中、意外と不可思議で溢れてますね」


 異世界勇者がこうして二人もいるし、闇乃 影司君や日本橋の事務所がある雑居ビル真下に住んでいるメイド喫茶の女店主みたいな魔法使いもいるのだ。


 案外世の中と言う奴は日常の近くに非日常が溢れているかもしれない。


「不可思議ね。まあ現代科学が発達した今でも分からない事は分からないものさ」


 と言う谷村さん。

 谷村さんが言うように、現代科学が発達した今の世の中でも、まだまだ謎が多く残されている事は沢山ある。


「まあそれおき、日本橋の事務所に依頼が舞い込んだ」


「本来、闇乃さんが引き受ける事件を俺達で解決しようと言う事ですか?」


「おや、探偵小説読んだせいで灰色の脳細胞が根付いたかい?」


「ただの勘ですよ」


 言っちゃ何だが、事務所はそんなに有名ではない。

 高校生二人とその関係者が自由に使える溜まり場だ。

 あってもメイド喫茶の女店主のヘレンさんか、長谷川さんからの依頼である。


 最後の依頼は大阪日本橋の切り裂きジャックの解決依頼、メイド喫茶の店主、ヘレンさんからの依頼が最後だ。


 それ以外の可能性となると付き合いがある影司君の依頼だ。

 そしてこの事務所は日本橋の事務所にも続いている。

 更に「日本橋の事務所に」と言った。

 だからそう思っただけで後は本当に勘である。


「影司君とその保護者からの頼みでね。留守にする間、困り事を引き受けて欲しいとのことだ」


「保護者?」


 そのワードが引っかかった。


「大宮 優君。彼を日本橋に導いた人間だよ」


 続いて谷村さんは「念のためだけど」と前置きしてこう言った。


「浮気調査とかは除いてあるよ。猫探しとかもね」


「どんな依頼が来たんですか?」


 俺は興味本位で尋ねた。


「北川先輩からの依頼だよ」


「北川先輩?」


 先輩と言う単語が出たからウチの学校の関係者だろう。

 そして北川先輩と言うと一人の女性が思い浮かぶ。


「念のため、聞きますけどあの北川先輩ですか?」


「そだよ。もう話題になってるみたいだね」


「才色兼備で実家は金持ち、遠目から見た感じだと長谷川さんと同じものを感じましたね」


「君もそう思うかい?」


 北川 舞先輩。

 長い黒髪のおとしやかそうな美少女。

 学力に関してもスポーツも非の打ち所がない。

 ちょっと喋り方に癖があるが、転校デビューにしては上々だろう。

 だが見た感じ、直感ではあるが長谷川さんと同じようなものを感じた。

 

 だからこそ疑問が多い先輩だ。

 怪しいとも言える。

 少々推理小説に毒されたかもしれないが。

 なぜこの学園を選んだのだろうかと思ってしまう。

 

 言っちゃ悪いが琴乃学園は不良にもなれない、だからと言って優等生でもない。

 俺みたいに教師の言う事はちゃんと聞いて、テスト勉強もほどほどにしてたような人間が来る学校なのだ。


 まあ谷村さんのような例外もいるが……


「さて依頼は——端的に言うとストーカーをどうにかして欲しいと言う奴だ」


「うわー」


 ストーカー。

 以前、体験したアイルドグループの事件を思い出した。

 あの時はケンカ屋軍団相手に大立ち回りして、最後は谷村さんがトドメ刺しに行って事件は解決した。

 今回もなんか、そうなりそうな気がした。 

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