切り裂きジャックからの挑戦状・前編
=昼・大阪日本橋=
Side 藤崎 シノブ
大阪日本橋の切り裂きジャック事件。
4人の女性の被害者を出したがとある何でも屋と、犯人と黒幕の誤算により、一夜にして解決された。
大阪府内の政治中枢にまで絡んだこの大事件はまだ終息の様子を見せておらず、連日のようにテレビとネットを騒がせている。
真相を聞いた時はまるでドラマか映画みたいな内容で耳を疑った。
その事件の解決者は谷村 亮太郎さん―—ではなく、闇乃 影司と言う絶世の美少女のような容姿をした、いわゆる男の娘だ。
可愛らしい顔立ちに白い肌に純白のポニテール、赤い瞳。
実際初めて目にした時は、中性的な声色や仕草も相まって驚いだ。
そもそも日本人なのかどうかすら怪しい。
転生者の線すら疑った。
今年で16歳であり、学校には通っておらず何でも屋さんをしているが世間では「かわいすぎる名探偵」として売り出されていて本人は不満そうだ。
現在カジュアルな格好をした闇乃 影司と一緒に組んで5番目の殺人を警戒している。
と言うのも、この厳戒態勢下の中で切り裂きジャックを名乗る何者かから挑戦状を叩きつけられたのだ。
それが原因で大阪日本橋の警察官は増え、現在厳戒態勢下になっている。
マスコミやジャーナリストも、まるで事件の発生を待ち望んでいるかのように大阪日本橋で報道や取材を行っている。
「まるで日本橋がベイカー・ストリートになったみたいだ」
と、今回の事件で一緒に行動を共にしている影司くんが愚痴る。
俺は「ベイカー・ストリート?」と、その単語に食いついた。
今回の俺はさながら探偵助手。
シャーロック・ホームズのワトソンみたいなポジションだ。
まあ何時も通りだ。
「他の国ではどうかしらないけど、日本ではベイカー・ストリートの名前を出すと、有名な探偵アニメの劇場版と連想して、切り裂きジャックを連想するみたいなんだよ」
「なるほど」
そう言えばネットで話題になっていたなと思い出す。
今世間はちょっとした切り裂きジャックブームであり、創作物の切り裂きジャック狩りも起きている変な状態だ。
まあ何時もの日本であり、ネットの発達も考えもんである。
「そう言えば谷村さんは?」
影司君がそう尋ねてくる。
「ああ、あの人も別のルートで事件を追っているよ。依頼は切り裂きジャック事件の解決だから依頼続行だって」
「僕も同じく―—」
実は俺と谷村さん、影司君は同じ依頼主から同じ依頼、切り裂きジャック事件の早期解決を依頼されていた。
「まったく、これじゃ切り裂きジャックのバーゲンセールだ」
「谷村さんと同じ事言ってるね」
「そうなの?」
「うん。あの人もゲーム影響で歴史だけじゃなく、推理物も嗜んでいるみたいで―—」
谷村さんの趣味の範囲は広い。
そう言えば谷村さんの好きなゲームのお話で19世紀のロンドンが舞台だったり、シャーロック・ホームズと、稀代の大犯罪者であるモリアーティがタッグを組んで新宿での異変を突き止める物語とかあったはずだ。
そして最近知って驚いたが、シャーロック・ホームズは空想上の人物らしい。
モリアーティもいわゆる創作物の人間だ。
何れもコナン・ドイルと言うミステリー作家が産み出したそうだ。
「そう―—まあ、たぶん今回の事件は流石に事件が起きずに取り越し苦労で終わりになると思いたいけど」
「ええ」
だけど起きないとも限らない。
その状態が一番厄介だ。
まるで大阪日本橋と言う街全体が人質に取られているようだ。
「悪戯電話した方の奴はもうすぐ捕まるとして、問題はこの空気に触発されて事件を起こすかどうかだ。これが読めない」
「俗に言う無敵の人による犯行ですね」
「そう。無敵の人による犯行は防ぎようがない。出来るのは厳重に警備を固めるぐらい」
無敵の人を含めて犯罪者の思考回路は常人のソレと考え方がまるで異なるので、例え厳重な警備下であっても起こす時は起こすのだ。
なんなら総理大臣の暗殺や暗殺未遂だっておきる。
物騒な世の中になったものだ。
「谷村さんから聞いた話なんですけど、切り裂きジャックって正確な殺害人数は分からないんでしたっけ?」
「ええ、19世紀ロンドンは治安が悪かったらしいです。だから正確な人数も分からなくて線引きが難しく、犯行手口が似ている5人がピックアップされているに過ぎないんです」
「なるほど――」
「さらに言えば、切り裂きジャックに該当する人物は複数人いると言う説が濃厚です。その点も日本橋の切り裂きジャック事件と共通する点ですね」
「ええ、ニュースやネットで知りました」
切り裂きジャック事件の犯人は複数人いるとされるのが通説らしい。
組織やグループぐるみと言う説から模倣犯、便乗犯による物もあると言う説だ。
ちなみに前回の切り裂きジャック事件もその通りだった。
「まあ何にせよ。電話して挑戦状叩き付けた方はスグに捕まるでしょうね」
「あれどう言う神経でやったんでしょうね?」
「まあ、犯人に聞いてみるのが一番ですね」
などと呑気に話しながら大阪日本橋を見て回る。
警察やマスコミの姿がとても目につく。
時折、影司君が写真求められたり、サイン求められたり、時にはこの事件について尋ねられたりした。
事件について尋ねられた時は「犯罪は起きないに越したことはない」と言うスタンスを崩さなかった。
その点については俺も同意だ。
もう切り裂きジャック事件は終わったのだ。
だから犯罪何か起きない方がいい。
しかしそんな気持ちを嘲笑うかのように5番目の事件が起きてしまう。
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