切り裂きジャックからの挑戦状・中編
=昼・大阪日本橋=
Side 藤崎 シノブ
場所は大阪日本橋。
南海難波駅の南口改札機近くにある男子トイレで見つかった。
被害者は20代の女性。
凶器は腹部を鋭利な刃物に刺され、トイレの便座にもたれ掛かるようにして亡くなっていた。
トイレのドアにはメイク用のテープが付着して外側から閉じ込められるようになっていらしい。
また靴下や靴を履いていなかったと言う。
着崩れが激しく、激しく抵抗した痕跡もある。
第一発見者はトイレの清掃員。
不審に思ったトイレの清掃員がメイク用のテープを剥がして中を開いたら―—と言う事だ。
こう言う時、有名人と言うのはお得だ。
影司君は探偵として有名らしく、事件解決に協力する事にした。
俺は助手と言う事になった。
事件現場は既に規制線が貼られている。
影司君はすぐさま監視カメラの映像をチェックした。
「なぜ女子トイレではなく、男子トイレに犯人は女性の遺体を捨てたのか? それも誰にも怪しまれずにどうやって? それが事件を解くカギだ」
と、影司君は呟く。
その問いに俺は―—
「犯人は男性で大きなスーツケースの中に遺体を入れてここに投棄した」
「そうだ。遺体を恐らく体育座りの様な姿勢にしてトランクに入れてトイレに運んで投棄した。だが犯人は男ではなく女の可能性もある」
「あっ、その可能性もあるのか」
今の時代はその気になれば男性が女性に変装したり、女性が男性に変装したりできる。
コスプレとかがそうだ。
男子トイレに死体を捨てたから男性だと言う考えは捨てるべきだろう。
丁度目の前でこの事件の真相について頭を捻らせている、美少女のような外見をしている影司君のように。
「この駅は空港と駅で繋がっていて大きなトランクを持って訪れる旅行客も多い」
「犯人はその辺の事情に詳しく、更には人気のいない時間帯も知っているって事ですか?」
つまり犯人はこの辺の地理や世情に詳しい人物となる。
「そう考えるのが筋だろう。死因は刃物による物、そして被害者は女性——切り裂きジャック事件を利用した何者かによる犯行だ」
「どうしてそんな真似を?」
普通の人間の思考回路ではない。
どうしてわざわざ切り裂きジャック事件を利用してまでこのトイレに捨てたのだろうか?
警察も無能ではない。
本気になって、死に物狂いで犯人を逮捕するだろう。
「その理由は分からない。だけど人を殺した人間がマトモな思考回路をしていると言うのは捨てるべきだ―—」
「う、うん」
僕も思わず異世界での事を思い出す。
初めての戦いの時はもう無我夢中だった。
まともでいられる筈がない。
だからまともではない手段を平然と実行できると言う言葉は説得力が感じられる。
「ここで重要なのが被害者の状態だ」
と言って影司君はこう述べる。
「被害者は靴下も靴も履いてなかった。そして激しく揉み合った。つまり人目に付かず、そう言う状態で殺害された」
「被害者の家、それも自室ぐらいですかね?」
激しく揉み合ったと言う事は人付き合いが希薄な現代社会でも近隣住民も異変は感じるだろうが、度胸を持って確かめに行く可能性は低い。逆に口封じで殺される可能性があるからだ。
そして被害者が靴下も靴も履いてない場所はそれだけリラックスできる場所。
可能性が高いのは被害者の家、それも自室。
「正解だ。被害者は一人暮らしでアパートの1ルームを借りて生活している。そこにはもう捜査員の調査が入ってる。だけど犯人は証拠隠滅を、あらかた終えていると思う」
そして影司さんはある動画データーをスマホに表示する。
手袋を嵌め、大きなトランクを持って男子トイレから出入りする男性の姿だ。
特徴もハッキリと分かるし、目元もクッキリと見える。
二十代の若い顔がいいホストのような男だ。
だが何処かで見た事がある気がするのは何故だろう?
「これが犯人ですか?」
「自分が一番怪しいと思ったのはこの人だ。僕はこの人を追う」
「追うってどうやって?」
人の出入りが激しい駅内。
そして大阪日本橋は様々な駅に繋がっている。
偽装するために違う駅に降りた可能性だってあるのだ。
これ以上足取りを追うには根気よく駅内の監視カメラを追って地道に捜査するしかない。
事件解決にはどれだけ時間が掛かる事やら。
魔法の力を使うにしてもどの魔法をどう使えばいいのやら。
もしかして何か方法があるのだろうか?
「幸いにして犯人はスマホを事件当時も持ち歩いていたようです。それを辿れば犯人に辿り着けます」
そう言って影司君は自分のスマホを見つめる。
思ったより科学的な方法で驚いた。
と言うかその方法大丈夫なのだろうか?
犯罪では? などと思う。
=昼・H大学=
前嶋刑事の愛車に乗って辿り着いた。
「たく、人をタクシー代わりに使って―—で? 犯人は分かったのか?」
と、前嶋刑事が尋ねる。
茶色い帽子にトレンチコート、白いカッターシャツに黒いネクタイを巻いていて、紺のズボンに黒色の革靴。
腕には今時珍しく銀色の腕時計を巻いている。
歳がいった古き良き昭和の刑事ドラマのデカと言った感じの人だ。
影司君とは仕事で協力し合う仲らしい。
その人にH大学まで運んでもらった。
ここに来るまで影司君はスマホと睨めっこしながら捜査し、情報を纏めていた。
チラリとスマホの画面を見た時は男性キャラのコスプレ写真を見ていて、疑問に思いながら尋ねてみると合点がいった。
ああ、そうそう。
途中、被害者の自宅——アパートの一戸建てに立ち寄って部屋を見たが証拠らしいものは何もなかった。
綺麗に掃除されているなとしか思えなかったが、机の下にあるカーペットが処分されていた。
つまりここが犯行現場である事は間違いないだろう。
ついでにスマホも無くなっていた。
なにかスマホに事件に繋がる重要な手掛かりでもあったのだろうか。
そして次に辿り着いたのが被害者が通っていたH大学だ。
影司君は前嶋刑事と僕とを引き連れ、H大学の生徒にコスプレ活動をしているサークル・部活について心当たりがあるか、声をかけて回る。
そうして辿り着いた場所は―—
=昼・H大学・文芸部=
文芸部のドアを開ける。
そこには数名の男女の部員。
そして辿り着いたのが文芸部だった。
文芸部と名前がついているが、実態は漫画・アニメ研究会のような感じらしく、ズラリと漫画アニメグッズにフィギュアなどが並んでいる。
突然の来訪にビックリする文芸部の面々。
その中に監視カメラの画像越しに見た犯人の特徴に一致する男性の姿はなかった。
しかし影司君は何を思ったのか一人の女性に近づく。
髪の色も違うし、背丈もあり、肩幅もあって胸の膨らみもある。
だがそれ以外は僅かながら特徴が一致した。
そして影司君はスマホを操作し、部室内に着信音が響き渡る。
バッグの中からだ。
影司の眼前にいる女性からだ。
女性は顔を青くしている。
「アナタが犯人ですね?」
影司はそう告げた。
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